弱さを強さに変えたい。音楽を通じて心の中の弱い部分を肯定できたら、という気持ちでirienchyを始めた
「ダメラブストーリー」には、〈死ぬまで添い遂げた時に幸せだったって/言える人生に必ず僕がするから〉と、真摯でまっすぐな思いが綴られていますけど、なぜにこの歌に「ダメラブストーリー」というタイトルをつけたのでしょうか?
本多「まあその、世間的に見たら、この歌の主人公は、いい男ではないんですよ。容姿に自信がないとか、いい学校を卒業していい会社に就職しているわけでもない、みたいな。でも、好きだという気持ちは、みんなに等しくあるものだし、そこで気持ちをおさえるのはもったいないぞ、と思うんです。どうせ断られるにしても、ちゃんと気持ちを伝えた上で断られたほうがよくない?って、僕自身そう思うタイプで。そのほうが踏ん切りがつくし」
でも断られる前提なんだ(笑)。
本多「そうですね(苦笑)。専門学校時代、好きな子に告白した時も、『本当に嫌だったら嫌で、全然断ってもらっていいんで』って言っちゃうみたいな。そりゃ断られるでしょ、っていう」
そんな当時の自分を思い返して書いたところもあるわけですね。でも、この歌に書かれていることは、全然ダメじゃないと思うんですけどね。
本多「そう言っていただけると、当時の自分が報われます(笑)」
はい(笑)。そして4部作のラストとなる「ANSWER」は、タイトル通り、「ダメラブストーリー」の主人公の男性に対して、女性側からのアンサーソングになってますよね。
宮原「はい、そのイメージで書きました。 それこそ僕の中では〈ダメラブストーリー〉の主人公が響平になってたんで、カッコ悪いこともわかっててほしいし、自信がなくすと消極的になっちゃうからバレないように褒め続けていてほしい。なんか、そういうイメージがどんどん出てきて。だから、響平を迎え入れてくれる人はこういう人であってほしいなっていう、僕の理想を書いた感じです(笑)」
ただ、2コーラス目の後半から、女性目線ではなく、男性目線になっていますよね。そこは、宮原さんが本多さんの気持ちになって書かれた感じですか?
宮原「響平の気持ちというか、まあ、たぶんこれも〈そう思ってくれたら嬉しいな〉って感じですかね。男ってついついカッコつけちゃいがちなんだけど、それを〈またカッコつけちゃって〉って、ちょっと呆れながらも優しく見守ってくれてるみたいな。そういう姿に憧れるというか(笑)」
本多さんの理想の彼女像を書かれたと先ほどおっしゃってましたが、それはイコール自分の理想にも繋がってるところもあるんですね。
宮原「ああ、そうかもしれないです。そういう女性がいいなって(照笑)。自分の両親であったり、いろんなカップルを見てきて、男の人がどんなに引っ張っていても、やっぱり女の人のほうが大人で、カッコつけがちな男の人をちゃんと支えてあげているんだよなって、なんかそういう印象があるんですよね。もちろん〈ダメラブストーリー〉のアンサーソング、として書いているんですけど、でも自分の人生観がすごく入っているかなとも思います」
そう、今回の4曲は、どれも単なるラヴソングにはなってないですよね。去年出した『MISFIT』 までは、自分の弱さや脆さを肯定しながら、社会で生きていく中で自分はどうあるべきか、というのが歌のテーマになってたと思うんです。だから正直、〈なぜここにきて恋愛をテーマにした曲をリリースするのか?〉って最初は思ったんですね。
宮原「確かに今までは、人生とか生き方みたいなことをダイレクトに歌詞にしてたんですけど、なんか別のアングルから、そういうことを唄えないかなと思ったのが、この4部作の始まりで。弱さを強さに変えたい、というか、音楽を通じて心の中の弱い部分を肯定できたら、みたいな気持ちでirienchyを始めたところが自分にはあって。恋愛にも、人の脆さとか弱さがすごく出てくるところがあるし、切り口は違えど、そこまで歌のテーマは変わってないとは思っているんです」
そうなんですよね。単なる男女の恋模様ではなく、他者とのコミュニケーション、人と人がどう一緒に生きていくか、というものが描かれているというか。これまでのテーマから一歩踏み出した歌になっているなとも感じました。
