向いてるのはバンドをやること。人にいい影響が与えられるものとして、このバンドがあってよかった
いざ喋ってみたら全然違う、すごくフラットでいい人たちだったから驚いたのを覚えてます。
「そう(笑)。人当たりいいっていうのが俺の長所なんで」
自分でそう言えるヴォーカリストも珍しい。
「ふふふっ。でもその、俺たちの世代って、特に10代の時に大変なことがなかったような人間でも、普通にバンドやって大丈夫な時代になったと思うんですよ。何もなくてもそういうことやっていいんだ――いいんだろうか、っていうか」
悩んだ時期も?
「考えたことはありますね。〈何もないけどいいのかな?〉って。でも、だとしたら、ちょっと過激にやるしかないっていうのが9mmの始まりじゃないのかな。何もないけどパンクなステージングしたっていいし、そこにネガティヴな経験とか大変な生い立ちがあるわけじゃないから、やるならその人たちよりすごいことやんなきゃいけないじゃないですか」
その振り切れ方が派手でよかったんだと思う。あとは、パンクやオルタナティヴが大好き、同時にヴィジュアル系も歌謡曲も大好きと公言できる人たちは当時珍しかった。
「そうですね。LUNA SEAとかGLAYは、もう義務教育のように聴いてたから(笑)。当時テレビで流れてたようなもの。あとは小室哲哉ワークスか。でもこの世代って、初めて買ったCDがそのどれかだって人が8割くらいだと思う」
90年代のテレビで見たカッコいいスター像と、あとは90年代後半から出てきた普通の兄ちゃんっぽいバンド像。どちらも9mmの中には自然に入ってるんですよね。
「そうです。たぶん、9mmとかテレフォンズ、凛として時雨って、音楽がカタログ化された時代の子供たちだったと思うんです。ひとつのシーンとかに染まらず、まんべんなく好きなの聴いてたし。これはお兄ちゃんが聴いてたやつ、これはお兄ちゃんにロックを教えた叔父ちゃんが好きなやつ、みたいな感じで。今はサブスクで、それがものすごく簡単にできるようになったけど、そうやってカタログを参照する最初の世代だったんじゃないかな。だから何々だけが好き、このシーンだけが好き、みたいな感じにしたくなかったんだと思う、俺たちは」
それって、偏りすぎないバランス感覚の話でもありますよね。全然違う話になるけど、昨年の9月から卓郎くん、事務所の社長に就任してますよね。
「はい。そんな別に、一生懸命数字を睨んだりはしてないんですけど。とにかく『うん、うん』って言ってるかな。みんなに『いいよぉ』って言ってるだけ。ふははは!」
みんなの空気をよくする係(笑)。そういう役割も自分に向いてると思います?
「でも、できると思ってるだけで、実は向いてないと思う」
どっち?
「や、ある時思ったんですよ。マネージャーと車に乗ってて。俺は、たとえば学校の先生になるとか、動物の飼育員になるとか、何でもいいんだけどできるんじゃないか、そういうこともできたんじゃないかと思ってて。そういう話をしながら『でも違ったね、バンドがたぶん一番得意だからバンドやってるってことなんだね』って言ったら『卓郎さん……やっと気がついたんですか?』って(笑)。だから、そうなんだと思う。できる人はもともときっと素養がある。たとえ数字を考えるにしても、音楽を通して数字を使うアイディアとかがあって。曲の作り方、思考パターンとか、もうバンド向けのものが自分の中に入ってると思うから。そういう人は、バンドの事務だってできる……っていうことじゃないのかな?」
複数名が集まって、その場の空気が悪くならないように回せるのも、いわばバンドの才能ですよね。
「そうなんですよ。それがまぁ結局は大変なんですけど。昔は〈みんなで関わんなきゃ、全員が関わんなきゃ〉ってとにかく思ってた。でも、そうじゃなくてもいい、ただ集まりゃいいものができるってわけじゃないって気づいてからですね。そこにいる人たちの使い方、あとは自分をどうやって動かすか、ってことを考えるようになったのは」
なるほど。
「自分に向いてるのは、結局バンドをやるっていうことで。卓郎さんはたぶんバンドしかできないんですよって、あのマネージャーは言いたかったんだと思うんですね。得意なことがこれだった。いろんなことできるかもしれないけど、一番得意で、人の役に立つのがこれだったんだなって。人にいい影響があるもの。悪い影響を与えてしまうことも人間だから当然あると思うんだけど。できるだけ、最大限いい影響が与えられるものとして、このバンドがあってよかったなって今は思うかな」
それは、19年間続けてきたから気づけること。
「そうですね」
だって、「よし、人にいい影響を与えよう」と思ってバンド組む人はいないから。
「ねぇ? そんなの聴きたくないですもん。『絶対に人を楽しませたいと思うんだ』って言うんだったら、すごくまっとうだと思うんだけど。でも『人にいい影響を与えたいから俺とバンドを組もうぜ』って言いだす奴はヤバいですよね。それはすでに悪影響だ。そんな奴には近づきたくない(笑)」
はははは。
「だから、自分がやりたいと思って始めたことと、人にいい影響を与えられるかどうかって、別ですよね。それが一致してるのが天職なのかもしれないし。自分の場合は、たぶん一致してたからラッキー、ぐらいの感じ」
歌の内容も同じですよね。〈地獄のことが唄いたいぜ〉と思って曲作る奴はいないと思うけど、9mmみたいな音楽であれば、それは結果的にいい影響を与えるものになる。
「うん。曲作る段階で〈地獄みたいな歪みを聴きたい、聴かせたい〉みたいなものはあるんだけど。でもそれを人に聴かせる理由は〈何かポジティヴなものが届いてほしいから〉っていうことで。そういう感じでずっと続いてるのかな」
納得です。そして、9月19日の日本武道館。ヒント程度に、どんなものになりそうか教えてもらえますか?
「武道館は、でもライヴハウス武道館にしたいなと思ってますね。アニバーサリー・ツアーの中で当然一番大きな会場なんだけど、〈一番近かったな〉って感じてくれたら成功かな」
へぇ。想像できない。
「こういうふうに武道館使った人いないんじゃないかな、って思ってます。いろんな人の武道館の映像も観ましたけど、たぶんどれとも違うから。〈9mmならこうするか!〉って思ってもらえたら。なんか大きく見せるんじゃなくて、そこにいた、すごく近かった、っていう感じで見せたいですね」
文=石井恵梨子
撮影=小山恭史
NEW SINGLE
「Brand New Day」
2023.08.09 RELEASE
01 Brand New Day
02 Live Track From “19th Anniversary Tour” 23.4.9 At F.A.D YOKOHAMA
〈9mm Parabellum Bullet presents「19th Anniversary Tour」〜カオスの百年vol.17〜〉
2023.09.19(火)日本武道館
OPEN 17:30 / START 18:30
お問合せ:サンライズプロモーション東京 0570-00-3337 (平日12:00〜15:00)
◎U-NEXTにて独占生配信
〈9mm Parabellum Bullet×U-NEXT「19th Anniversary Tour」〜カオスの百年vol.17〜〉
2023.09.19(火)日本武道館公演
配信時間:OPEN18:00 / START 18:30
見逃し配信:2023年9月24日(日)23:59まで
視聴ページURL:https://t.unext.jp/r/9mm
※視聴可能デバイスに関しては以下をご確認ください
https://help.unext.jp/guide/detail/supported-devices-of-live-distribution