〈佐藤良成 INTERVIEW〉
『FOLK』シリーズは今回で4回目となりますが、もともとこの企画をやるきっかけってなんだったでしょうか。
「これは自分たちが15周年の時に初めてやった企画なんですけど、それまで〈周年〉っていうことを自分たちから言うのはダサいなって僕は思ってて。そんな無粋なことはしないぞってカッコつけてたんだけど、何もしないでいると『あの人たちって周年を祝ったりしないんだね』とすら言われることもないじゃないですか。やってれば『やるんだね』とか『周年なんだ』とか言われるけど。だったらそこにこだわるのは意味がないと思ったのと、ライヴをするにもリリースをするにも〈周年〉っていう柱ができるんで、イキがってたことをやめて。で、それまでやったことがなかった再録とかライヴでよく人の曲をカヴァーしてたんで、それをフォークというテーマでくくった作品を出したのがきっかけですね」
そして25周年の今回も出すことになったんですね。
「最初はやらないつもりだったんですけど、今までやってきて今回だけスルーするわけにもいかなくて(笑)。〈もう二度とやりたくない〉って思うぐらい大変なんですよ」
てっきりめちゃめちゃ楽しんで作ってるのかと思いました。でも実際は大変なんですね。
「どんな作品も大変なんですけど、これは大変さの種類が違うというか。いろんな楽器を入れたり凝ったアレンジで成立している曲を、全部ふたりだけで過不足なくやらなきゃいけないのと、普段ライヴだと成立している曲をレコーディングで同じようにやろうとすると、より完璧なものを目指す必要があるので」
でもそこまでシビアな印象を作品から受けないのは、佐野さんの歌によるところが大きいのかも。どんなタイプの曲もすごくリラックスしててのびのびと唄ってるので。
「そうですね。あの人がやると、楽しくのんびりやってる感じになるんですよね。で、そう思ってもらえることはいいことですし、僕も『大変です』とか言わないで『リラックスして作りました』って言っちゃえばいいんですけどね(笑)」
そういうおふたりのコントラストみたいなものが強く感じられるアルバムだと思いました。あと、〈佐藤さんはどうしてこんな歌詞を書くんだろう?〉って思いました(笑)。
「え、そんな変な歌詞ありました?」
変な、とは言ってないです(笑)。
「あははは」
でも昔から佐藤さんの歌詞って、ハンバート ハンバートの音の聴き心地だったり佐野さんの柔らかい歌の雰囲気と対照的というか、毒素の強いものだと思っていて。どうしてこういう歌詞を書くんでしょうか。
「なんなんでしょうね。思いついちゃったから書いてるだけなんですけど」
自覚的ではない?
「曲より先に歌詞を書くことがまったくないんですよ。まず曲ができたら、そのメロディが持ってる感情とか物語の気配みたいなものにピッタリくるような言葉を探していく。例えば最初に浮かんだ言葉が次の言葉を引き連れて、どんどん言葉が浮かんでいくうちに、気づいたらやたら暗い歌になっちゃったり。だから最初から〈こういうストーリーを作ろう〉みたいな意識で書くことはあんまりないですね」
暗い歌になっちゃった歌詞を自分で見て、どんなことを思います?
「自分で見て……自分ではどうとも思わないかな」
例えばなんとなく選んだ服を着て鏡の前に立ってみたら〈え、こんなだったの?〉みたいな感じで自分に驚いたりするようなことは?
「どうだろう……鏡を見ても何も思わない気がする。とにかく曲ができたら遊穂に聴いてもらうんですよ。で、彼女が『いい』って言えばいいけど、『ダメ』って言われたら作り直したり。だからこういう歌詞を書く自分自身について何か思うっていうことは、あんまりない気がします。でも、作ってる時の自分の気持ちが全部歌詞に出ちゃってるんだろうな。別にノンフィクションを書いてるわけじゃないけど、その時に自分が考えていたことが言葉に反映されてるとは思います」
内省的な歌詞を書いてるのに、自分自身には無頓着なんですね。着たい服を着て鏡を見ることもないというか。
「鏡も見ないでそのまま出かけちゃう感じですね(笑)」
で、たまに奥さんにダメ出しされる、みたいな(笑)。
「しかも彼女の場合、ジャッジがすべて直感なんですよ。曲を聴かせたら、その場でいいか悪いかを即答する。そこはお互い遠慮しない関係なので、バッサリと」
それは夫婦だからできることだと思います?
「どうなんでしょうね。夫婦になる前からそうですし。やっぱりこちらからすれば、正直な意見を聞きたいので、変に遠慮されても困るんですよ。むしろ彼女は誰よりも僕に率直な意見を言ってくれる相手なので。でも、メロディにどうこう言ってくることはないんです。それは彼女が自分で曲を作ったりすることがないので、僕の中でOKであればそれはOKなんです。ただ、自信がないのは歌詞のほうで。この歌詞でいいかどうか、それをいつも彼女に聞きたくて」
それはやっぱ彼女と一緒に唄うものだから?
