現在、アルバム『WILD BUNNY BLUES / 野うさぎのブルース』を引っ提げて、6月13日のZepp DiverCity TOKYOを含む長いツアーに出ているa flood of circle。このアルバムに、プロデューサーとして参加したのが高野勲。初めて近くで見たフラッドに、彼はどんな印象を受けたのか。
高野さんにプロデュースをお願いした経緯は?
佐々木「去年、アルバムのレコーディングに入る前、いろいろ考えさせられることがあって。今回はうまくまとまったものじゃなく、自分を剥き出しにしたものを曲にして、それをバンドで形にしたいと思ったんですよ。でもそれを、スタジオに入って普通にレコーディングするのがイメージできなくて。そのうち、爆音鳴らしても許される、周囲に何もない山小屋とかないかな、って考え始めて(笑)」
かなり無茶でしたよね。
佐々木「誰も理解してなかったと思う(笑)。でも、ここなら音は出せるなってキャンプ場が福島県の奥に見つかって。よし、ここでやろうと決めたんですけど、でも、それをまとめるのに誰かいてほしいなと思ったんですよね。あと、去年出たアルバム(『花降る空に不滅の歌を』)は、セルフ・プロデュースだったんですけど、それで1回出し切った感じがしたから、音楽的な刺激が欲しくて。そう考えてるうちに、勲さんの名前が上がって」
高野「僕はバンドのお手伝いをすることも、フラッドのことも大好きだから、ぜひ!って。キャンプ場の山小屋で録るって聞いて、何か楽しそうなことが起こるんじゃないかな、って思ったし」
佐々木「山に行く前、バンドでアレンジを練ってる現場にも来てもらって」
高野「4人で何をやってるか、見ておきたかったから」
佐々木「最初は、山に行ってからバンドで作っていくのがいいかな、と思って〈虫けらの詩〉以外は詰めきってなかったんですよ」
高野「そう聞いてたから、詰めないのはいいけど、最低何曲は録るって決めて、そのぶんの歌詞はあったほうがいいんじゃない?ってことだけ、僕から話をして」
佐々木「現実的な部分を見てもらえて助かりました。自分たちだけで行ってたら、たぶん、1曲しか作れなくて、アルバムが崩壊してた気がする(笑)」
高野「ははははは」

佐々木「今回、3人は〈亮介がそう言ってるならやるか〉って部分があったし、俺も具体的なゴールが描けてるわけじゃなくて、〈どうなるかわかんないほうに行ってみよう〉って誘ってる感じだったんですよ。そんな中、勲さんが『これ、いいんじゃない?』とか『いいテイクとれてるよ』って言ってくれることで、みんな自信がついたというか、安心できたんですよね」
高野「あと、ナベちゃんが前日に来てくれたのが大きかった」
佐々木「それ、絶対に焚火目的ですよ(笑)」
高野「そうだろうね(笑)。でも焚き火したあとずっと、ドラムの音決めをやれたんだよね。やっぱりドラムの音でバンドの音が決まっちゃうから。で、翌日3人が来て、セッティングしたらすぐにガーンって鳴らして録れたじゃん。山に来て〈イエーイ!〉ってなった状態のまま、ガーンって音を鳴らす。それがたぶん亮介のやりたいことのひとつじゃないかな、と思ってたから、それを崩したくなかったんだよね」
佐々木「すごく自然に導いてもらえました。あと、みんな勲さんのことを尊敬してるから、勲さんがいいって言ってくれると〈これはいいんだな〉って思えて、次の曲に移れる。それがないと、自分が納得いくまでやらないと気がすまなくなる(笑)」
高野「ナベちゃんは特にそのタイプだよね」
佐々木「俺もそうなんですけど、これだ!って答えがあるわけじゃないから、迷宮に入っていくんですよ。〈いいテイクってなんだっけ?〉って(笑)」
高野「それはスタジオに行った時に垣間見えた。でも、そこは存分にグルグルしてていいと思う。ただ、しないでいいこともある、って実感してくれたらいいなって(笑)」
佐々木「なるほどね……俺、バンドになると、メンバーがどっかで我慢してるんじゃないかな、って思っちゃうことが多いんですよね。好きなようにやらせてくれてるなって思うけど、そこで〈これ、みんな本当に大丈夫かな? 一応、嫌じゃないかどうか聞いとこ〉みたいな(笑)。たぶんそれは、自分のバンドの生い立ち的なところが大きいのかなと思うんですけど」
バンド初期に失踪した岡ちゃん(岡庭匡志/元ギター)が、もともとバンドの音楽的リーダー的な存在だったもんね。
佐々木「やっぱ俺、今のメンバーとバンドを続けたいんですよ。だから気を遣いがち。それがよくない方向にいくことも多くて」

