脚本・坂元裕二×監督・塚原あゆ子の初タッグ作『ファーストキス 1ST KISS』は完全オリジナルラブストーリー。15年間連れ添い、長らく倦怠期だった夫・駈(松村北斗)を事故で亡くした妻・カンナ(松 たか子)が、タイムトラベルの方法を手に入れ、出会う前の若い夫と再会することで愛情を再認識し、未来を変えようと奮闘する物語を描く。本作の見どころやキャストの魅力を山田兼司プロデューサーに教えていただきました。 貴重な撮影秘話も満載です!
(これはQLAP!2025年2月号に掲載された記事です)
本作は、ラブストーリーの名手・坂元裕二氏脚本の、夫婦の愛の物語。まず、この作品を制作するに至ったきっかけや物語の魅力を教えてください。
脚本家の坂元裕二さんとは映画『怪物』でご一緒し、カンヌ国際映画祭で賞をいただいたりと、非常に良い結果になって。また一緒に映画を作りたいですねというお話をさせていただき、次にやるなら坂元さんの持ち味でもあるラブストーリーにしようとなり、今回の企画が始まりました。
本作は、未来を変えるためにタイムトラベルする夫婦の愛の物語。初稿を読んだとき、やはり坂元さんはさすがだなと思いましたね。不慮の事故で夫を失い、時を超えて出会う前の夫と再会する主人公・カンナのキャラクターが魅力的で、コミカルなのに最終的には普遍的な感動へとつながるストーリーになっていて。どのように恋が始まり、発展して、結婚という一つの愛の形にたどりつき、そして終わっていくのかがしっかりと描かれていて、恋愛から愛にまつわる秘密の全てが詰まった映画になったと思っています。
恋をしている10〜20代の方でも、結婚当事者の30〜50代の方でも、それぞれがどこかしら心に引っかかるものや感情が揺れるものが必ずあるはずなので、ぜひ大切な人と一緒に見て楽しんでいただきたいですね。
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主人公・カンナ役の松 たか子さん、夫・駈役の松村北斗くんのキャスティング理由とは? また、役者としての魅力はどんなところだと感じましたか?
松 たか子さんは、この物語を考えたときに、一番お願いしたいと思った方。カンナとの年齢も近いし、坂元さんとは何度もご一緒にお仕事をされていて、新しいものができそうな感触もあり、お声掛けさせていただきました。実際に演技を目にすると、松さんはもう次元が違うところにいる役者さん。役に入り込む速度や温度感のレベルがすさまじいし、お芝居であることすら忘れてしまうほど自然体で驚きましたね。
また、主演が坂元作品の常連である松さんなので、 夫の駈役は新鮮な方がいいと思って。駈を誰が体現できるだろうと考えたときに、 真っ先に思い浮かんだのが松村北斗くんでした。もともと役者として注目していて、ご本人も坂元作品が好きだという話を聞いていたし、絶対に世界観に合う。これはもう必然だと思ってお願いしました。彼は表現が繊細で、カッコつけたりもしないのに超美しい。僕は、彼が日本のティモシー・シャラメになると確信しています。坂元さんや塚原監督も彼の演技を信頼していたし、カメラマンの四宮秀俊さんも「松村くんのお芝居は素晴らしい」と大絶賛していました。
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本作の見どころや注目してほしい部分とは? また、山田プロデューサーのお気に入りシーンも教えてください。
本作の見どころは、未来を変えるためにカンナが何度もタイムトラベルを繰り返して、何度も駈と出会い直し、再び2人が恋に落ちていくところ。45歳のカンナが過去に戻って出会った29歳の駈が、女性慣れしていないのに不思議とカンナとは自然に話せて、なんかこの人っていい感じだな......と思っていく。その微妙なプロセスって、実は表現が難しいじゃないですか。でもそれがしっかり押さえられていて、駈がカンナに惹かれていくのが北斗くんの繊細な表情でよくわかるんですよね。だんだん距離が近づいていく様子も、お二人の表現力が素晴らしくて、美しく丁寧に描写されていると思います。
僕のお気に入りのシーンは、映画の後半ほとんどです(笑)。特に駈がカンナに宛てて手紙を書くシーンは、感極まって泣いてしまう北斗くんの芝居が本当に素晴らしくて、僕も撮影中にもらい泣きしました。人生で大切なことの全てが詰まっている、とてもステキなシーンになっています。
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監督を務めるのは塚原あゆ子さん。塚原監督にお願いしようと思った経緯を伺えますか? また、塚原監督は松さん、松村さんと、現場でどのようにカンナと駈の関係性を作り上げていったのでしょう?
主人公が女性の物語なので、女性監督に撮ってもらいたいと思い、塚原あゆ子監督にお声掛けさせていただきました。事前に作品の世界観や目指すべきところみたいな部分をお話させていただき、そこに塚原さんもアジャストしてくださいましたね。
役作りやお芝居などの細かい部分は塚原監督と演じるお二人にお任せしたのですが、カンナと駈の距離感や触れるタイミングなど、生理的な感覚が本当に見事でした。女性の観客の目線に立ったときに、この距離はときめく、これは嫌悪感を抱く、というジャッジメントが的確で、松さんや北斗くんに対しての演出もすごく繊細で。実際に映像を見ても、2人の距離感が絶妙で、上質な雰囲気が出ているんですよね。
また、カンナと駈の軽妙な会話シーンは、松さんも北斗くんも声質が素晴らしく、心地良いリズムでセリフを切り出すセンスが圧倒的でした。脚本のおもしろさを文章以上に表現できたのは、お二人が演じてくださったからこそだと思っています。
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撮影現場の雰囲気はいかがでしたか? 印象に残っている松村くんのエピソードもあれば教えてください。
松さんがとても自然体な方なので、その影響もあり、撮影現場自体とても和やかな雰囲気でしたね。北斗くんは最初は緊張していたと思うのですが、松さんの空気感にすぐになじんで、中盤からは談笑したりもしていました。
北斗くんはめちゃめちゃ人懐っこいし、えらぶったところも全然なくて、等身大の日常を生きる好青年という印象。いつも現場でちょこんと座っていて、佇まいもかわいいんです。駈が頼りにする大学教授役のリリー・フランキーさんからも「超かわいいね」ってずっといじられていましたね(笑)。リリーさんにかわいがられる方って、サブカルっぽい人かアーティスト性のある人のイメージなのですが、北斗くんはその両方を兼ね備えているし、クリエイターに愛される男なんだろうなと。
塚原監督とも芝居についていろいろ話をしていたし、良いコミュニケーションが取れていたんじゃないかなと思います。
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文=室井瞳子
山田兼司プロデューサー
やまだ・けんじ/1979年7月26日生まれ、埼玉県出身。数多くの映画やドラマの企画、プロデュースを手掛ける。近年の作品は、映画『四月になれば彼女は』『ゴジラ-1.0』『怪物』など。
『ファーストキス 1ST KISS』
(東宝配給/公開中)
監督:塚原あゆ子
出演:松 たか子、松村北斗 ほか
(C) 2025「1ST KISS」製作委員会