怒髪天・増子直純が、人生の兄貴分・先輩方に教えを乞い、ためになるお言葉を頂戴する『音楽と人』の連載「後輩ノススメ!~オセー・テ・パイセン♥~」。その〈補講編〉として、誌面に収まりきらなかったパイセン方のありがたいお話をWebにて公開していきます。
第4回のゲストは、子供ばんどのヴォーカル&ギターのうじきつよし。昨年、京都磔磔での怒髪天主催イベント〈響都ノ宴〉で対バンし、また今年3月公開の映画『GOLDFISH』では、役者として共演を果たした彼ら。ここでは、昨年の京都磔磔での対バンの感想から、今なお全国各地のライヴハウスを旅する両者ならではな対話をお届けします。
映画『GOLDFISH』でおふたりは共演していますが、去年、京都磔磔の怒髪天主催ライヴ(2022年12月3日、〈響都ノ宴~祝!15周年 “おれたちまだまだ子供だよ”〉)でも共演されましたよね。
増子「我々が学生の頃、学園祭バンドといえば、子供ばんどだったし、ライヴが楽しいっていうのはこういうことなんだなっていうことの権化だもん。もう胸を借りるつもりでオファーさせてもらってね」
いざステージを共にしてみて、いかがでしたか?
増子「一緒にやってみて思ったけど、いわゆるパブリックイメージ的には、バンド内ヒエラルキーの一番上にうじきさんがいるみたいに捉えられてるとこもあるじゃない。うちも俺が一番上にいるみたいによく言われるけど」
どうしても、ヴォーカリスト=フロントマンであるからして、そう見られがちですよね。
増子「でも実際はそうじゃないんだよね。ライヴ観るとそれがはっきりとわかるのよ。三角じゃなくて丸、一塊で。しかもその塊感っていうのがもうケタ違いなのよ。やっぱり上手いなっていうのもあったし、貫禄があるのはもちろんなんだけど、しっかり気持ちが前に出てるのがわかる。それがロックバンドで一番大事なことだと、改めて思わされたよね」
うじき「よかった! 持ち時間が短かったからボロが出ずに済んだね(笑)。去年、怒髪天と一緒にやって、何にも増して楽しかったし、ダイレクトに刺激を受けましたよね。だから、そのあと『俺たち続けたほうがいいよ。いつまでやれるかわかんないしさ』っていう話をしてね。そしたらけっこう『そうだな』みたいになって。それが今年の春のツアーに繋がったところはありますね」
5月に、子供ばんどで東名阪を廻られましたよね。
うじき「まあ、若干一人欠けたんですけどね、最年長が(笑)。それで、若手ベーシストに手伝ってもらったんですけど」
名古屋公演は、フラワーカンパニーズのグレート・マエカワさんも参加されていましたよね。
増子「そんな若手ではないですけどね(笑)。しかも顔が原始人っぽいんで、人類的には先輩かもしれないんですけど」
うじき「あはははは! マエカワくんは、上手いし、すごく動きも軽やかでね。ジャンプひとつにしても、こっちは滞空時間が短いからすぐ落ちちゃうけど、マエカワくんは空中に浮いてるから! それで『やっぱ若いねえ~』って言ったら、『いやいや、もう若くないです』って言ってたけど」
まあ、マエカワさんも50代ですからね(笑)。
増子「グレートは、湯川トーベンさんの直弟子ですよね」
うじき「そうね、フラカンのプロデュースをトーベンがやったりしてたよね」
フラカンの『俺たちハタチ族』(サードアルバム/1996年作)のサウンドプロデュサーですよね。
うじき「マエカワくんも昔、子供ばんどをすごく聴いてくれてたらしくて。それで彼から『この曲やりたい』っていうのをリクエストしてもらって、セットリストに入れたりしてね。そこでもすごい刺激を受けましたよね」
増子「あと俺が思うに、全国各地でライヴをするロックバンドのツアーに対する価値観は、日本においては子供ばんどが作ったんじゃないかなって気がするんだよね。我々の世代だったり、そのちょっと下の世代のヤツらまでは、年間に100本以上ライヴをやってるってことが自分たちの誇りになってたじゃない? だからやっぱり憧れたよね、子供ばんどのライヴツアーのやり方っていうのは」
ロックバンドが全国各地のライヴハウスを廻るというのは、今は普通ですけど、昔はツアーといえば、ホールがメインでしたもんね。
増子「そう。だから、地方の小さな町には来てくれないなっていうのがあったんだけど、子供ばんどは、本当に全国津々浦々のライヴハウスを廻っていたからね。それこそ、北海道の端の北見で、ガキの頃のキュウ(クハラカズユキ)が、子供ばんど観てるんだから。それであいつ、うじきさんと同じギターを買ったんだって。だからほんとは、ドラムじゃなくて、ギターヴォーカルをやりたかったんだって言ってた(笑)」
うじき「坊主っくりの中学生が、手伝いに来てくれたんですよね。楽器とか一緒に運んでくれたりして。まさかそのチビが、クハラくんだったってだいぶあとになってから聞くんだけど」
増子「まあ、いまだにチビのまんまではあるけども(笑)」
うじき「あはははは!」
それこそ、うじきさんは、全国各地のライヴハウスをほぼ網羅されてるんじゃないですか?