バンドはこうあってほしいという理想って、高野さんの中にはあるんですか?
高野「それを求めてるところはあるかもね。バンドが盛り上がって、それを観てるお客さんが盛り上がってる姿を見るのが好きだから。そういう意味では、自分自身がバンドをちゃんとやったことがない、のが大きいかもね」
佐々木「バンドに憧れてる?」
高野「うん。もともとバンドを観たり聴いたりするほうが好きだし、ちょっと俯瞰して見るのが得意なのかもしれない。こうやったらカッコいいのに、って。あとロックバンドって、やっぱりギターじゃん。そこに耳が行く。フラッドは亮介もテツも、すごくいいギタリストだと思う。特にテツはいいギタリストになったよね」
「屋根の上のハレルヤ」のテツのギター、すごくいいですよね。
佐々木「この曲のアレンジも、勲さんと一緒にやりましたからね、山で」
高野「ほんといいギタリストだよ。ただ、亮介から話をもらって、過去の作品を聴いてたら、まとまりすぎてる感じがしてて。それは悪いことではないんだけど、すこしだけ音の奥行感が出ると、またちょっと変わるかも、と思ったかな」
佐々木「そうなりましたね。でもそれだけじゃなくて、俺は壮大さや開放感より、4人から出るプリミティヴなエネルギーも求めてたんですよ。だから〈WILD BUNNY BLUES / 野うさぎのブルース〉や〈虫けらの詩〉は、自分が思ってたような感じのプリミティヴなものになったけど、勲さんにピアノを弾いてもらった〈Eine Kleine Nachtmusik〉や〈D E K O T O R A〉は、思い描いてた場所よりもかなり遠くまでいった(笑)。〈この曲ってこんな可能性を秘めてたのか〉って」
山でのレコーディング生活はいかがでしたか?
佐々木「一晩、朝まで呑みましたよね」
高野「そうだね(笑)。合宿自体が久しぶりだったから。でも合宿レコーディングで辛かったことって、自分の経験では1回もなくて。バンドがいい方向に進むきっかけになるから。そうやって朝まで呑んだり、みんなと話したりできたのがよかったね」
佐々木「でも申し訳なかったのは、3日間山小屋に籠もってたんですけど、2日目の夜に〈虫けらの詩〉のラフを録ったんですよ。歌詞ができたから1回唄いますって。それを聴いたスタッフ含めたみんなが『すげぇいいじゃん!』って盛り上がったから、いい気になって呑み始めて。勲さんやナベちゃんとめちゃ熱い音楽談義をしてたら、朝4時(笑)。歌詞書けてるぶんは録って帰ろうって言ってたのに、次の日、声がぜんぜん出なくて(笑)」
ははははははは!
佐々木「結局、最終日は1曲も録らずに帰っちゃった(笑)」
高野「でも、熱い音楽談義してるの、よかったよ、あの日は別棟でみんなで夕食とってたら、やっぱ仮歌録るって、亮介が歌録りを始めたんだよね」
佐々木「歌詞ができてなかったんで、唄いながら書こうと思ってたんですよ。いつもは俺、みんなに見られるの嫌だからひとりでやってるんですけど、でもせっかく山に来たし、池内さんの前でやるのもいいかなって気持ちで始めたら、勲さんが来てくれて」
高野「夜だからもう演奏はできないけど、歌ならできるねって。それで歌詞を作りながら仮歌テイクを録って。『ここまでできたから、あとは明日ちゃんとやろうね』って言ってたんだけど」
佐々木「呑み会が始まっちゃった(笑)」
高野「でも次の日、ラフで録ったものを聴いたら、いいのが録れてたんですよ」
佐々木「そのテイクでミックスされたのを聴いた時、〈俺がやりたかったやつ、これ!〉って思いました(笑)。ワンコードのギターで、みんなの演奏もスピード感があるのに、歌が丁寧だったら本末転倒になっちゃう。根が真面目なんで、これ本番の録音です、って感じで録り始めたら、たぶんカッチリ唄ってたと思う」
高野「でも亮介は、こう唄おう、っていうのが決まってるんだよね。言葉にはとことん悩むんだろうけど、この曲はこう唄いたいっていうのがすごくある。ニュアンスを決めきれずにテイクを重ねて迷う人が多いけど、それがない」
佐々木「そういう意味では、本来、粗い人間なんですよ(笑)。〈だいたいこれでいっか〉みたいな。音だけじゃなくて、料理でもそう。つねにジャッジが粗い。今まで、それもちゃんとやんなきゃいけないんだなと思ってやってたけど、最近は、この大雑把な感じが正直な自分だし、カッコいいと思ってて(笑)」