「いや、もし自分ひとりで唄うものだとしても、彼女に助言をもらいたいですね」
どうしてなんですか?
「え、だって自分が作ったものがいいかどうかって、気になるじゃないですか。すごいドキドキしないですか? 『これってどう?』って聞きたくなりません?」
そうですね。僕も原稿を書いてる時はそうなります。
「もし彼女と一緒じゃなかったら、ひとりで作ってひとりで唄ってたかもしれないけど……や、どうだろう? あの、25年活動してきて、なんだかんだ好きなように自分たちのペースで活動して、お客さんがいてくれて、しかも曲を作ってほしいという仕事もあったりして。つまり、世間が僕らのことを必要としてくれたり、評価してくれてるわけじゃないですか。だから今は安心して曲を作れてますけど、最初に曲を書き始めた頃は、誰かに『いい』って言ってもらわないと不安で」
そうですよね。
「『いい』って言ってもらわないと曲なんてできない。で、最初にそれを言ってくれたひとりが彼女だったんです。だから……自分ひとりだったらくじけちゃってたかもしれない。何かモノを作って、その手応えをすぐ得られないままでいたら〈あぁダメなんだ〉って勝手に諦めてしまうというか。でもそこで諦めずに済んだのは、彼女と一緒にいたからで。さっき『リラックスしてのんびりしているように聴こえる』っておっしゃいましたけど、彼女は本当にそういう感じなんです。呑気というか性格的にのんびりしている。それでいて、その場でジャッジをはっきりと言ってくれる。『いいんじゃない』って。そう言ってくれる人がいたからここまで続いたんじゃないかな」
そういうおふたりの関係性が、ハンバート ハンバートの強烈な個性につながっているわけですね。
「強烈な個性ですか?」
だってどんな曲をカヴァーしても、全部ハンバート ハンバートになってるじゃないですか。こんな個性的な「リンダ リンダ」、初めて聴きましたもん(笑)。
「あぁ、そうですね」
たぶんBUCK-TICKのカヴァーをやってもハンバート ハンバートになるんだろうなって。
「なるほど。それは思いもしなかったですけど、次はやってみようかな(笑)」
つまり芯が太い音楽だってことだと思うんです。で、今の話からすると、もちろん佐藤さんの作るメロディや歌詞も重要なんだけど、佐野さんの存在がとてもデカいような気がします。
「その通りだと思います。歌詞と曲を作るのは自分だし、アレンジも自分だし、演奏も自分ばっかりだし、彼女の歌唱を指導するのも僕だし、つまり、彼女は唄うだけで本当に何もしないんですよ。なので本当はもうちょっとやってほしいなって思うんですけど(笑)」
何もしない(笑)。
「ハーモニカの蓋も、ライヴの当日になるまで開けないんですよ。で、本番になって、壊れてたことに初めて気づくとか」
度胸がありますね。
「ただぼんやりしてるだけなんです。だって壊れてることに気づいてすごい慌てちゃうし、かといってアドリブがきくわけでもない。で、僕は彼女とはまったくタイプが違って、すべてをきちんと準備する。だから、僕ばっかりいろいろ気づいて、僕ばっかりいろいろやってる感じになって、〈たまにはもうちょっとやってくれよ〉って思うことがあるんですけど、でもそういう人が相方だったから25年も続いてるんでしょうね」
すごく対照的な存在なんですね。ではご自分のことはどう思われてます?
「いわゆるミュージシャンらしい性格ではないと思う。それこそ僕はミュージシャンって、自由奔放だったり破天荒だったりするものだと思ってたんですよ。でも自分はこういう真面目な性格なので、もがきながらやってきた。そういうところが結果的にこういう暗い歌詞とかに表れているんじゃないかな……っていうことを初めて思いましたよ、今(笑)」
文=樋口靖幸
結成25周年記念盤
NEW ALBUM『FOLK 4』
2023.09.20 RELEASE
- 恋はいつでもいたいもの
- 今すぐ Kiss Me
- 格好悪いふられ方
- リンダ リンダ
- ひかり
- 見知らぬ街
- うた
- タクシードライバー
- 君と暮らせば
- 花咲く旅路
- 雨雨雷時時霰
- 僕はもう出ていくよ
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〈ツアー2023-2024「ハンバートのFOLK村」〉
2023年
11月11日(土)、12日(日)福岡・電気ビルみらいホール SOLD OUT
11月24日(金)金沢・北國新聞赤羽ホール
12月7日(木)名古屋・名古屋市公会堂 大ホール
12月10日(日)札幌・共済ホール
12月15日(金)高松・レクザムホール 小ホール
2024年
1月7日(日)広島・広島JMSアステールプラザ 中ホール SOLD OUT
1月12日(金)新潟・新潟市音楽文化会館
1月14日(日)仙台・電力ホール
1月20日(土)大阪・吹田市文化会館 メイシアター 大ホール
2月3日(土)東京・東京国際フォーラム ホールA