怒髪天・増子直純が、人生の兄貴分・先輩方に教えを乞い、ためになるお言葉を頂戴する『音楽と人』の連載「後輩ノススメ!~オセー・テ・パイセン♥~」。その〈補講編〉として、誌面に収まりきらなかったパイセン方のありがたいお話をWebにて公開していきます。
第5回のゲストは、9月6日に通算23作目となるアルバム『世界』をリリースしたクレイジーケンバンドのフロントマン、横山剣。3年後に還暦を迎える増子へ、人生の先輩である横山からのアドバイスや、意外な話題で盛り上がりをみせる2人のチャーミングな一面をここではお届けいたします。そして、両者がアーティストとして、バンドマンとして大事にしているものとは?
剣さんは3年前に還暦を迎えられたわけですが、その際、何か感じられたことはありますか?
横山「そうですね。毎年、強迫観念のようにアルバムを作ったり、ライヴをやってきてますけど、以前は、活動間隔を5、6年とか空けて、バンド以外にもいろいろやりたいなって思う時もあったんですよ。でも還暦を迎えて、休んだらいつできなくなっちゃうかわからないっていう気持ちのほうが強くなって、むしろ充電期間を取るとかができなくなっちゃったなっていうのはありますね」
ちょうどコロナ禍、真っ只中の時期でもありましたよね。
横山「それもすごく大きかったですかね。増子さんの怒髪天もそうですけど、我々もやっぱりライヴありきのバンドなので、コロナでライヴができなくなっちゃったことで、よりそう考えるようになったところはありますね」
増子「還暦を迎えるにあたって、何かやっておいたほうがいいこととかってありますか?」
横山「そうですね。とにかくやろうと思ったことはやったほうがいいですね。結婚式よりお葬式に呼ばれることのほうが増えているわけですし、いつどうなるかわらかないですから」
ただ歳を重ねれば重ねるほど、新たなものに一歩踏み出しづらくなるというか、踏み込む勇気が減っていってしまう気もするのですが、そのあたりはどうですか。
横山「それもあるんですけど、でも逆に図々しくなって、だんだん羞恥心がなくなっていくもので(笑)」
増子「べつにどうなっても、どう思われてもいいやって(笑)」
横山「そうそう。だから自分の美学の範囲内、ここだけはっていうのを守って、芯がブレなければ、あとは何をやっても大丈夫だと思うんですけどね」
増子「確かに、知らなかったことってまだまだあるんだなっていうのを、ここ数年実感していて。昔はディズニーとか全然興味なかったんですよ。サブカル一本槍で、万人受けするようなものに中指立てる感じでいたんですけど(笑)、今のうちの嫁さんがディズニーが大好きで、試しにディズニーの映画を観てみたんですよ。最初は、全然理解できないよって思ってたんですけど、いざ観てみたら、もう号泣しちゃって。それから30本ぐらい、いろんな映画を観ましたし、まさか、この歳になってディズニーランドに年に3、4回も行ったりするとは思わなかったんですよね(笑)」
横山「僕もディズニーが大好きで、旅番組の企画で香港に行った時、ディズニーランドも行きまして、もう〈ミッキーちゃん! ミニーちゃん!〉ってはしゃいじゃいましたよね(笑)」
増子「でも行くと、やっぱりテンション上がりますよね。剣さんは、ディズニー映画だと何が一番好きですか?」
横山「僕は『くまのプーさん』ですね」
増子「プーさんは最高ですよねえ! けっこうイカれてるところもありますし、〈ズオウとヒイタチ〉のエピソード(『プーさんと大あらし』)なんて、ただの悪夢ですからね」
横山「それを元にしたコーナーのある〈プーさんのハニーハント〉(註:ディズニーランドのアトラクション)も、悪夢みたいな混沌の中を行くような感じですからね」
増子「そうそう! でもプーさんってバカなんだけど、随所でいいことを言うんですよね。めちゃくちゃ泣かしてくるんだよなぁ」
ちょっと哲学的なところもあったり。
2人「そう!」
横山「ティガーは、ちょっと野坂昭如さんに似てると思ってるんですけど」
増子「ははははははは! ティガーは、ジャンプしすぎて迷惑がられるのに、いざ木の上に登ったら下に降りれなくなったり、お調子者ではあるけど、本当にいいヤツで」
