ここまで俺を育ててくれた場所とか人に対して、感謝を伝えていくフェーズに入っていくのかなってめっちゃ思った
いいメンバーですね。アンコールでは、1人でステージ出てきて、過去のいろんな思い出を交えてメンバー紹介して、呼び込んでましたが。
「はははは。あれ、まったく打合せしてないですからね! 俺から出ていってみんなついてくると思ったら、誰も出てこなくて、〈ええ!?〉みたいな。でもあんま喋ってなかったから、ちゃんと今日の思いを伝えておかなきゃな、と思って」
進太郎くんがメンバーに対して、あんな赤裸々に思いを伝えるのはちょっと意外でした。
「俺らって、仲がいいってめっちゃ言われるんですけど、その裏にはめちゃくちゃ面倒くさいことがあるんですよ。でもそれは別にお客さんに見せる必要ないし、言いたくもなかったんですけど……地元マジックみたいなものなのか。ここだから言ってもいいか、みたいな」
衝突があったみたいな話もしてたし、牧くんに対して、ライバルでありたいけど背中が遠いっていうのも、普段なら絶対言わないですよね。
「言わない(笑)。牧さんが一番照れてましたからね(笑)。やっぱ、気心知れた人の数が多かったんで。家族が来てたり、どこから来たか聞いた時も秋田の人がけっこう多かったし。せっかくならちゃんと俺ら4人を知ってもらって、より音楽を好きになるきっかけになればいいなって」
せっかくの凱旋公演なのに、自分が主役じゃなくて4人をちゃんと知ってほしい、っていうのが進太郎くんらしいです。
「1人でやってるものじゃないし、音楽に強く意識を持ってやってるんだから、もっとバンドの中身を知ってほしかった。こんなヤツらなんですっていうのを、鋭い角度で言えたら、より深く刺さるかなっていう気がして」
『FLOWERS』って人と人の関係や、そこから生まれるものを大事にした作品だったと思うんですけど。あのMCとそのあとの「硝子」はそれが凝縮されたシーンだったと思います。進太郎くんがちゃんと地元に思いを馳せられたからこそ、その濃度は高くなってただろうし。
「よかったぁ。今回のライヴで一番怖かったのが、思い入れを出せないっていうパターンで」
最初の話だと、そうなっていてもおかしくないですよね。
「大分の時には、牧さんが泣いたじゃないですか。俺、どうなるんやろう?って、いろいろ考えてたんですけど。昨日、前乗りして地元の行ったことないところとか、じいちゃんが働いてた鉱山に行ったりしたんですよ。自分の街をあらためて見ながら、18歳で出ちゃったから知らないだけで、めっちゃいいところあるなって。別に地元が嫌いだったわけじゃないけど、こんないい場所だったんだ、もっと大切にしようって思えて」
地元をいろいろ観て廻って、そういう気持ちになれたと。
「ここまで俺を育ててくれた場所とか人に対して、感謝を伝えていくフェーズに入っていくのかなってめっちゃ思った。だから、今日牧さんがMCで言ってた、東京とか大きい会場だけじゃなくて、お祭りみたいな感じで、地方にある地元に根ざした会場でライヴやっていきたいっていうのは、すげえ理にかなってるなって」
私は地方出身者なので、あのMC聞きながら、ぜひやってほしいって本気で思いました。
「地元でこういうライヴがあったら、外から人も来てくれるし、街が盛り上がるし、絶対いいと思うんですよね。鹿角みたいに都心からけっこう時間がかかるところもあるけど、行ったら行ったで、その土地のものを食べたり観光したり、ライヴ以外にも楽しいことってすごくたくさんあるし」
アフターコロナで繁盛してる観光地もあれば、苦戦してる地方もありますからね。
「そういえば、昨日、歩いてて気づいたことがあって。地方って時間の流れがゆっくりに感じるじゃないですか」
それ、前も言ってましたよね。地方と東京だと時間の進む速度が違うって。
「なんでなのかわかったんですけど、音楽が一切鳴ってないんですよ」
ああ、言われてみれば。さっき会場の周りを歩いたけど、聞こえてくるのって車の音か自然の音くらいで。東京だと街を歩いてるだけで音楽が聴こえてきますからね。
