2019年「第17回 このミステリーがすごい!大賞」を受賞した、倉井眉介による同名小説を亀梨和也主演で映画化。絵本『怪物の木こり』の怪物の仮面をかぶり、斧で人の脳を奪い去るという連続猟奇殺人事件が発生。次のターゲットとして狙われたのは、弁護士の二宮 彰(亀梨和也)。しかし二宮は、殺人すらいとわない、冷血非情なサイコパスだった。 なぜ二宮が狙われるのか、そしてなぜ犯人は脳を奪うのか。警視庁のプロファイラーである戸城嵐子(菜々緒)らが捜査を進める中、二宮も犯人への逆襲を狙う。映画の見どころや制作秘話、そして主演の亀梨の魅力を、本作を手掛けた三池崇史監督に伺いました。
(これはQLAP!2023年12月号に掲載された記事です)
本作は“サイコパス弁護士”と“正体不明の連続殺人鬼”の死闘を描くサスペンス。映画化する上でこだわったこととは?
原作は、第17回『このミステリーがすごい!大賞』を受賞した倉井眉介さんの作品。サイコパスの映画や小説はすでに数多く存在していますが、この原作は、なぜその人がサイコパスなのかが描かれている点がおもしろいなと思いました。起こる事件は悲惨だけど、その背景は悲しくもあって。誰もが、ピュアだった子供時代からいろんな経験をして今の自分になっていて、それはサイコパスである主人公の二宮も同じです。今まで“サイコパスってこういうもの”と信じ込んでいて、理解してあげようともしていませんでした。でもそういう考えを変えるべきだと思ったし、今回の作品はサイコパスを理解しようと寄り添う、珍しいタイプの映画になったと思います。しかも二宮は作中で少しずつ変化していって、犯した罪は消えなくとも希望を見いだせる部分がある。
予告映像はおどろおどろしく“サイコパス×シリアルキラー” とうたっているので、ファンの方も『亀梨くん、ひどいことさせられているんじゃない?』と不安になると思うけれど、 実際に見ていただいたらきっと、癒やしを感じることができるはず。僕にとっても二宮という役は非常に興味深い人物で、完成したものを見終わった後は、友達になってやってもいいかな、という気持ちになりましたね(笑)。
“狂気のサイコパス”を演じた亀梨和也くんの魅力や主人公・二宮との共通点とは?
アイドルの方って、極端に言うと本当の姿を見せる瞬間がなかなかないですよね。亀梨くんも長く仕事をしているし、きっと友達や家族といるときでも、どこか“アイドルの亀梨和也” でいようとすると思うんです。だからこそ、彼は本当の顔を見せないサイコパスを理解できると感じたし、愛情を持って役に入り込んでもらえると思いました。それに亀梨くんは顔が美しい。じっとしていると美しすぎて不気味に見える瞬間がある。 二宮役としては、これ以上ないぐらいの理想的なキャスティングでしたね。
二宮と同じように亀梨くんも常に冷静な印象ですが、彼はまったくバリアがない人。若い頃からずっと大人の中で仕事をしてきた人だから、世代的なギャップを感じさせないという特殊能力があるなと。亀梨くんとは今回初めての仕事でしたが、自然と近所の友達みたいな感覚になりました。座長としては、ぐいぐいリーダーシップを発揮しようというタイ プではなく、相手と対面したときに芝居の中でお互いを引っ張り合うような不思議な牽引力がある存在でしたね。
リアルなサイコパスの描写を演出する上で、監督が大切にしたことや意識したこととは?
亀梨くんに求めたのは、“何もしない”演技。俳優は相手にメッセージを伝えるのが仕事ですが、今作で彼が演じているのはサイコパスなわけで、ウソを言っているセリフに説得力がある必要はありません。 演技でサイコパスを表現しようとすると、とたんにウソくさくなるので、できるだけ表現を抑えて演じてもらいました。とは言え、俳優の彼にしてみれば、どうしても芝居をしたくなる瞬間がありますよね。 それでストレスがたまるくらいなら思うがままにおもいっきり演じてもらい、編集でカットするかはこちらの判断に任せてもらえばいいと伝えました。
それから衣装合わせのときには、『二宮はたぶんナルシストだよね』という話もしていて。それを彼なりに解釈してくれたのですが、亀梨くん自身の持つ色気がにじみ出すぎてしまうときがある。 そこはキレイになりすぎないように、編集で抑えたり意識しました。
映画版ならではの見どころや注目ポイントを教えてください。
原作では戸城が二宮に惑わされる描写があるのですが、映画ではそこは強調せず、婚約者・映美(吉岡里帆)との関係性を強く描きました。サイコパスの二宮にとって映美はニセモノの恋人ですが、物語が進むにつれて少しずつ関係性も変化していきます。クライマックスでは二宮が自分の大切な人にどう向き合うのか、独特なラブストーリー要素にも注目していただけたらと思います。
映美も難しい役どころですが、吉岡さんの芝居には包容力がある。カメラテストを何度しても演技がぶれないし、亀梨くんもすごくバランスが取りやすかったのではないでしょうか。また二宮と映美のシーンでは、二宮がどこまでサイコパスで、どこまで気持ちが変化しているのか、あえて説明的なセリフは作っていません。僕は観客の感性を信じた上で演出をしているし、そこはこの作品を見てくださる皆さんに好きなように解釈してもらいたいですね。
バトルシーンやアクションシーンの撮影で印象的だったことはありますか?
周知のことですが、亀梨くんは身体能力が素晴らしい。アクションも難なくこなしていたし、二宮が怪物に追われて歩道橋から飛び降りる場面も本人が演じてくれています。 事前練習はなしで現場でアクションシーンを作っていったので、最初は『え、オレ飛ぶの?』という驚いた顔をしていましたけど、できないとは絶対に言わない。けっこう高い位置からマットの上に飛び降りるのだけど、楽しみながら演じてくれました。
それから二宮がバスケットボールを防犯カメラに当てて壊すシーンも、亀梨くんが実際にボールを投げて撮影しています。たぶん彼は、自分が納得するまで挑戦したいタイプ。失敗すると子供みたいに悔しがっていたし、命中させるまで何度も挑戦してくれましたね。
文=室井瞳子
三池崇史監督
みいけ・たかし/1960年8月24日生まれ、大阪府出身。1991年に監督デビューし、多数の映画、ドラマ、演劇の演出を手掛ける。近年の作品は、 映画『妖怪大戦争 ガーディアンズ』、ドラマ『警部補ダイマジン』など。
『怪物の木こり』
(ワーナー・ブラザース映画配給/公開中)
監督:三池崇史
出演:亀梨和也、菜々緒、吉岡里帆、柚希礼音、みのすけ、堀部圭亮、渋川清彦、染谷将太、中村獅童
©2023「怪物の木こり」製作委員会