中島健人が主演を務めるファンタジック・ラブストーリー映画『知らないカノジョ』。小説家希望の神林リク(中島健人)は、大学時代に出会った前園ミナミ(milet)と結婚。歌手になる夢を諦めたミナミのサポートもあり、ベストセラー作家となる。しかし、ある朝に目を覚ますと、リクがイチ編集者、ミナミは天才歌手の大スターとなっていて......。そんな、2人が出会わなかった“もしも”の世界を通して、愛の本質を描く本作のメガホンを取った三木孝浩監督に、見どころやキャストの魅力を伺いました!
(これはQLAP!2025年2月号に掲載された記事です)
まずは、三木監督が本作を手掛けることになった経緯や、作品作りで大事にしたことを教えていただけますか?
映画『きみの瞳が問いかけている』でご一緒した松下プロデューサーから「次はこんな作品でご一緒したい」と、原作のフランス映画『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』をご提案いただいたのが制作のきっかけでした。原作は“if=もしも”を描きながらも、「じゃあ、ifがない世界で生きている自分たちはどう生きるべきか」という部分にもきちんと向き合える作品で、背中を押してくれるステキな映画。日本で映画化するにあたっては、ヒロインをピアニストからシンガーソングライターに変更して、音楽に加えて歌の持つ力を物語にプラスするなど、オリジナル要素を交えながら作り上げていきました。
また、主人公は利己的な人間ですが、妻と出会わなかった“もしも”の世界に迷い込んでからは愛する人たちを思いやって行動していく。自分のためではない行動が事態を好転させていく部分は原作でも鍵になっており、そこは大事に描いています。この映画を見て、これから分岐点に立ったときに自分は何を大事にするのかを考えるきっかけになればうれしいです。

主人公のリクを演じる中島健人くんの印象や、リクを演じてもらう上で事前に話したこととは? また、ヒロイン・ミナミ役のmiletさんは映画初出演ですが、抜擢した理由とは?
健人くんとは共通の知人がいて、10年以上前から出演作をチェックしていたし、いつか一緒に仕事をしたいと思っていたので、やっと念願が叶いました。彼はストイックで、アイドルとして求められることに誠実に応え続けている方。リクは情けない部分があるので意外性はありますが、逆に彼が普段見せていない新たな魅力を引き出せるのではないかと思いました。演技も作り込むのはやめて、素の中島健人として、目の前で相手がした演技に対して素直に反応する、セッションのように作っていこうと話をして。最初は戸惑いもあったようですが、すごくモチベーション高く挑んでくれました。
また、ミナミ役のmiletさんはシンガーソングライターで、映画初出演。脚本を作っているときに、たまたまmiletさんのMVを撮ることになってお会いしたのですが、ミステリアスなイメージに反して明るい方で、ミナミに合うなと思ったんです。普段から歌に自分の感情を乗せて表現されているので、お芝居の表現も繊細でとても上手。その表現力の高さに驚かされましたね。


本作では、リクとミナミが大学時代に出会って結婚した世界と、2人が出会っていなかった“もしも”の世界が描かれますが、撮影で印象に残っていることや三木監督のお気に入りのシーンはありますか?
冒頭では、リクとミナミが大学時代に付き合って、結婚するまでが点描のように描かれているのですが、そのシーンはほぼアドリブ。そこで2人の距離を縮められたからこそ、“もしも”の世界でのリクの歯がゆさやミナミのよそよそしさは自然と出たのではないかと思います。
また、僕が一番好きなのは、“もしも”の世界で出会った2人がレストランで話すシーン。元々いた世界で自分が叶えてあげられなかったことを、ミナミが「こんな未来だったらいいな」とうれしそうに語る姿を見て、リクが後悔と罪滅ぼしの涙を流すのですが、その表情がすごく心に刺さって。実は撮影前には、健人くんに迷いが見えた瞬間があったのですが、miletさんが本番直前に健人くんの手を取って、「私たちはかつて愛し合っていたんだよ」と、ふと言ったんですよ。すると、健人くんも感情が乗って、美しい涙が出てきて。「あれは引き出された」と言っていましたね。とても感動するいいシーンになったなと思っています。

リクの大学時代からの親友であり、卒業後はリクと同じ職場で編集者として働く梶原を演じるのは、中島くんとも親交の深い桐谷健太さん。中島くんと桐谷さんの共演シーンの雰囲気や見どころを教えてください。
健人くんと桐谷くんは本当に仲が良くて、電話で密に連絡を取って演技について話していたそうで、現場でも楽しそうでしたね。2人のシーンでは、映像からもお互いを信頼しているのがわかるし、そのままの関係性を生かしているので、コミカルなやりとりも楽しんでもらえると思います。
ただ物語の後半では、梶原が抱えているある事情が判明します。それがわかるシーンは心にグッとくるものがあるのですが、そのシーンでは健人くんも台本のト書きにないのに泣いてしまって。予定していなかった涙ですが、リクとして感じた感情ならそれはもう正解。この作品のポイントとして、恋愛だけでなく、友達や周りの人に対してリクがどう変化していくかという部分も大事に描きたかったので、ステキに表現してくれてありがたかったです。それは、やはり健人くんと桐谷くんだからできたもの。ぜひ2人の友情や絆にも注目していただきたいです。

miletさんは歌唱シーンもあり、主題歌も担当されています。三木監督はmiletさんが手掛けた楽曲を聴いたとき、どんな印象を持たれましたか?
ミナミ役がmiletさんに決まった時点で、音楽やライヴシーンはいいものになると思っていたんですが、映画初出演ということもあり、そこにミナミとしての感情を乗せられるかは、チャレンジでもありました。ところが彼女は楽曲を書き下ろす段階で、すでにミナミが憑依した状態で。クライマックスに使用される主題歌の「I still」は、ミナミが歌う歌として、歌詞のストレートさや思いの真っすぐさみたいなところが乗っかっていました。
デモを聴いた時点でスタッフみんなが作品のゴールの共通イメージを持つことができたし、楽曲に助けられた部分も大きかったです。健人くんも楽曲をとても気に入っていて、最後のライヴシーンのリハーサル段階で歌を聴いて泣きそうになっていたので、リハの途中で控え室に帰らせました(笑)。

リクの小説『蒼龍戦記』の中の世界を描くシーンも印象的でした。他のシーンとはガラッと雰囲気が変わりますが、中島くんの様子はいかがでしたか?
『蒼龍戦記』の主人公・ガロアスは、クールなヒーロー。ガロアスも健人くんが演じているのですが、 そういう役柄をやってみたいと思っていたようで、ノリノリでアクションをしたり、決め顔を作ってくれました(笑)。アクションのシーンもたくさんあり、リクとはまた違うキャラクターで健人くん自身が持つ魅力も最大限に発揮されています。武器やCGなどにも本格的にこだわって、世界観を作り込んでいるので、意外性を楽しんでもらえればうれしいです。
文=室井瞳子
三木孝浩監督
みき・たかひろ/1974年8月29日生まれ、徳島県出身。数多くの映画、ドラマ、MVの監督を手掛ける。 近年の作品は、Netflix映画『余命一年の僕が、余命半年の君と出会った話。』、 映画『アキラとあきら』など。
『知らないカノジョ』
(ギャガ配給/公開中)
出演:中島健人、milet、桐谷健太 ほか
(C)2025「知らないカノジョ」製作委員会