横山「そうそう(笑)。彼が主役の映画(『ティガー・ムービー プーさんの贈りもの』)もなかなか泣かせてくるんですよね。家族のいないティガーが、家族を探そうとする物語なんだけど、何でもないことがこんなにグッとくるのかっていう。それこそルーが、ティガーのために動いたりするところなんかすごくグッとくるんですよねえ」
増子「あれは泣けますよねえ。でも若い頃にディズニーの世界を知ってたら、今ロックバンドをやってなかったかもなぁ。なんかもう、昔、否定していたものの真逆に行きましたよね、今」
横山「でも今だからいいんですよね」
お2人とも、ディズニーの良さをわかったのは、ある程度、年齢を重ねてからになるわけですね。
横山「そうですね。素直に向き合えるようになったのは。ディズニーって音楽も素晴らしいですし」
増子「そう、そうなんですよ!」
横山「エレクトリカル・パレードを見て何回でも泣かされちゃう。胸がガーッと込み上げてくるんですよ」
増子「わかります。でもやっぱり歳を重ねたから、素直に向き合えたんだろうなとは思いますね」
横山「でも50過ぎてから、新たなものに興味を持てることはとてもいいことですね。自分の幅が広がるといいますか。それこそ増子さんにおけるディズニーは、むしろずっと否定してきたからこそ、倍返しでくる、みたいな感じだったんでしょ?」
増子「確かにそうですね。きっと心にミッキー型の穴が、ずっと空いてたんだろうなって(笑)」
横山「はははははは! それが埋まったと」
増子「みたいな(笑)。ディズニーには、自分の心に足りなかったもの――人に対する優しさとか愛とか、それがすべてあった感じですね」
まさかのディズニートークとなりましたが(笑)、他にも何か剣さんに聞いておきたいことってありますか?
増子「俺も歌詞を書いてますけど、剣さんもずっと曲や歌詞を書いてきているじゃないですか。どういうものでインプットすることが多いんですか? よく小説とか映画とかからインプットするって人もいますけど、剣さんはどうなんだろう?って。これはぜひ聞いてみたい」
横山「小説よりは、『パンチ』とか『プレイボーイ』の昭和の雑誌を古本で見て、そこに書いてある文章にメロディがついちゃったりすることはよくありますね。〈宇宙興業〉(アルバム『ZERO』収録/2008年作)っていう曲があるんですけど、それは風俗街を歩くみたいな内容の記事の舞台を宇宙に変えて、ロケットの中でやることなくて暇だからチンチロリンをやってた、っていう歌を作ったんです」
増子「ははははは」
横山「そういう感じで、文章からメロディがついちゃうこともあるし。あとは〈タイガー&ドラゴン〉みたいに、運転しながら、ふと〈俺の話を聞け〉っていう言葉とあのメロディが一緒に出てきて、一筆書きのようにできるものもたまにあります。ただ言葉とメロディが一緒に浮かんじゃうと、それを使わないわけにはいかないので、それで真ん中に何を入れようか、みたいなことを考えることになるんですけど」
増子「詞と曲を作ってる人は、そこは絶対逃れられないところですよね」
横山「そうですね。言霊と音霊が一緒に来ちゃうので、メロディはそのままで言葉を変えて歌詞を書くってなると、もう全然弱くなっちゃうんですよ」
ファーストインプレッション、みたいなものが強烈であればあるほど。
横山「そうですね。なので、出てきた言葉を無駄にしないように、その上で言いたいことをいかに詰め込むか。ただ幸いなことに、英語が苦手なので、英語のフレーズと一緒にメロディが浮かぶことはほぼないので、そのへんはよかったです」
ロックミュージックにおいては、英語のほうが、メロディに乗せやすいという話をよく聞いたりもしますが。
横山「そうだってよく言いますけど、僕はその逆で。日本語じゃないとグルーヴが出せなくて」
増子「すごくわかります! 僕も英語は全っ然ダメで、カヴァーする時もカタカナで書いてますよ。そのほうがリズムを掴みやすい」
横山「あ、本当ですか。なかなかバンドやってる人間で、そういう方いないのに、いましたね(笑)。たぶん日本語のグルーヴって、まだまだ掘ればいっぱい出てくる感じだと思うんです」
増子「メロディやリズムと日本語の組み合わせの妙というかね。それ楽しいですよね」
横山「楽しいですね。やりがいがある。出来上がった時に、よし!ってギアが入りますから」
