【LIVE REPORT】
Alaska Jam ONEMAN LIVE “Hello from LIQUIDROOM!!!”
2023.11.13 at 恵比寿LIQUIDROOM
バンドが続いていくことって奇跡に近いと思う。そもそも誰かと同じ志を持ちながら同じ方向に進んでいくことが難しいのに、バンドとなればなおさらだ。バンドとしてだけでなく、個々の活躍の場が広がればそれだけ他の選択肢や自分の人生を見つめ直す瞬間も増えていくだろうし、ずっと同じままでいられることのほうが圧倒的に少ないと思う。それを誰より痛感しているのは他でもなくメンバーであり、その奇跡が続くことの幸せを誰より噛み締めているのもメンバーなのだろう。Alaska Jamが開催したワンマンライヴ〈Hello from LIQUIDROOM!!!〉を観ていたら、そんな思いが自然と込み上げてきた。
11月13日、会場は恵比寿LIQUIDROOM。ここは彼らにとって最大キャパで、しかもこの日はベース・石井浩平が脱退後初のライヴでもあった。だからか、開演前のフロアにはどこか緊張感が漂っていたようにも思う。開演時間を少し過ぎた頃、ステージ上に勢いよく現れたのは、森心言(ヴォーカル)、小野武正(ギター)、山下賢(ドラム)、そしてサポートメンバーのTHE ORAL CIGARETTES・あきらかにあきら(ベース)の4人。あきらかにあきらといえば小野の昔からの友人であり、彼が尊敬するプレイヤーの一人であることはファンなら誰もが知っているだろう。新生Alaska Jamとして初めてステージに立つ大切な日だからこそ、心から信頼している彼にサポートを依頼したのではないかと想像する。
「REBEL REBEL」で幕を開ければ、瞬く間に興奮の渦へと巻き込んでいくのは流石Alaska Jamだなと思う。森の力強く繰り出されるラップ、小気味良くて中毒性の高い小野のギター、精緻で頼もしさを感じる山下のドラム、そしてこの日がAlaska Jamとして初のライヴとは思えないほど他の3人に馴染みながら、絶えず熱量が迸っているあきらのベース――それらが融合する様に、否応なしにこちらのテンションも上がっていく。周りの観客も気がつけばみんな音に合わせて身体を動かしていたし、先ほどまでの緊張感は一体どこへやら、という感じだった。
個人的に特に沸いたのは、ドリンクをテーマに制作された楽曲が立て続けに披露された時のこと。胸に染み入るようなメロディが印象的な「Black Coffee」に始まり、「みんなは何が呑みたいー?」と森や小野が観客に問いかけ、ウイスキー、焼酎、カシオレなど思い思いに好きな酒を挙げていく。この流れから「RISKY WHISKY」などライヴでお馴染みの曲に行くのかと思いきや、披露されたのはまさかの新曲だった。その名も「Craft Beer」。今年の夏にあきらを含めた4人で合宿を行い、その時に制作されたという。遊び心満載な韻を踏んだ歌詞も絶妙だし、何よりバンドの良好な関係性が透けて見えるようなグルーヴに魅了されたのだ。
この「Craft Beer」の他に先日配信リリースされたばかりの「Howling」などの新曲が披露されたが、どれも不思議とAlaska JamはAlaska Jamのままなんだなと思えるもので、4人から3人になった事実を前向きに捉えることができた。喧嘩をしたわけでもなく、お互いの生き方を尊重し、お互いを大切に思っているからこその別れであり、バンドという関係性に終止符を打っても、彼らは友人として交流を続けている。実際、この日のMCで何度も石井の名前が挙がっていたが、その話題は「昨日も会った」「今も友達だし」「今日も観に来てるんですよ」と変わらぬ関係性を窺わせるものばかり。感情を剥き出しにして「浩平ありがとう!」と叫ぶ瞬間だってあった。でも、未練がましいと思うことはなかった。それどころか、〈大事な仲間が心血注いできたバンドをここで止めてたまるか〉という強い意志がこの日の演奏には滲んでいたように思う。
森が「ここに集まった全員がAlaska Jamの音楽をきっかけに集まった仲間だと思ってます。そんな仲間たちに感謝の気持ちを伝えます」と語ったのちに披露されたのは「Just Living」。目の前にいる彼らの演奏に目を向けながらも、私は約10年前に制作されたこの曲のMVを思い出していた。公園で楽しそうに時間を過ごす4人と、不意に見せる一人一人のセンチメンタルな表情や佇まいとの対比が印象的な作品だ。
〈Just Living その足で歩く道 理由などなくていい ただbreathe〉
森がこの言葉を綴った頃に思い描いていた未来とは違うかもしれない。でも、理由なんかなくてもAlaska Jamとして進んでいきたい。そんな真っ直ぐな思いが伝わってくるような、力のこもった歌声が会場に響き渡っていた。
この日、小野は「この先の予定は何も決まっていません!」と話していたが、だからといって、彼らはAlaska Jamを止めようだなんて微塵も考えていないはず。むしろバンドを続けていく姿勢を提示するためにもこのライヴを開催したわけで、ただただこのメンバーで音を鳴らしていきたいという純粋な思いが原動力となって、彼らはこのバンドを更新し続けているのだろう。KEYTALKというバンドや楽曲提供者、サポートミュージシャンとして個々に活躍できるメンバーが集結しているにもかかわらず、このバンドにしか鳴らせない音があることを信じて歩みを止めないところがAlaska Jamの魅力だ。それを再確認しつつ、続いていくことが改めて嬉しくなった。
そう思ったのは我々だけではなく、ステージ上にいた彼――あきらかにあきらも同じだった。アンコールでこの日の感想を求められるやいなや、涙が溢れるあきらに驚く3人と観客。あきらは涙の理由を「Alaska Jamが終わらなくて本当に良かったなって思って……俺、このバンドが本当に好きなんです。だから、みんなAlaska Jamをもっと熱量高く応援して! よくバンドが解散したあと『もっとライヴ行っておけば良かった』って言う人おるけどさ……そんなん知らんし!」と涙ながらにその胸中を告白。一見クールな彼の情の厚さに胸を打たれたのは言うまでもなく、とにかく、この日はステージにもフロアにも愛しかないなと思った。
バンドの終わりはある日突然やってくるかもしれない。冒頭で述べたように、バンドが続いていくことは奇跡的で、そう思っているからこそ、その奇跡を守り抜くための覚悟が感じられたり、泥臭さが垣間見えた瞬間、自分はどうしようもなくグッとくる。それはきっと他のジャンルでは決して代えのきかないものだ。バンドという集合体の唯一無二の魅力、それをAlaska Jamが改めて教えてくれた時間だった。
文=宇佐美裕世
写真=後藤壮太郎
【SET LIST】
- REBEL REBEL
- カミナッチャ!
- PUMP IT UP
- ALASKA FUNKY4
- MY CONVERSE
- Howling
- モラトリアムコレステロール
- Black Coffee
- Craft Beer
- RISKY WHISKY
- Champagne
- 焼酎
- Just Living
- FASHION
- ゴーストピーポー
- MY VINTAGE
- 少年と樹
- 東京アンダーグラウンド
- Jump Around
ENCORE
- アニマルズ
- BLUE