マッチングアプリが引き起こす恐怖をオリジナルストーリーで描いたサスペンス・スリラー映画『マッチング』。原作・脚本・監督を務めた内田英治監督に、作品を作る上でこだわったことや見どころを教えてもらいました。恋愛に奥手なウエディングプランナー・唯島輪花を演じた主演の土屋太鳳さんをはじめ、輪花のストーカー・永山吐夢役の佐久間大介くん、アプリ運営会社のプログラマー・影山 剛役の金子ノブアキさんの印象や魅力についてもたっぷり伺っています!
(これはQLAP!2024年1月号に掲載された記事です)
本作は完全オリジナルストーリーで描かれる新感覚スリラー。題材にマッチングアプリを選んだ理由とは?
“マッチングアプリを題材にしたスリラー”という構想は、5年くらい前に考えたもの。アプリを通じて知らない人同士が出会うわけですから、これはもう事件のにおいしかしません。とはいえ、ちょっとベタだなと思って、そのときは映画化するのを敬遠していたんです。ところが最近では、電車に乗っていても乗客が普通にマッチングアプリの話をしている。僕が若い頃は“出会い系”には怪しいイメージしかなかったけれど、今の世代では人前で話せるぐらい認知されているんですよね。その反面、事件が起こる可能性も増えるわけで、今扱う題材として非常におもしろいと思いました。
企画がスタートしてからマッチングアプリを実際に使っているユーザーの方に取材をしたのですが、その中にウエディングプランナーの方がいて。結婚式場で働いているのに出会いがないというのがおもしろくて、ウエディングプランナーの主人公が狂気のストーカーと出会うという設定にしました。ただ、僕はスリラー初挑戦だったので、脚本を書くのは苦労しましたね。過去と現在の設定が絡み合っていて、一カ所変更すると全体が変わってくるので、数学的な難しさがあるんです。特に後半は新事実が次々と出てきて、ストーリーも二転三転します。観客の方にも、思わぬ展開を楽しんでいただきたいですね。
土屋太鳳さん、佐久間大介くん、金子ノブアキさんのキャスティング理由や、監督が引き出したかった3人の新たな一面とは?
今作では、初めての人たちと仕事をしたいと思っていたんです。ヒロインの輪花を演じる土屋さんは、ひたむきで清純な役柄が多い方。実際の彼女もとても努力家だし、スタッフみんな、彼女のことが大好きです。ただ僕は、土屋さんが女優として抱いている目標はもっと広いところにあると思っていて。彼女は幅広い役をやりたいと思っているはずだし、やる気もある。だから今作ではあえて彼女のパブリックイメージとは違った女性を演じてもらいました。
Snow Manの佐久間くんは、映画の出演がまだそこまで多くないし、いい意味で未知数なところが魅力的。素の彼は明るくておしゃべりだけれど、「本当にそれが君なの? ほかにもいろんな面を持っているんじゃないの?」と思わせられるときがあります。ちょっと個性的な役も似合うし、本人もそういう無理難題をクリアするのが好きなんじゃないかな。吐夢みたいな目に生気がない役も喜んで受けてくれたし、思った以上にハマったと思います。また、金子さんはカッコいい大人の男性というイメージがありますが、今作では多面性のある役柄を演じてもらいました。
3人とも普段のイメージをひっくり返したかったし、新たな一面を見せられたのではないかと思っています。
個性豊かな登場人物が揃っていますが、キャラクターはどう作り上げていきましたか?
