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  • #吉井和哉

【特集】吉井和哉20th × 音楽と人 | AL『at the BLACK HOLE』COLUMN(2004年3月号)

孤独なブラックホールにて
文=青木優


やはりこうなったか。「TALI」を聴いてから相当ディープなものになる予感はあったが、的中していた。3年間の吉井和哉の心の葛藤を、苦闘の日々の成果を詰め込んだアルバム。自分の中のものを洗いざらい、やれることのいっさいがっさいを突っ込むしかない。おそらく彼はそんな心理状態で——いや、そこまで客観的な方向づけをする余裕もない中で制作をしていったのではないだろうか。


ドラム以外の楽器をすべて自分で演奏した全身全霊作。吉井らしいクラシック・ロックのダイナミズムも顔を見せるが、やはりあのイエローモンキーの音とは性質を異にする。もともとがマルチ・プレイヤーではないだけに、演奏に力強さや安定感はない。開放的なメロディも爽快なカタルシスも乏しい。アダム・キャスパー(グランジ系の大物サウンド・プロデューサー)がミキシングを行った3曲目までのスケール感と対象的に、吉井がミックスした4曲目以降はインナーになるばかり。ローファイとでも呼びたいその音は、かつてバンドで〈かぶく〉心——大衆に華やかなるものを見せてこそ、という心意気を身上にしていた人とは思えないほど。いなたい響きに、感傷やホロ苦さを覚える人もいるだろう。


しかしこうした〈心もとなさ〉〈内向き感〉こそ本作の持つ不気味な吸引力なのである。決して派手とは言えない曲ばかりだが、それが心にまとわりついて離れない。聴き込んだ今では、ふと気がついたらどの曲かの旋律やフレーズが頭の中を回っているほどだ。聴く者ひとりひとりの身体にジュクジュクとしみ込み、深く沈殿していくアルバムである。


さて、本作の焦点のひとつに〈バンドからソロになったヴォーカリスト〉の側面を見逃すことはできない。バンドの一員であるからこそ叫べたことも、ここからはすべてが自分だけの言葉。みんなで「せーの」で出していた音も、今度から責任は全部ひとり。売り上げも評価も、みんな自分だけがひっかぶることになっていく。ことに一枚岩の同志たちと長年にわたって苦楽を共にし、もはや身体の一部のようになっていたバンドともなると、そこを離れた時の重みのすさまじさは想像を絶する。しかも彼らは日本のロック界屈指のビッグネームでもあった。それを封印し、新しいことをひとりで始める心境は〈身ぐるみをはがされた〉といった感じではないだろうか。


プレッシャーも、孤独も不安もあるだろう。「果たして俺はやっていけるだろうか?」「自分に何ができるだろう?」……この3年の吉井は、そうやって何度も自分自身に立ち戻っては前を向き、足元を見ては顔を上げ、の繰り返しだったはずだ。というか、アルバム自体がその無間地獄のドキュメントだと感じられるフシがある。タイトルが示すのはそれだけではないだろうけど、少なくとも彼個人にとってのブラックホール——〈暗闇〉の大きなものとして、自分の行く末への不安感があったのは間違いないだろう。


さて、ひとりになってしまったヴォーカリストの歌と音はバンド時代に比べて個人性により集約し、内省が深まることが多い。ビートルズ解散後のジョン・レノンしかり(吉井は2001年の〈ジョン・レノン・スーパーライヴ〉に出演し、ジョンの「ゴッド(神)」を唄っている)、ジャックス後の早川義夫もそうだった。


YOSHII LOVINSONもその色合いを強めている。アルバムの随所で彼のルーツを連想させるものが顔を出しているのだ。「SADE JOPLIN」ではジャニス・ジョプリン。「SPIRIT’S COMING(GET OUT I LOVE ROLLING STONES)」ではストーンズ、それにニール・ヤング。また、後者ではニューヨークおよびロックと対比する形で母国を振り返るくだりがあり、イエモン時代からの日本人であることの対象化作業(バンド名、三島由紀夫、「JAM」等)がいまだ続いていることがわかる。そして現在の彼の風貌は短めの黒髪でメイクも何もしない、ただただ素の男だ。そこに3年という月日も感じるが、それ以上にカッコつけたところがまるでない、〈裸の〉と表現したくなるほどムキ身な状態の彼であることが重要である。


ただ、それではこれは彼の独白集なのか?というと、そうとは言い切れない気もする。本音めいた言葉が多い反面、暗喩・隠喩も多く、そのまま受け取るわけにはいかないところもあるからだ。たとえば「TALI」の〈育子〉の存在などどこまでが本意なのか、どこまでが事実なのか、判断しかねる。そこには真摯な感情表現の一方で「育子が誰か、あれこれ考えてみてよね」とベロを出す吉井の気配もある。昔っからお茶目な人だから。また、「SWEET CANDY RAIN」には哀しみの淵にいるようなセンチメンタリズムが漂っているのに、同時に、まるでシャンソンのように、悲劇的な自分をどこか突き放して見ているクールネスも感じられるのだ。そう捉えると、マジなようで思わせぶりなアルバム・タイトルのセンスも彼らしいと思えてくる。


そう、やはりこれは〈吉井和哉〉はなく〈YOSHII LOVINSON〉なのだ。ここにはただムキ出しの男がいるのではなく、限りなく本能的に自己演出をしながら唄うトリック・スターの影が見える。その意味で彼はソロになっても〈かぶく〉心を捨てていなかった、まだ忘れてはいないということになる。


では彼の航海は今後どこへ向かうのだろうか。それを考える時に僕は、最後の曲が引っかかってしょうがない。奇妙な電子音がブニョブニョ鳴るだけのこのモンドなインストは、へヴィな意味合いを持つアルバムのタイトル曲なのに、なんともつかみどころがない。それどころか、むしろユーモラスに、軽やかにさえ聴こえる。ここに今の彼の精神状態が託されているのではないだろうか。


吉井は「たまには陽気な歌もやります」というコメントも残しているが、それはこのあとにこそ待ち構えている予感がする。現在形を最初にこれだけ吐き出し、暗闇に吸い込まれなかった彼に怖いものなどない。まだ〈かぶく〉ことを忘れていないこのロックンローラーは、今後、大いなる変容を見せてくれるはずだ。


YOSHII LOVINSON
ALBUM『at the BLACK HOLE』
2004.02.11 RELEASE

01 20 GO
02 TALI
03 CALIFORNIAN RIDER
04 SADE JOPLIN
05 SIDE BY SIDE
06 FALLIN' FALLIN'
07 SPIRIT'S COMING (GET OUT I LOVE ROLLING STONES)
08 BLACK COCK'S HORSE
09 SWEET CANDY RAIN
10 AT THE BLACK HOLE

https://www.yoshiikazuya.com/discography/detail/28/


吉井和哉 オフィシャルサイト

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