最近はライヴでモニターに音を返してないしね。
高野「そう。最初それを聞いて、〈え!〉ってびっくりしたけど、自分の中で疑問を感じてなければそれでいいんだよね」
佐々木「やっぱり、自分がこうだと思ってる常識というか、フォーマットみたいなのってあるじゃないですか。勲さんはそれを押し付けないというか。だから安心感がとてもあった。だから、俺は俺でいいんだな、って」
高野「ひとつ大丈夫だって思えたら、別の不安なことに集中できるからね。それぞれの不安を減らして、集中しなきゃいけないところで集中できるようになったら、より密なものができたりする。そうなったらいいなって」
佐々木「あの山で、勲さんとレコーディングしたことは一生忘れないだろうなって思います。過去のアルバムレコーディングで思い出せることってほぼないけど(苦笑)、なんか今回は、青春しちゃった感じがありました」
高野「誰かと同じ時間を同じ場所で共有することって、人生の中で何回もないじゃない。同じ車に乗って全国をツアーを廻っていても、1ヵ所に何日もいるってことって、実はなくない?」
佐々木「ないですね。かといって、どっかに拠点を決めて長くやっていきましょうじゃなくて、たまたまそこにギュッといることに俺は意味を感じたな。だから、ほんと勲さんがいることで、すごく意味あるものにしてもらったなっていう感じ。たぶん俺らだけでやってたら、バンドが崩壊してもおかしくなかった。だって都内のスタジオでやった後半のレコーディング、ちょっと空気悪かったから(笑)」
ははははははは!
高野「それなら、全曲まとめて山でやりたかったな(笑)。やっぱりミュージシャンには楽してもらいたいんだよね、リズムを録る時、演奏をする時は、楽な気持ちでやったほうが客観視もできるし、こうしたいああしたいってアイディアも出てくるから。そうしないから、テイクを重ねるごとに気が重くなったりする」
そういうスタンスで臨んでくれたことが、バンドにとってよかったんでしょうね。
高野「だって俺、ナベちゃんにもテツにも言ったから。好きにやって、あとはなんとかするからって」
佐々木「さすが!(笑)。勲さんも楽しんでくれてたならよかった」
高野「楽しいしかないよ? バンドの音録るのなんてめちゃくちゃ楽しいもん」
文=金光裕史
撮影=森川英里

NEW ALBUM
『WILD BUNNY BLUES / 野うさぎのブルース』
2024.11.06 RELEASE

- WILD BUNNY BLUES / 野うさぎのブルース
- 虫けらの詩
- ゴールド・ディガーズ
※produced by ホリエアツシ(ストレイテナー) - ひとさらい
- Eine Kleine Nachtmusik
- D E K O T O R A
- ファスター
- キャンドルソング
※produced by 後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION) - ベイビーブルーの星を探して
- 屋根の上のハレルヤ
- 11 ※タイトルが変更になりました
〈a flood of circle Tour 2024-2025〉
2025年03月06日(木)神戸太陽と虎
2025年03月08日(土)鹿児島SR HALL
2025年03月09日(日)大分club SPOT
2025年03月11日(火)岐阜ants
2025年03月16日(日)横浜F.A.D
2025年03月20日(木・祝)新潟CLUB RIVERST
2025年03月22日(土)郡山HIPSHOT JAPAN
2025年03月23日(日)盛岡CLUB CHANGE WAVE
2025年04月05日(土)長野J
2025年04月06日(日)金沢vanvanV4
2025年04月10日(木)奈良NEVER LAND
2025年04月12日(土)出雲APOLLO
2025年04月13日(日)福山Cable
2025年05月09日(金)仙台MACANA
2025年05月10日(土)水戸LIGHT HOUSE
2025年05月15日(木)八戸ROXX
2025年05月16日(金)八戸ROXX
2025年05月18日(日)山形ミュージック昭和SESSION
2025年05月23日(金)岡山PEPPERLAND
2025年05月25日(日)福岡CB
2025年05月30日(金)札幌cube garden
2025年05月31日(土)旭川CASINO DRIVE
2025年06月05日(木)名古屋CLUB QUATTRO
2025年06月06日(金)梅田CLUB QUATTRO
2025年06月13日(金)Zepp DiverCity TOKYO
2025年06月21日(土)沖縄output