こだわりがあっても入口は大きく。TOP BEAT CLUBは ロックンロール公民館になったらいいなって
幾度となく事業計画を携えて交渉に赴くも、事業案に対する質問よりも、「雑誌の取材よりもえらい詳しく自分のことを喋った気がする」というくらい、自身について根掘り葉掘り聞かれたのだという。なかでも驚いたのが、「なんでバンドしてるんですか?」という質問。融資交渉のはずなのに、「人生観を喋ってどうすんねん。それ関係ある?とか思った」という眞鍋だったが、まったく畑の違う人々と会話を重ねていく中で、大きな気づきがあったのだという。
「住んでる世界が全然違う人たちだから、その人たちをどうやってこっちに引き込むかっていうのは、すごい勉強になったし、考え方がすごく公共的になった。世界が違いすぎて話わからへん、あいつなんやねんってなるんじゃなくて、ロックンロールはこんなに楽しいのに、それを知らないなんてもったいない!って思ったというか。だから、向こうの担当者を『ライヴおいでよ』って誘ったよね(笑)。ロックンロール楽しいよってね。やっぱりライヴハウスって閉鎖的なところがあるじゃない。若い頃はそれがいいと思ってるところもあったけど、今はそうじゃなくて。例えば1階のカフェは地元の人が気軽に来れるようにしたほうがいいよな、とか、車椅子だと行きづらいとか、来れる人が限定されるようなことはなくしていきたいなって。前々からうっすらそういうことは思ってたけど、よりそこを考えるようにはなったよね」
さらにこう言葉を続ける。
「やっぱりロックンロールって小っちゃいこだわりが多すぎて、ストライクゾーンが狭いジャンルだから、どんどんシーンがコンパクトになっていて。もっと言えば、これは音楽の世界だけじゃなく少子化とか高齢化とかで、いろんなことを次にどう継承していくかっていう世間一般の話にもつながると思うのよ。そう考えると、鎖国みたいなことをするのではなく、こだわりがあっても入口は大きいほうがいい。だから、TOP BEAT CLUBは、ロックンロール公民館になったらいいなって思ってるんだよね。それこそ近所の子供集めて、楽器に触ってもらったりしてライヴハウスという場所を体験してもらうとかね。ゆくゆくはそんなのをしたいなと思ってて。本当の『スクール・オブ・ロック』やね(笑)」
昨年12月にはクラウドファンディングにも挑戦。リターンのひとつに、地下の内装に使われる煉瓦タイル(名前入り)があるなど、資金調達のためというよりは、先に彼が語った公共性じゃないが、一緒にこの場所を作っていこうという意図が大きい。そしてロックンロール=696万円を目標金額に掲げ始まったクラファンは、3日目で目標額に到達。最終的には280%以上を達成した。そして今年に入り、ようやく信用保証協会の審査が通り、どうにか資金面も目処がたち、2月10日=THE NEATBEATSの日に、晴れてTOP BEAT CLUBはオープンを迎えたのだった。
自身のバンドによる柿落としから、まもなく2ヵ月。「もうカフェとライヴハウスをオープンするのもギリギリやった」ということで、2階のレコードショップは、4月中旬あたりの開店を目指して絶賛準備中ではあるが、いざ動き出してみてどうか?と尋ねると「いやあ、大変。もうええかなって思ってる(苦笑)」と、柄にもなくやや後ろ向きな言葉が返ってきた。
「やってみないとわからないことがいっぱいあって。足りない部分とか、いろいろ見えてくるわけよ。照明をやる人が全然いないっていうことに気づくのがけっこう遅くて、オープンして、たまたまシフト表を見たら〈あれ? 照明のやついないな〉みたいな日があって。まあ、それがニートビーツと50回転ズの日だったからよかったんだけど(笑)」
「あとクロークもそう。お客さんから『ロッカーもあるけど数に限りあるし、クロークを作ってくれませんか』って意見がけっこうあったんで、『オッケー、そんならクロークやろか』って言い出したものの、クロークやれる手の空いてるやつ誰かおる?って感じになって(笑)。結局、店に出れる日は俺がクロークやるみたいな。しかも、ちゃんと考えてやらないとあかんのやなっていうのも、やってみて知ったし。『君、誕生日いつ?』『1月3日』『ほな13番』とか、調子に乗ってバラバラに番号札配ってたら、帰りの荷物引き換えの時、えらい大変で!(笑)。『すいません、8番』『え、8番どこ!?』みたいな(笑)。もうほんと、いろいろ手探りですよ」
自身のライヴがない日は、極力、店に顔を出しているという眞鍋。確かに、昼にここを訪れた時は、まさにクロークの準備をしていたし、夜ライヴに行った時は、1階のカフェのカウンターに座り、呑みにきたお客さんと語らう彼の姿があった。
「ロンドンのあとシカゴに行った時、バディ・ガイ・ブルース・クラブに行ったの。ブルースマンにとって、自分のクラブを作るっていうのが最終的な目標みたいなところがあるみたいで、そこもたまにバディ・ガイがいてビール注いでくれたりしてね。なんかそういうホームを作るのもいいなって思ったし、俺もこんなんやりたいって思ったことのひとつだったんよね。だから、あのバンドを観るために来る場所じゃなくて、キャバーン・クラブみたいに、TOP BEAT CLUBでやるから観に行こうって感じだったり、ここがホームのように思ってもらえるようになったらいいなと思っていて。もっと言えば、老若男女問わず、ロックンロールが好きとか嫌いとかも関係なく、それこそ、たまたま入ったお店がおいしかったからまた行こう、みたいな感じになるのが自分の求めてる理想形ではあるかな。なんかいろんな人が〈ああ、楽しいな〉〈面白いな〉って思えるきっかけになるような場所にしたい。俺がイギリスのクラブやパブで、〈これやりたい!〉ってなったみたいなね」
実際に動き出してみて気付かされることや、実務と理想のバランスを考えて試行錯誤する日々は、まだまだ続きそうだが、ひとまず30年来の夢を叶えた今、眞鍋は一体どんなことを思うのだろうか。
「達成感は……うーん、あるのかな? たぶん俺、また何かやりたいって言ってしまいそうな気がするのね。常にワクワクしたいし、こうやったら楽しいやろなとか、こういうのがいいなっていうのをずっと妄想してるから。たぶんまたタイミングが合えば、こんなんやるって言い出すかもしれん(笑)。もともと飽き性なんだけど、唯一飽きてないのはバンドやし、それがなかったらたぶんこの場所も絶対に作ってないはずで。それに、いくらどんなに好きでも50年代、60年代のロックンロール文化を実際に体験することができないわけなんだけど、だからこそ妄想を膨らまして、追体験できたらいいなって思ってるのよ。だからやっぱりロックンロールには、とてつもなく夢があるし、もうここまで来たらやりたいこと全部やりたいね」
日常に音楽がある。それが当たり前になるといいなとも眞鍋は語る。1階のカフェでは、店主こだわりのフードやお酒を楽しみ、様々なミュージシャンが地下のホールでロックンロールを鳴らす。何か新しい音楽に出会いたければ、階段をあがって2階でアナログ盤を漁るのもいい。ロックンロールに魅せられ、憧れ続ける男の夢が詰まった場所が、ここに誕生した。
文=平林道子
写真=柴田恵理(LIVE)
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