地元でくすぶり続けた同級生たちが、好きで好きで、だけど鼻で笑われたら立ち直れないと思い込み、ずっと封印していた「バンドやろう」の言葉を、ついに口に出したのが28歳の時――このエピソードはTENDOUJIの愛すべきヘタレっぷりを表すものとして語られてきたが、気づけば10年。バンドは紆余曲折を経て独立し、東西で開催する自主企画〈OTENTO〉も今年成功させ、いまや中堅ではないが新人でもない人気バンドとしてナイスな波に乗り始めている。決定打は4枚目となるオリジナルアルバム『TENDOUJI』。無条件で踊れるバブルガムポップ、やけにスイートなパンク、そして案外エモい名曲をたっぷり揃え、まだまだでっかい夢を見る4人。ともにギター&ヴォーカルでありメインソングライターでもあるモリタナオヒコとアサノケンジの曲調が、今回ははっきり分かれているのも印象的だ。それぞれがたどり着いた「今」を語ってもらった。
(これは『音楽と人』2024年6月号に掲載された記事です)
モリタナオヒコ Interview
まずは〈OTENTO〉、大成功おめでとうございます。開催2年目でソールドアウトした気分は、どう?
「去年もメンツはすごかったけど全然チケット売れなくて、自分たちの力足らずか、って思ってたんですよ。でも今年はすぐチケット売り切れて。嬉しかったし、めっちゃいい形でできたなと思った」
なんというか、いい波が来てる実感はある?
「いや、まさに今回のアーティスト写真がそういう意図なんですよ。〈いい波こい、いい波持ってこうぜ〉みたいな。ただ、その波が手作りだからショボいんですけど(笑)。でも、いい波は感じてる。とくに〈OTENTO〉で、その実感があった」
アルバム制作もスムーズにいきましたか。
「あー、多少生みの苦しみはあったかな。最後ギリギリまで粘ったし、珍しくケンジもギリギリまで作ってたから」
毎回思うけど、ナオくんの曲の何が面白いって、シンプルな英語詞に対する、膨大な対訳の量で。
「あぁ。俺毎回そうなるんですよ。昔アメリカに住んでたし、日本に帰ってきても対訳に違和感があったんですよね。〈もうちょっと深い意味含んでるのになぁ〉って。だから日本語にするとちょっと長くなる。それはまだ残ってる感覚」
歌はシンプルに聴かせたいけど、その内面にはめちゃくちゃ言いたいことが渦巻いてる、ってことですよね。
「……照れ屋特有の感じですよね(苦笑)。あぁ、でも言いたいこと、今回はけっこうあったかな」
しかもそれを愚痴のように書かなくなったのは新鮮でした。
「あ、ほんとに? でも……そうかもしれない。最近ね、友達のバンドマンからすげぇ図星なこと言われて。俺が鬱屈した歌詞ばっか書いてたのって、そういうキャラクターに憧れてたところがあったからなんですよ。それこそインナーな、銀杏BOYZの峯田さんみたいな歌詞を意識して書いてたんだと思う。で、その友達も峯田さんが大好きなんだけど、そいつにはっきり言われたんですよ。『ナオさんてさぁ、峯田さんみたいなキャラではないよね? わりとモテたでしょ?』『まぁまぁ、モテたかな?』『でしょ! だったらもう愚痴みたいな歌とかやめない? そういうのは俺みたいなのがやればいいの! ナオさんは違うほうにいってよね!』みたいな」
何を競い合ってるんだか(笑)。
「はははは! もちろんコンプレックスを持ってる自分もいるんだけど、そこでちょっと無理して卑屈に曲を書いてる自分も出てきた。やっぱり昔の感覚だけで生きるのもかなり難しいじゃないですか」
幸せを唄いたいし、今はそれを唄えるようになってきた?
「たぶん、幸せなんじゃないですかね、自分が今。それが自然と出せちゃうハッピー野郎なのかもしれない(笑)。〈まぁいっか、幸せでも〉って今は思うから。アーティストは不幸を唄わなきゃいけない、みたいな思い込みも前はあったけど」
報われないまま、愚痴のままだったら、「NO!NO!NO!」みたいな歌は出てこないよね。
「確かに。だから、ちゃんとおじさんになったのかも(笑)。〈こうしたほうが人生けっこういいよ?〉みたいなこと、言いたくなった」
そっか。28歳スタートの遅咲きバンドであるのはずっとネタだったけど、気づけば10年経ってるわけだからね。
「今年38になるんで、もう若ぶってるのはイタすぎるじゃないですか。今もメッセージとか言っちゃうのはハズいんですよ。自分はそんなのこと言えた柄じゃないって思うし。でも、せめて俺が気づいたことくらいは書いておきたいなって」
10年前に「バンドやるぞ!」って言ったこと。それによって人生がものすごく変わったよ、ということを。
「そう。それが一番にある。まずは行動だった。やってみれば意外と上手くいくっていう。頑張れば」
頑張ってるだろうけど、歯を食いしばって、みたいなのが全然ないのがTENDOUJIの良さでもあるんだけど、それは見せないようにしてるのか、実際まったく感じていないのか。どちらに近いです?
「間違いなく言えるのは、俺以外、歯食いしばってない!(笑)」
はははは。俺以外は。
「マジで。いい意味でみんなのほうが効率いい。俺はけっこう根性論、努力してナンボみたいな人間なんですよ。でもあいつらは違うんですよね。『大丈夫っしょ』って毎回軽く言うし(笑)。そこがバンドの雰囲気に出てるんでしょうね」
ナオくんから見て、それは不思議なこと? それとも羨ましいこと?
「や、昔から見てるんで慣れてるけど……ヨッシー(ヨシダタカマサ/ベース)は昔から不思議でしたね。〈なんでこの人、こんなに達観してるんだろ〉って。絶対人の悪口を言わないんですよ」
あぁ、それは素敵だ。
「ほんとに聞いたことない。怒らないし。ナオユキ(オオイナオユキ/ドラム)も、ケンジもそう。俺はすぐ怒っちゃうから。あいつら……育ちがいいのかなぁ? でもお客さんがあいつらの前にまずバーッと寄っていくの見ると、絶対とっつきやすいんだろうなと思う。うん、不思議は不思議。羨ましいとも思うし」
焦らない彼らをもどかしく思う時期もあったでしょ?
「うん。でもね、結局優しい。逆に今俺が何もしてないんですよ。自主だから自分たちでやんなきゃいけないこと多いじゃないですか。俺が無意識に自分だけ休んじゃってても、〈いいよ、別に〉みたいな感じで片付けとか全部やってくれたりする。俺だったらブチギレてますよね。スタッフとのやりとりも、俺じゃなくてケンジにやってもらうとトラブルなくなるし」