山田涼介×浜辺美波による、世界で“いちばん静かな”ラブストーリー。声を出すことをやめた青年と、視力を失った音大生が過ごす、かけがえのない日々を描く。過去の出来事から声を捨てた蒼(山田涼介)は、ある日、事故で視力を失い絶望の中でもがくピアニスト志望の美夏(浜辺美波)と出会う。次第に惹かれ合い、少しずつ距離を縮めていく2人だが、思いがけない運命が待ち構えていたーー。原案・脚本・監督を務めた内田英治監督に、制作秘話や作品を通して伝えたかったこと、キャストの魅力を伺いました。
(これはQLAP!2024年1月号に掲載された記事です)
声を捨てた青年と光を失った音大生の純愛を描く本作。物語が生まれたきっかけやこの作品で描きたかったこととは?
自分が思春期を送った時代に比べ、今の時代は情報が視覚面でも音の面でもすごく多い。そんな中、見えない、聞こえないという最小限の状況下で伝えられる愛情って何だろう? 人間が本来持つ純粋な愛の形とはどんなものだろう?と考えたのがこの作品の始まりです。確かに蒼は言葉を発さず、美夏は事故で目を負傷しますが、“障壁を乗り越える愛”にはしたくなかった。あくまでも本作で描きたかったのは、コミュニケーションの手段が極端に制限された中で気持ちを伝え合おうとする2人のシンプルな愛。
ただし、そういった作品が映画として成り立つのか、不安はありましたね。誰も役を引き受けてくれないんじゃないかって(笑)。役者さんもやっぱり、セリフのない役はやりづらいと思うんです。と同時に、役者さえしっかりしていれば、セリフがなくても十分伝わるんじゃないかという思いもあって。“目で語る”なんて言葉自体、今ではあまり使われなくなりましたが、登場人物が目で語るような映画になればいいなと思っていました。
主演の山田涼介くんのキャスティング理由や役者としての魅力を教えてください。
山田くんは基本的に声を使う歌手であり、役者ですから、言葉を発さない蒼という役に対してはチャレンジする意識もあったと思います。僕は山田くんの作品に限らず、日本のテレビ番組や映画にあまり詳しくなくて。キャスティングの過程で彼の名前が挙がったときも、作品を通して見るのではなく、素の彼を知るところから始めました。
実際にお会いした山田くんは、すごく物静かな青年。シャイになっていたのかどうかはわかりませんが、静かに佇む姿に共感を抱きましたし、彼なら蒼にぴったりだと思いましたね。ベラベラとしゃべるタイプではなく、自身について発する情報量がとても少ないのは山田くんも蒼も一緒。でも、その中には気迫ややる気、演技に対する思いが確実にあって。役者自身が持つ表現力に懸けたい気持ちが僕にもありましたし、彼が本来持っていながら、今まで出すことのなかったものを出す機会になったんじゃないでしょうか。ご覧いただく方にとっても新鮮な山田涼介が映画から感じられるのではないかなと思います。
山田くんと浜辺さんは、蒼と美夏の人物像や2人の関係性をどのように作っていかれましたか? また、監督は、そんな2人とどう向き合っていたのでしょう?
最初のうち、蒼と美夏の感情はなかなか混じり合いません。物語が進むにつれてようやく心が通い始めるわけですが、変化していく2人を第三者目線で見るのはとてもおもしろいことでした。山田くんと浜辺さんは熱すぎもせず、冷めすぎもせず、粛々と役の変化に向き合っていましたね。山田くんはたぶん、プライベートにも役を持ち帰るタイプなんじゃないかなと。浜辺さんは役について猛勉強するタイプ。忙しいのにどこでやってるのか不思議ですが、撮影時には出来上がってるんです。撮影現場では明るく振る舞っていましたが、見えないところですごく努力していたと思います。
彼らにはガチガチに役作りをして撮影に臨むのではなく、その場で生まれたものを大切にしてもらいました。傷ついた美夏に蒼が触れるシーンやラストシーンもそうで、役の心情に寄り添った2人の芝居によって生まれたシーンも多くありました。山田くんも浜辺さんもその場で生み出してくれるものが多い俳優さんだと言えますね。
心に傷を抱える蒼を演じた山田くんの芝居で特に印象に残っていることや驚いたことはありますか?
美夏に大学の同級生だと勘違いされた蒼は、彼女の夢を叶えるため、ピアノの上手な非常勤講師の北村(野村周平)に『自分の代わりにピアノを弾いてほしい』と頼みますが、蒼の中には彼に対する劣等感があります。世の中的にはマイナスなものとして捉えられがちですが、僕は劣等感という感情にこそ人間らしさを感じるし、そういった感情を山田くんは人間味たっぷりに表現してくれました。旧講堂で一緒にピアノを弾く美夏と北村を窓ガラス越しに見るシーンなんて、表情があまりにも切なくて、脚本を書いた僕でも泣けてきましたから。悲しい顔を見ていて胸が痛くなりました(笑)。
山田くんの演技で印象深いシーンと言えば、蒼の過去を描いたシーンもです。乱闘シーンで相手に向かっていくときの目が真っ赤で。あれ、CGなどではなく、感情の変化とともに目が真っ赤になっていったんですよ。どうすれば、ああなるんでしょうね。すごいですよね(笑)。
文=渡邉ひかる
内田英治監督
うちだ・えいじ/1971年3月27日生まれ。ブラジル出身。雑誌記者を経て、2004年に映画監督デビュー。現在は映画やドラマの演出、 脚本を手掛ける。近年の作品は、Netflixドラマ『全裸監督』、映画『ミッドナイトスワン』など。
『サイレントラブ』
(ギャガ配給/1月26日より全国ロードショー)
監督:内田英治
出演:山田涼介、浜辺美波 ほか
©2024「サイレントラブ」製作委員会