増子「あと、剣さんがずっと昔から言ってんだけど、楽曲至上主義というか、音楽を作る上で、曲が一番生きる形に沿ってやっていくのが大事っていう考え方が本当に素晴らしいと思ってて。アーティストのエゴみたいなものじゃなくて、何よりも楽曲が一番上にあるっていう」
横山「そう。楽曲様! どうしたってみんなエゴがあるのが当たり前で、そのエゴは引っ込める必要ないんですけど、一番偉いのは楽曲様なんですよ。だから〈楽曲様のためには〉っていうふうに、そこにエゴを持っていこうってふうにやっていくと、あまり揉めない(笑)」
増子「素晴らしい考え方ですよ。何かのインタビューで読んで、つねにその考えを念頭に入れてますよ」
増子さんは、よく剣さんの名前を挙げられて、プレイヤーやメンバーのエゴよりも、なによりも楽曲やバンドというものが一番上にある、という話をされてますよね。
横山「あ、本当ですか(笑)。幸せです」
増子「本当にそれに勝るものはないと思いますよ。でもまさか今回、剣さんとディズニーの話になるとは(笑)」
横山「ははははは! 前に(柳家 睦&ザ・)ラットボーンズのライヴで増子さんとお会いしましたけど、怒髪天も睦くんもいろんなことを思い起こさせてくれる存在で。〈このままでいいんだろうか?〉って、ふと考えさせてくれる、そのきっかけになるというか。音楽でも、バンドとしても、いろんなものに挑戦したりするわけですけど、ふとした時に〈自分たちは本来どうだったのか?〉っていうことを思い出させてくれるんですよね」
増子「いやいや、それはこちらも同じように感じてますから。先輩が、激しく曲を作って、ライヴをやり続けてる姿は、ひとつの指標になってますし、しかもつねに完成度が高い。ずっと聴き続けてますけど、新作も素晴らしいし、ほんとこれからも、いろいろ見習わせていただきます!」
文=平林道子
クレイジーケンバンド LIVE INFORMATION
〈CRAZY KEN BAND World Tour 2023-2024〉
2023年
11月23日(木・祝)神奈川・小田原三の丸ホール 大ホール
11月26日(日)沖縄・ミュージックタウン音市場
2024年
1月20日(土)宮城・仙台電力ホール
1月27日(土)三重・シンフォニアテクノロジー響ホール伊勢 大ホール
2月3日(土)千葉・浦安市文化会館 大ホール
2月10日(土)東京・町田市民ホール
2月12日(月・祝)京都・京都劇場
2月13日(火)石川・北國新聞赤羽ホール
2月18日(日)群馬・太田市民会館
3月2日(土)愛知・アイプラザ豊橋 〜泣きながらツイスト〜
〈CRAZY KEN BAND Billboard Live TOUR 2023〉
12月20日(水)、21日(木)ビルボードライブ東京
12月26日(火)、27日(水)ビルボードライブ大阪
12月29日(金)、30日(土)ビルボードライブ横浜
※全箇所、昼夜2回公演
怒髪天 LIVE INFORMATION
ドハツの日(10・20)特別公演〈祝!10周年 なんだかんだでとおまわり〉
10月20日(金)札幌ペニーレーン24 ~おもひでましまし~
10月21日(土)小樽GOLDSTONE ~小樽詰次郎記念館竣工予定記念式典(大仮)~
怒髪天 presents 中京イズバーニング〈おとぼけ vs まじぼけ〉
11月18日(土)名古屋CLUB UPSET w/おとぼけビ〜バ〜
11月19日(日) 名古屋CLUB UPSET ※ワンマン
怒髪天 presents 響都ノ宴 〈菊一輪〉
12月2日(土)、3日(日)京都 磔磔
※12日ゲスト:柴山俊之
〈暮れの元気なご挨拶TOUR '23〉
12月9日(土)仙台CLUB JUNK BOX
12月10日(日)宮古KLUB COUNTER ACTION
〈長野闘気オレリンピック 2023 "もうアカン。歳末たすけられGIG"〉
12月30日(土)、31日(日)長野CLUB JUNK BOX
怒髪天結成40周年特別企画
〈オールスター男呼唄 真冬の大感謝祭 -愛されたくて・・・2/5世紀-〉
2024年2月4日(日)、5(月)東京・渋谷Spotify O-EAST
出演:怒髪天、怒髪天にゆかりのあるゲスト多数
怒髪天 presents 湯ナイテッド・アワーヅ 2024〈春、温泉〉
2024年4月13日(土)、14(日)石川・粟津演舞場