宮原「ありがとうございます。これまでは、どっちかっていうと自分がどうありたいか、ってところが強かったですもんね」
そうですね。でも恋愛というのは、一対一の関係性の中で生まれるものであり、密なコミュニケーションが交わされるものだから、必然的に他者の存在があるわけで。
宮原「うん、だからこの4曲を作って、やっぱり優しさであったり、相手への思いやりは大切なんだよなって改めて思いました」
本多「あと今回の曲作りを通して思ったのは、誰かの意見に対して、否定から入るのはよくないなってことで。もちろん否定することが悪いとは思わないんですけど、その伝え方が大事だよなって思うんですよね。でもいいことはストレートに言ったほうがいいんですよ、絶対」
愛の告白とか。
本多「そうです(笑)。僕、よく部屋の片付けに喩えるんですけど、部屋の片付けって、人それぞれ流派があるじゃないですか。そこで、なんか自分と違うなって思った時に、『そこじゃないから』って言うのと、『俺は、こっちに置いたほうが使いやすいと思うんだけど、どっちがいいと思う?』って言うかで、いい方向に持っていけるか、ただ単に関係性を悪くするだけで何も変わらないことになるのか、に分かれると思うんです」
確かに言い方、伝え方って大事ですよね。
本多「片付けを例に出しましたけど、否定的な意見を出すのであれば、よりいいものにしたいという気持ちであったり、そこに対しての代替案を提示していかないと建設的な会話には繋がらないなって思うし、颯くんが言ってたように、相手をしっかり思いやることが大事なんじゃないかなって。そうじゃないコミュニケーションからは何も生まれないし、関係性の破綻にしか繋がらないんと思うし、それは恋愛においても同じなんだよなって思いましたね」
綺麗事かもしれないけど、優しさだったり相手を思いやることは、男女に関わらず、人との付き合いの中で忘れちゃいけないものではありますよね。
宮原「そう思います。でも綺麗事ってよく言うけど、それって、みんな綺麗なものだと思ってるから、綺麗事と呼ぶんでしょ、って僕は思うんです。〈スーパーヒーロー〉って曲(ファースト・ミニアルバム『START』収録)に、〈みんなハッピーになるさと本気で思ってるんだ〉って歌詞があるんですけど、この曲を出した時、『それ綺麗事だよ』ってけっこう言われた記憶があって」
まあ、歌詞の一部分を抜き出すとそう感じる人もいるかもしれないですけど、「スーパーヒーロー」を聴いて思ったのは、自分がハッピーにならないと周りもハッピーになれないから、まずは自分を幸せにするんだ、という意思表明であり、もっと言えば、irienchyというバンドを始める際の宮原さんの覚悟が込められた歌だなって。
宮原「はい、本当にそういう思いで書きました。楽しくバンド活動やっていきたいっていう思いが強くあって。もちろん楽しいだけじゃバンドはできないってことも知ってるし、大変な場面もいっぱいあるっていうことをわかった上で、それでもそう言いたかったんですよね」
現実も知ってるけど、それでも夢を見たいし、それでも理想を言いたいんだ、っていう。
宮原「そうですね。自分は完璧な人間ではないけど、理想ぐらい言っていいでしょっていうか(笑)」
それぐらい信じたっていいじゃん、みたいな。
宮原「はい、そうです。ついつい物事をマイナスな方向で考えちゃうタイプなので、そう自分に言い聞かせてる部分がめちゃくちゃあるというか。それに〈自分はこう思ってるよ〉っていうことを唄えなくなったらダメだと思うんです。だから、これからも綺麗事を唄っていきたいなと思いますね」
文=平林道子
写真=yuuki honda
NEW DIGITAL SINGLE
「ANSWER」
2024.10.23 RELEASE
irienchy presents 〈愛がちょっと足りないんじゃない?〉TOUR (終了分は省略)
10月25日(金)@福岡・LIVE HOUSE Queblick w/フィルフリーク、ワンダフル放送局、no more
11月1日(金)@東京・Shibuya eggman -oneman-