6月16日。CRYAMY特別単独公演。
〈CRYAMYとわたし〉
日比谷野外大音楽堂、チケット完売!
スティーブ・アルビニをエンジニアに迎え、シカゴでレコーディングを敢行したセカンド・アルバム『世界/WORLD』のリリース同様、メディアのプロモーションほぼ皆無。ファンが口コミに近い形で広げたことが、この結果に結びついた。そしてそれは〈CRYAMYとわたし〉というタイトルに象徴されるように、バンドとひとりひとりが、心と心で強く結びついている証拠。ステージで叫ぶカワノ(ヴォーカル&ギター)の怒り、そこに滲む悲しみは、あの時の君の姿でもある。
このインタビューは、野音が完売する直前、アルビニの訃報が届いたその日に行われた。バンドに、人に、真剣に向き合ってきたからこそ、肉体的にも精神的にも、心はすり減り、疲弊している。バンドをどうしようか揺れ動いているのは優しさだ。おそらく最後のつもりで臨むだろう。そんな気持ちで向き合っているのは嘘ではない。しかし決して最後にはさせない。させたくない。彼らを必要とする人はまだまだいる。何よりカワノ自身が、バンドを、音楽を、必要としているのだ。
(これは『音楽と人』2024年7月号に掲載された記事です)
アルビニの件。驚いたね。
「昨日は寝れなかった。ショックで。アナログが完成したから〈送るからよかったら聴いて〉ってメールしたばかりだったのにさ」
シカゴのエレクトリカル・オーディオでレコーディングしたのは半年前だったのにね。
「こういう言い方は複雑だけど、一緒に仕事ができてよかった。そのおかげもあって、いいアルバムだって、いろんなところで言ってもらえてるし」
ですね。そのアルバムを引っ提げたツアーは終了。6月16日の日比谷野外大音楽堂ワンマンが近づいてきました。
「全部対バンでやったんだけど、よかったな。同じ時代で一緒に切磋琢磨した時速(36km)とw.o.d.、すごく世話になった先輩のLOSTAGEやアナログフィッシュ、いろいろあったJIGDRESSも含め、関係の深いバンドとやれてよかった。みんな選曲が、我々へのメッセージみたいだったし(笑)」
例えば?
「JIGDRESSは〈Twisted〉をカヴァーしてた。大昔の曲ね。あいつらがカヴァーするなんてありえないけど、メンバーが一番好きだからって。LOSTAGEは俺が好きな曲しかやんなかったし、アナログフィッシュに至っては、セットリストを俺に決めさせた(笑)。w.o.d.も、俺らと知り合った頃の曲が多くて。なんかみんな優しかった」
最後の対バンになるかもなって、みんなセンチメンタルになって、緊張してたんだよ。
「はははは、そうか。一番緊張したのはお客さんだろうけどね。微動だにせず(笑)」
あのアルバム自体が緊張を強いるものだからな。
「でも俺、ライヴハウスのフロアが理想的になったと思ったな。22、3歳の頃のCRYAMYのライヴで、客席に飛び込んだり、俺が怪我をしかねないステージをしてたのは、当時はそんな気なかったけど、一種のファンサービスみたいなものだったんだろうな」
自分の真剣さを伝えるための、ね。
「そうそう。まともにやっても伝わらないだろうと思ったから。ある意味、お客さんのことを信用してなかったんだよ。だからそういうことをやって、少しでも距離を縮めようとしてたの。今回のツアーは、俺らはベストを尽くすから、それを好きになっても嫌いになってもどうでもいい、勝手に受け取ってくれ、ってテンションだった」
だから客席には緊張感が漂って、どう反応していいのか戸惑ってた。でも決して一体感がないわけじゃなくて。
「そうそう。今のCRYAMYのような生々しいバンド、これまでいなかったと思うの。最近はさ、お客さんに優しくしてさ、お前らと俺らはひとつになれるとかさ、あなたと今日という日を作るんですとかさ、そんなことなれるはずもないのに嘘ばかり言って、優しくしときゃいいんだろってバンドばっかじゃん」
そうすることで、確かめようとしてるんだよ、気持ちを。
「でもそんな嘘くさいの、俺らはいらないわけですよ。オーディエンスとバンドの関係はいらない。人と人の関係がほしい。俺は正しいと思ってることを全力で表現するけど、お客さんには理解できないことを言ったりもするし、まったく寄り添ってない曲をやることもある。平気で振り回すし、別に優しくしようとも思ってない。喜ばせようとは思ってない。別に盛り上がらなくてもいい。でもきっとこれが伝わると信じてる。だから親と子みたいな関係だね(笑)」
ははははは!
「優しい時もあるし、反抗する時もある。俺が幸せだったのは、そういう関係を築けてるお客さんが、理解できないところも理解してくれようとしたこと。それをツアーでめちゃくちゃ感じたから嬉しかったし、心が動いた。お客さんにとっても僕にとっても、難しくて変なバンドだった。でも誰よりも生々しかった」
何度も書いてるけど、みんな、CRYAMYにいつかの自分を見てるから。全員同じじゃなくて、みんなバラバラなんだけど、ひとりひとりがCRYAMYの音楽に自分を映してる。ひとつとして同じじゃない。それがひとつになっている。
「だから美しかったよね。お客さんの顔、ひとつとして同じ顔がなかった。感情もそう。困惑してる子もいれば、自分なりに受け止めて消化しようとしてる子もいた。音楽をやってる人として幸せだなと思った」
で、どうなのよ?
「え、何が?(笑)」
そういう顔を見て、幸せだなと思っても、心が動いても、気持ちは揺るがないのか、という話ですよ。
「ああ……ねえ。まあ根本的には何も変わってないね」
こないだ急に呼び出されて、トンカツ定食を食った時は、なんかモヤモヤしてたじゃん。
「気持ちはアルバム作り終えた時から変わってないよ。でも俺、良くも悪くも人に影響されるじゃん? だから最初、自分が逃げられないように、言葉にしてしまえと思ったわけですよ。『野音で終わります』ってインタビューで言っちまえば、多少は話題になって、金光さんにも最後、少しは恩返せるかなと思ったのに、あんた、それをネタにしないで止めようとするんだもん(笑)」
わははははは。
「じゃあツアーで言おうと思って、初日迎えたら、能登で震災。こんな空気じゃ流石に言えない。じゃあ最終日の札幌でと思ったら、その日、フラッド(a flood of circle)がライヴやってて、亮介さん(佐々木亮介)が『時速と一緒に打ち上げやろう』って言ってきて。そんな先輩との打ち上げを、お通夜みたいにできないからやめたのに、亮介さん打ち上げ来ないし(笑)」
佐々木、よくやった(笑)。
「みんな俺を止めようとする(笑)。でもさ、これは言っておきたいんだけど、飽きたとかやり尽くしたとかバンドが嫌になったとか、そういうことじゃないのよ。俺は本当に疲れたの」
それはわかる。
「この2、3年、いろんなことがありすぎた。大切な友達も死んだし、アルバムを作るにあたって、精神力を削り取られた。体調も悪くなったし、極めつけはアルビニも旅立ってしまった」
まあ確かに。
「あんたいちばんよくわかってるじゃん。そもそも去年の頭で、もう俺はズタボロだったんだから!」