うじき「上には上がいるんですよ。紋別に行った時かな? 紋別の公民館でやらせてもらったんですけど、『ロックミュージシャンでここに来たの、俺たちが最初?』って聞いたら、『いや、浜田省吾さんが以前いらっしゃいました』って言われて(笑)。いやぁ、さすがだなと思って」
増子「おお! 俺らだって紋別なんて行ったことないですよ(笑)」
北海道出身でも。
増子「札幌の人間は、道北・道東へはなかなか行かないよね。それこそ釧路ですら、2回しか行ったことないし」
うじき「まあ、遠いしね。ただ、年間100本以上とかやって、その間に海外でレコーディングして、現地でもライヴをやって……当時は、年2枚、アルバムなりEPを出してたから、ほぼ家にはいない状態でしたよね」
増子「先輩ほどではないけど、やっぱロックバンドってずっと動いてないといけないところはあるというかね。まあ、ヒット曲のひとつもあれば違うんでしょうけど、そうじゃない限りそこまで儲かるものでもないから」
うじき「レコード会社から離れて自分たちでやってた頃、『べつにアメリカなんか行ったりしなくても、日本でヒット曲出したら、いくらでも好きなことできるんだから』って、つい最近話題になった小杉理宇造さん(註:音楽プロデューサー)に言われたことがあって。まあ、だからウチに来いみたいな話だったんだけど、当時は、〈この人何言ってんのかなぁ? 関係ねえじゃん〉みたいにツッパってたわけですよ。天邪鬼だし、〈人の言うことを聞くのはロックじゃない!〉みたいな考えがすごくあって」
大人の言うことは信じるな、じゃないですけど。
うじき「うん、そういう感覚がすごくあってね。でもヒット曲、つまりレコードが売れないと、やっぱバンドとしては、だんだん厳しくなってくるわけですよ。メンバーにそれぞれ家族ができたりとかすると、いろいろ考えなきゃいけないことも増えてくるしね。だから、あとから思えば、周りの人がアドバイスしてくれたことに、ちょっと耳を傾けたらよかったかもしれないな、っていうことはあるんだけど、あの頃は、いいこと言ってくる人には、余計反発してましたよね。まあ、15の時に、『つまらない大人にはなりたくねぇよ』って気持ちで、子供ばんど、って名前をつけてるくらいなんでね(笑)」
増子「もともと俺らはハードコア/パンクバンドから始まってるんですけど、いわゆるパンクって、世の中や権力とか、いろんなものに噛みついて文句を言ってる音楽だし、それが素晴らしいなと思って始めたんですよね。で、日本人だし、英語で唄ったってみんなに伝わらないし、もっと自分が怒ってるのがわかるように、と思ってやっていくうちに、こんなわけわかんない形になってしまったんですけど(笑)」
うじき「パンクのルーツを辿れば、イギリスならパブロックに繋がっていくんだけど、それって労働者階級の人間のための音楽だったわけで、歌詞も、ものすごいシンプルなものが多いんだよね。だから増子くんのやってることは間違ってないよね」
増子「ただやっぱり、歌詞を書いてる段階では完成度の高いものができたぞと思っても、メロディに乗った時によくわかんない感じになってしまうこともあって。だからちゃんと伝わるような言葉で書かないと、歌にして投げかける意味がないなと思って。だからより平易な言葉で文句言わないと、って俺は思ってて」
うじき「そこがすごく音楽のおもしろいところというか、いいところだよね。歌になった途端にものすごく生きる言葉もあるし、文字で見て素晴らしいと思っても、唄ったら……みたいなこともある。僕は、70年代のロックに影響受けて音楽をやりはじめたから、やっぱり反骨精神みたいな部分は譲れないところではあるけど、でも聴いてエネルギーが湧いてくるような音楽であってほしいと思って作ってるところはあるかな」
増子「それこそ楽しい中に、辛辣なものだったり、真摯な気持ちがあるっていうのは、うじきさんであり、子供バンドから学んだことでもありますね」