「そうそう。音楽が聴こえると、1秒が急に短く感じるんですよ。無音って、田舎のよさであり、逆に言うと退屈に感じる人もいる要因のひとつで。音楽聴くと感覚が刺激される。だから今朝、親にも言ったんですよ。『音楽を聴いたら、もしかしたら寿命延びるかもよ』みたいな(笑)」
はははははは。
「でもライヴってまさにそうらしいんですよ。幸せ指数があがるし、音がデカいから細胞も活性化する。人も街も一緒だと思うから、いろんなところで音楽を鳴らして、日本のいろんな街を元気にしていけたらいいですよね」
バニラズみたいに人と人の距離を大事にしながら音楽を鳴らしているバンドにこそ、いろんな場所で地元や観に来てくれた人たちと密なライヴをやってほしいです。
「音楽で何ができるんだっていう人もいると思うんですけど、絶対に何かを変えるきっかけにはなると思ってて。今日ライヴで言おうと思って言えなかったことがあるんですけど。アンコールの最後、本当は順番が逆だったんですよ。〈T R A P !〉をやってから〈LIFE IS BEAUTIFUL〉をやる予定で」
確かに、最初にもらったセトリはその順番でした。
「でもリハの時に牧さんが『これ最後のほうがいいんじゃない?』って言って、〈T R A P !〉が最後になったんですけど。俺が〈T R A P !〉を作った時の気持ちって、牧さんが〈マジック〉の時に言う、『魔法にかかっていけよ』っていうのと一緒なんですよね。俺は音楽っていう罠にずっとかかり続けて今ここにいる。だから、お前らもこの罠にずっとかかり続けさせてやるよ!っていう。それをMCで言おうと思ってたんですけど、いい損ねました。ここで言えてよかった(笑)」
そういうメッセージがあったんだ。
「はい。罠ってネガティヴに聞こえるけど、きれいな言葉でいいことを言うよりも、深く刺さるんじゃないかなと思ってて。俺ら4人は音楽の罠にハマりすぎるがゆえに、メンバー同士でケンカもするけど、超最高なライヴができたりもする。だからこれからも音楽の罠にハマり続けたいなって思うし、聴いた人を罠にハメることが俺らの使命だなって思うんです。それはやっぱり俺自身、そうされてきたから。10代の頃にザ・リバティーンズやセックス・ピストルズやレッド・ツェッペリンと出会って、ずっと罠にハメられてるんで」
抜け出せないでいると。
「そうそう。音楽と出会ったことで、俺の人生は大きく変わったし、自分の進むべき道が見えた。この道行った先にめっちゃ辛いことがあったとしても、きっといい人生になるなと思ったから、音楽にフルベットしたんで。それで東京へ出て、バニラズのメンバーに出会って、前にやってたバンドがうまくいかない時にバニラズに誘ってもらって。いろんなことがあったけど、音楽がいつもそばにあったから、シンドくても楽しかったんですよ。だから、音楽が人生を豊かにするって本気で思うんです」
そっかぁ。どうやったら、こんなのどかな場所で進太郎くんみたいなアクティヴでアグレッシヴな人間が育つんだろうって、今日ずっと考えてたんですけど、音楽に出会ったっていうことが答えなんですね。
「はははは。音楽の罠にずっとハマり続けてる。でもそれは絶対あると思いますね。バンドやってなくても、音楽は絶対に好きで、フェスによく行くヤツになってたかもしれないけど、ステージに立つ側に引き込んでくれた3人がいて。だから3人には、本当にずっと感謝してる。それはどんなに大ゲンカしても、忘れない楔として自分の中に打ってあるんで」
文=竹内陽香
写真=西槇太一
【SET LIST】
01 HIGHER
02 The Marking Song
03 I Don't Wanna Be You
04 おはようカルチャー
05 Penetration
06 ペンペン
07 クライベイビー
08 ⻘いの。
09 イノセンス
10 アダムとイヴ
11 My Favorite Things
12 Dirty Pretty Things
13 バイリンガール
14 エマ
15 カウンターアクション
16 one shot kill
17 アメイジングレース
18 きみとぼく
ENCORE
01 硝子
02 LIFE IS BEAUTIFUL
03 T R A P !