全世界累計発行部数1100万部を突破した人気児童小説を実写映画化した、天海祐希主演の映画『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』。本作は、願いを叶える不思議な駄菓子店をめぐり、駄菓子を食べた人々に起こるさまざまな顛末を描く物語。メガホンを取った中田秀夫監督に、作品の見どころや制作秘話を伺いました。映画オリジナルキャラクターの小学校教師役を演じるなにわ男子の大橋和也など、キャストの撮影裏話も必見!
(これはQLAP!2024年12月号に掲載された記事です)
本作は、幸運な人だけがたどり着ける不思議な駄菓子屋を舞台に描く温かな物語。実写映画化のきっかけや監督が感じた原作の魅力とはどんな部分でしょうか? また、制作するにあたってはどんなことを意識されましたか?
家族が原作小説のファンで実写化を熱望していて。原作は児童文学ではありますが、大人が読んでもおもしろい作品だなと僕も魅力を感じ、出版社と原作者の廣嶋玲子先生に「ぜひ僕に撮らせてほしい」という思いをラブレターに起こしたのが映画制作のきっかけでした。
この物語は、『銭天堂』の怪しげな店主・紅子(天海祐希)が選んでくれる駄菓子を食べればさまざまな願いが叶い、要望は満たされるけれど、食べ方に気を付けないとキツイしっぺ返しがあるという、マイナス面も描かれているんですよね。子供でも大人でも、日々いろんな選択をして生きている。自分の選択に責任を持たないといけないというメッセージが込められています。ただ、教訓めいた話だけの映画にするつもりはなくて。登場人物それぞれにテーマがあり、駄菓子を通して気付かされる友情や成長を描いています。
監督の僕自身、完成作を見たときにうるっときたし、ラストを見て「よかったなぁ」としみじみ思えたので、ぜひ楽しんで見ていただきたいですね。ホラー作品を多く撮ってきましたが、実は温かな映画を撮りたいと長年思っていたので、夢を叶えさせてもらって感謝の気持ちでいっぱいです。
『銭天堂』の店主・紅子役の天海祐希さん、新米教師役の大橋和也くん、謎の駄菓子屋『たたりめ堂』の店主・よどみ役の上白石萌音さん、ファッション雑誌の編集者・陽子役の伊原六花さん。それぞれのキャスティング理由や役者としての魅力を教えてください。
紅子役の天海さんは、存在感が本当に素晴らしい方。この映画を背負って立っていただくことを考えても適役だと思い、紅子役をお願いしました。天海さんにしかできない唯一無二の紅子になったなと思っています。
新米教師・小太郎役の大橋さんは、繊細さと明るさを併せ持つ方。大橋さんとは撮影前に偶然お会いしたことがあるのですが、全く無関係の僕にもあいさつに来てくれて。とにかく元気で明るくて、そのときから好印象でしたね。本作が映画初出演ということで、入念なリハーサルの時間を作ったのですが、お芝居の面でもしっかり食らいついてきてくれました。
紅子をライバル視する悪役のよどみを演じるのは、上白石さん。優等生のイメージがあったので、それを崩してみたいと思ってこの役を提案させてもらいました。ダークなよどみをしっかり表現してくれたと思います。
小太郎の大学時代の後輩で出版社で働く陽子役の伊原さんは、ダンスで培った身体表現がとても上手。恋愛要素があったり、 欲に惑わされる役ですが、メリハリをつけて陽子を演じ切ってくれましたね。
温かな物語ながら、ゾッとする不気味なシーンも印象的な作品。監督が演出面で特にこだわった部分やお気に入りのシーンを教えてください。
演出面で特にこだわったのは、紅子とよどみの戦いのシーン。よどみは駄菓子屋の客の心の隙につけこみ、悪意を吸い取るキャラクターであり、欲望を肥大化させてしまう“悪”を象徴する大事な役回り。なので、紅子の迫力に圧倒されないように、上白石さんには事前に「天海さんに負けないでね」 と話をして、声色を調整してもらったり、細かい部分も話し合いながら役を作り上げてもらいました。よどみが引き込む、人間の負の部分を表現した青黒い世界を描くシーンや、口から悪意が吐き出されるシーンにもこだわったので、紅子とよどみの戦いの行方をゾクっとしながら見てもらえたらと思います。
また、陽子が欲望に支配されるシーンもお気に入りの一つ。伊原さんは、「地に足がついているのが普通だとすれば、ホラーは1〜3メートルほど上の世界。でも、この作品は30センチ浮いたところに足がある」という僕の独特な説明も理解した上で思いっきり陽子を演じてくれて、すごく良かったですね。
新米教師の小太郎は映画オリジナルキャラクターですが、どんな役柄なのでしょう? また、小太郎を演じた大橋和也くんは本作が映画初出演となりますが、芝居の印象はいかがでしたか?
新米教師の小太郎は、周りの大切な人たちが『銭天堂』の駄菓子を手に取り、少しずつ様子がおかしくなっていくことで、『銭天堂』の存在を疑いながらも、大切な人たちを守るために行動する。ある意味、一番現実に近い人間です。彼にも、大学の後輩・陽子に対する想いだったり、内向的な性格ならではのテーマがあるので、原作ファンの方々にもこういう切り口もあるんだと新鮮な気持ちで楽しんでもらえたらと思います。
大橋さんは、最初は少し硬い部分もあったのですが、物語後半の、よどみにすすめられた“ずるずるあげもち”を食べようとする生徒を諭すシーンがすごく良くて。特に最後のセリフは心にグッとくるものがあり、小太郎の想いがちゃんと観客に伝わるなと感動しましたね。大橋さん自身の謙虚な人柄や努力が生かされたシーンになっていると思います。
『銭天堂』のセットや駄菓子など、美術面ではどんなことを心掛けたのでしょうか?
劇中に登場する駄菓子は、“型ぬき人魚グミ”や“ヤマ缶詰”など、原作でも最初のほうに出てくるポピュラーなものが中心。原作の絵を担当しているjyajya先生の絵を踏襲して、原作ファンの子供たちから見ても違和感がないように心掛けました。
『銭天堂』の建物も、できるだけ原作の世界を再現したので、セットや小道具も含めて楽しんで見てもらえると思います。廣嶋先生とjyajya先生は現場にも足を運んでくださったのです が、『銭天堂』のセットを見て感激されていましたね。
文=室井瞳子
中田秀夫監督
なかた・ひでお/1961年7月19日生まれ、岡山県出身。ホラー映画を代表する監督として、数多くの作品を手掛ける。近年の作品は、映画『スマホを落としただけなのに ~最終章~ ファイナル ハッキング ゲーム』、『禁じられた遊び』など 。
映画『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』
(東宝配給/12月13日より全国ロードショー)
監督:中田秀夫
出演:天海祐希、大橋和也、伊原六花、上白石萌音 ほか
(C)2024 映画「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」製作委員会