うじき「僕も、マエカワくんに僕らのライヴを手伝ってもらったり、京都で怒髪天とやったことで、いろいろ感じることはあって。自分としては、〈いや、そんな大したもんでもないんだけど……〉って思うところはあるけど、自分たちがやってきたことを好きだって言ってくれる人がいて。しかもバリバリの現役のバンドマンから、そう言われることってすごく嬉しいことだし、幸せなことだよなって。ようやく、そう思うようになったところはあるかな(笑)」
今、ようやく。
うじき「まあ、天邪鬼なんでね(笑)。だから去年声かけてもらって、ほんと嬉しかった」
増子「こちらこそ、一緒にやれて嬉しかったです! 去年一緒にやらせてもらって思ったけど、やっぱ圧倒的に楽しいんだよね、子供ばんどのライヴは」
うじき「でも最近ですよ、バンドが楽しいって思うようになったのは。やっぱ自分は、四半世紀近く、まともに音楽をやってなかったし、昔は、『楽しい』って言っちゃいけないみたいに思ったことあったんですよ。プロってそういうもんじゃないだろ、みたいな。お客が楽しいだけで、こっちは楽しいわけないだろ、みたいな感覚がどっかにあって。でも怒髪天や、マエカワくんと一緒にやったり、フェスで若いバンドたちのステージを観たりする中で、音楽やるのがすごく楽しくなっちゃったっていうのはあるかな」
2011年に子供ばんどが復活してからは、音楽活動を精力的にされていますよね。とくにここ数年は、子供ばんどだけでなく、さまざまなユニットで、全国各地を廻られていて。
うじき「そうですね。復活してしばらくは年に1、2回、誰かが呼んでくれたらやるみたいな感じだったんですけどね。でも、みんなから本当にいっぱい刺激を受けたし、今さらなんだけど、〈自分は音楽っていう表現が一番得意なんだな〉ってことに気づいたところもあったというか。もっと早く気がつけよ!って話なんだけど(笑)」
増子「でもほんと、一緒にやらせてもらったことは、ふと我に返って、〈おお、ここまで俺もきたのか〉と思うことのひとつでしたよね」
〈子供ばんどを自分の企画に呼んでるのか〉と。
増子「そうそう。それこそ自分がバンドをやるかやらないかぐらいの時から見てるバンドだったし、そんな先輩と対バンできるなんてねえ。バンド続けてきてよかったなって思ったもん。またぜひ、何かしらでご一緒にできたら嬉しいですね」
文=平林道子
うじきつよし LIVE INFORMATION
〈藤祭2023〉
11月7日(火)吉祥寺ROCK JOINT GB
出演:REGINA / 中尾君と外丸君と藤沼君 / GOLDFISH<藤沼伸一+穴井仁吉+向井玲子+うじきつよし+増子直純(怒髪天)>
怒髪天 LIVE INFORMATION
〈ジャンピング乾杯TOUR 2023~西にはあるんだ 夢の国ンニキニ~〉
w/フラワーカンパニーズ
10月6日(金)広島セカンド・クラッチ
10月8日(日)熊本NAVARO
10月9日(月・祝)福岡BEAT STATION
10月11日(水)高松DIME
10月13日(金)大阪・梅田Lateral〈OYZのしゃべりBar〉※トークイベント
〈OYZ NO YAON! Re:6 ~朱夏の逆襲~〉
10月14日(土)大阪城音楽堂
出演:怒髪天 / 錦鯉 / フラワーカンパニーズ / ピーズ / 真心ブラザーズ
ドハツの日(10・20)特別公演〈祝!10周年 なんだかんだでとおまわり〉
10月20日(金)札幌ペニーレーン24 ~おもひでましまし~
10月21日(土)小樽GOLDSTONE ~小樽詰次郎記念館竣工予定記念式典(大仮)~
怒髪天 presents 中京イズバーニング〈おとぼけ vs まじぼけ〉
11月18日(土)名古屋CLUB UPSET w/おとぼけビ〜バ〜
11月19日(日) 名古屋CLUB UPSET ※ワンマン
怒髪天 presents 響都ノ宴 〈菊一輪〉
12月2日(土)、3日(日)京都 磔磔
※2日ゲスト:柴山俊之
怒髪天 歳末ライブ〈暮れの元気なご挨拶TOUR '23〉
12月9日(土)仙台CLUB JUNK BOX
12月10日(日)宮古KLUB COUNTER ACTION
怒髪天×長野CLUB JUNK BOX presents
〈長野闘気オレリンピック 2023 "もうアカン。歳末たすけられGIG"〉
12月30日(土)、31日(日)長野CLUB JUNK BOX