ストーリーが複雑なので、メインの3人にはキャラクターの背景などをまとめた資料を渡して、話し合いながらキャラクターを作っていきました。土屋さん演じる輪花は、最初は控えめだけれど、事件に巻き込まれていくうちに、だんだん口調も変わって強いキャラになっていきます。土屋さん自身が持っている芯の強い部分が、うまく役にも出ていたのではないでしょうか。
吐夢を演じる佐久間くんは、渡された資料を見て余計に混乱していましたね(笑)。彼は役を深く考えるタイプなんです。アニメが好きだったり、マニアックなものに興味があったりと、強いこだわりを持つ役柄とリンクしている部分もありますね。あと、彼は“目”がいいんですよ。じっと見られると、こちらが緊張してしまう。撮影中も彼に『目が怖いね』と100回ぐらい言ったのですが、なぜかうれしがっていました(笑)。吐夢はちょっと愛らしさのあるストーカーだし、佐久間くんファンの方もきっと吐夢というキャラをかわいがってくれるんじゃないかな。
輪花を支える影山を演じた金子さんは、感情の流れを大切にする方。芝居やキャラクターの感情について何度も話し合ったし、本当に演技が大好きなのが見てわかります。クライマックスの影山のセリフも、かなり長く話をして、最終的に納得した上で演技に落とし込んでもらいました。
不気味さを際立たせる内田監督ならではの演出が印象的な本作。演出で特にこだわった部分やお気に入りのシーンを教えてください。
今作では、直接描写はやめようと意識していました。だから惨殺シーンも、影で表現した一カ所ぐらいだけ。その分、直接描写に頼らずに怖さを出そうと頭を絞ったし、その結果、ストーカーの吐夢の気持ち悪さも思った以上に出たかなと思います。僕が吐夢を演じる佐久間くんに求めたのは、無になる演技。僕は取材で犯罪者や裏社会の人とも会いましたが、彼らは目を見ても感情がわからない。無なんです。ただそれをどう解釈するのかは役者の選択だし、佐久間くんは「難しいよ~」と言いながらも彼なりのやり方で挑んでくれていました。
吐夢が登場する水族館のシーンでは、長靴を履いて、吐夢のちぐはぐな感性を表現しています。海外の映画祭ではこの場面で笑いが起きていて、別に狙ったわけではなかったけどうれしかったですね。映画には笑いがあったほうがいいと思っているので。また僕のお気に入りは、特殊清掃の仕事をしている吐夢が、部屋にあった家族写真を手に取るシーン。吐夢の悲しい本性が一瞬だけ垣間見えて、印象深いシーンになりました。
小道具や芝居に、物語の鍵をにぎる伏線が散りばめられているというのは本当ですか?
はい。最近は考察を楽しみにしている観客も多いので、いろんな意味の花言葉を持つ四つ葉のクローバーや、“救済”を意味する十字架など、キーアイテムを画面の中に盛り込んでいます。実は僕の作品では“救済”をキーワードとして取り入れることが多くて。やはり、人は救いがないと生きていけないということをモチーフとしてにおわせたいし、僕がカトリックの国であるブラジルで生まれ育っているので、その影響もあるかもしれない。いろんなシーンで視覚的要素として散りばめられているので、見つけてみるのもおもしろいと思います。
また役者陣は、当然結末を知った上で演技をしているので、罪を犯した人物は芝居の中でもヒントとなるような裏側の表情を見せています。僕が試写を見て、初めて「こういう演技でにおわせていたんだ!」と気付いたぐらいの微々たる表情なので、注意深く見ていただきたいです。そういう意味では、何度も繰り返し見てもらえるとおもしろい発見があるかもしれません(笑)。
佐久間くんは今作で映画初出演。撮影現場での様子はいかがでしたか?
現場での佐久間くんは、撮影前は役柄について質問してきたりと考え込むような雰囲気もあったけど、撮影に入ったら、いつもの明るい感じでした。すでに役を自分の中に取り込んでいたのかもしれませんね。彼は人懐こいしフットワークも軽いので、スタッフやキャスト、ありとあらゆる人とコミュニケーションを取っていました(笑)。地方ロケのときにはお手伝いしてくれている現地スタッフにも自分から気さくに声を掛けていたし、根っから優しくて気が遣える人なんでしょうね。
文=室井瞳子
内田英治監督
うちだ・えいじ/1971年3月27日生まれ、ブラジル出身。テレビ番組のAD、週刊誌の記者を経て、現在は映画やドラマの脚本、演出を幅広く手掛ける。近年の作品は、Netflixドラマ『全裸監督』、ドラマ『雪女と蟹を食う』、映画『ミッドナイトスワン』などがある。
『マッチング』
(KADOKAWA配給/2月23日より全国ロードショー)
監督:内田英治
出演:土屋太鳳、佐久間大介、金子ノブアキ ほか
©2024『マッチング』製作委員会