東野圭吾の同名ミステリー小説を重岡大毅主演で実写化。登場人物は全員役者で、彼らが挑む新作舞台の主役の座を争う最終オーディションの場である、“大雪で閉ざされた山荘”という架空の密室空間で起こる連続殺人事件を描く。同じ劇団所属の役者6人と外部からの参加者・久我和幸(重岡大毅)。次々と参加者が消えていき、「これはフィクション?」「それとも本物の連続殺人事件?」と、疑心暗鬼に陥っていく――。メガホンをとった飯塚 健監督に制作のこだわりや撮影裏話を聞きました。
(これはQLAP!2024年1月号に掲載された記事です)
監督が感じた原作の魅力や、映画化する上で意識したことはどんな部分でしょう?
原作は東野圭吾さんが1992年に発表したミステリー小説。プロデューサーから声を掛けていただき脚本を読んだときは、まず役者が“演じるを演じる”という多重構造の内容に惹かれました。と同時に、映像化するには骨が折れそうだなと。密室サスペンスということもあり、ほぼワンシチュエーションで画変わりの少ない作品なので工夫が必要。そのため、登場人物たちが宿泊所に到着するシーンを冒頭に入れたり、宿泊所を俯瞰で捉えたショットを入れたりして、見る人を飽きさせない画作りを目指しました。
あと、原作は平成の序盤の作品ですが、映画の舞台は令和の現代。 原作では手紙だったのをマッピングでの表現としたり、時代設定に合わせた改変もしています。多重のトリックや複雑な人物描写から、映像化は困難だと言われてきた原作なだけあり、本編をご覧になった東野さんの第一声は『難しかったでしょ?』でした。でも、『おもしろかった』とも言ってくださって。原作から大胆に 変えさせていただいた箇所もあったのでホッとしましたね。
主演の重岡大毅くんの役者としての魅力や、芝居で印象的だったことは?
重岡くん演じる久我は、オーディションの最終選考の7人の中で唯一の部外者。劇団員たちの輪の中に入っていくわけで、周りから発信されるものを受ける立場にあります。そんな中、受ける顔が一つにとどまらず、コロコロ変わっていく表現を見せてもらいたかった。たとえば悲しいシーンは、単に悲しい顔をするだけの芝居ではダメで、大切なのは悲しみ以外の何かを香らせられるかどうか。その点、重岡くんはさまざまな表情を持っていて、どんな渦中にいても、人間は同時進行でいろいろ考えているものだと感じさせてくれる役者。『#家族募集します』で仲野太賀くんの役とキャッチボールするシーンを見たときにもそう感じました。
今回の撮影でもすごく考えているのに、飄々としていて。印象深いのは、ラストシーンの撮影で、こちらは全然問題なかったんですが、珍しく重岡くんから『もう1テイクやりたいです』と言ってきたんです。何か感じたものがあったんでしょうね。変化していく久我の表情にもぜひ注目して見ていただけたらと思います。
脇を固める若き劇団員には、同世代キャストが集結。監督が思うそれぞれの魅力をお聞かせください。
本作は“役者が役者を演じる”上で、さらにオーディションで“シナリオを演じる”という三重構造。キャスト全員が本心と芝居を交錯させる役者を演じていますが、“演じるを演じる”を最も体現するのが間宮祥太朗くんの役どころ。複雑な役なので矛盾が起きないよう、彼とはかなり話し合いました。中条あやみさんは沸点に持っていくのが速い人。さっきまで明るかったのに気付くと目に涙がたまっていたりするんです。そして岡山天音はこじらせてむちゃくちゃな役をしっかり演じてくれましたし、戸塚純貴も役を立体にしてくれました。堀田真由さんはシリアスなお芝居におもしろ味を加えてくれたりもして。西野七瀬さんと森川 葵さんも、骨格が複雑な物語の中で正解を叩き出していました。
個性あふれる面々の中に久我は部外者として一人で入っていきますが、重岡くんは現場でムードメーカーを買って出てくれていましたね。普段からグループ活動をしている時点で、交ざるという環境に常に身を置いている。ある種の劇団性みたいな思考を補完材料として持っていたのかもしれません。
本作は、登場人物が“全員役者”であり“全員容疑者”。複雑な芝居と向き合うキャストたちの撮影現場での様子はいかがでしたか?
キャストは当然ながら全員役者で、役者という仕事を普段から身を持って知っている。そのため、自身から手繰り寄せられるものも多かったのではないかと思います。けれどその分、どこまでリアルに演じるかを苦心している印象はありました。
中でも厄介だったのは、“ウソの芝居”をしなくてはいけない役の人たちでしょうね。自分が言っていることをもう一人の自分がせせら笑うような状況が続くわけで。今は本音を言っているのか、芝居をしているのかを常に話し合いながら慎重に撮影していきました。演じていて矛盾を感じたときには、間宮くんを中心に意見を出してくれたり、重岡くんやほかのキャストも含めて1時間近く話し合ったりもして。全員が役の整合性にはすごく気を遣っていましたね。
文=渡邉ひかる
飯塚 健監督
いいづか・けん/1979年1月10日生まれ、群馬県出身。2003年に映画監督デビューし、現在はドラマや舞台の監督、脚本、編集も手掛ける。近年に手掛けた映画は、『宇宙人のあいつ』、『野球部に花束を』、『ヒノマルソウル〜舞台裏の英雄たち〜』など。
映画『ある閉ざされた雪の山荘で』
(ハピネットファントム・スタジオ配給/1月12日より全国ロードショー)
監督:飯塚 健
出演:重岡大毅、間宮祥太朗、中条あやみ、岡山天音、西野七瀬、 堀田真由、戸塚純貴、森川 葵 ほか
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