【LIVE REPORT】
〈18th LIVE CIRCUIT 暁〉
2023.01.24 at 日本武道館
本編終わりからのアンコール。その1曲目に彼らは新曲を披露することになっていた。去年9月から年をまたいで行われたツアー〈18th LIVE CIRCUIT 暁〉の最終地、武道館だけのサプライズだ。披露するにあたってまずは2人の楽曲解説から始まった。
ツアーバンドのバンマスでもあり楽曲のアレンジを手がけるtasukuがトラックを担当し、そこに岡野がメロディを付与したという。岡野いわく新藤のギターをフィーチャーしたロックテイストが曲のイメージで、ギターの鳴らない音楽が主流になりつつある時代に、あえてギターをメインにした攻撃的なロックをやりたかった、とのこと。一方歌詞を担当した新藤は「傷つきたくないから自分を低く見積もってしまうことってあると思うけど」という内省的な詞を思わせる解説をしていたと思うが、詳しいことは覚えてはいない。
というのもそのあと披露されたその曲がとにかくインパクト絶大で、音楽で頭をぶん殴られたような衝撃を受けたのだ。さらに言うと演奏中には歌詞をわざわざスクリーンに投影するという演出もあり、もはや情報処理が追いつかない状態へ。しかもその歌詞にはいろんな四文字熟語がたくさん出てきたのだが、その中で唯一覚えているのは〈予定調和の三文芝居〉という四文字熟語のコンボのみ。ちなみに曲調は徹頭徹尾ラウドかつヘヴィでひたすらアグレッシヴ。拳を上げて思わず絶叫したくなる扇情的なロックチューンであった。
その曲の名は「OLD VILLAGER」。年老いた村の住人、とでも訳せばいいのか。岡野の「ギターが鳴らない時代に」という解説しかり、明らかに世の風潮や流れに対して〈物申す〉歌でありながら、どこか自嘲も含んでいる。世間の予定調和に合わせる気なんてさらさらない。俺たちは俺たちの道を進むんだ。そんなことを声高に主張する新曲だったような気がする。
ツアーファイナルでこんな曲を披露する彼らに対する驚きはもちろん大きかったけど、こうして今原稿を書くためにあのライヴを振り返ってみると、それこそあの曲は彼らにとって〈予定調和〉でツアーを終わらせないための重要事項だったのかもしれない。それを武道館というロックバンドにとって特別な場所で演奏することに意味があったんじゃないだろうか。
というわけでツアーファイナルの公演を振り返ってみたい。まず開演前から恒例の影アナ(註:ライヴの客席暖め役としてポルノのライヴではお馴染み)で、感染対策の注意事項をはじめ何かと〈悪霊〉という単語を連発していたことが印象的だったが、その理由が開演と同時に判明した。ステージにはホーンテッドハウスを思わせるお化け屋敷(洋館)的な大掛かりな舞台セットが組まれていたのだ。さらにモクモクと焚かれたスモークに、おどろおどろしい照明とSE。もちろんオープニングは「悪霊少女」だ。『暁』に描かれた世界観をここまでシアトリカルな演出で表現していることに驚いた。
そしてメンバーのコンディションだが、2日連続の公演にもかかわらず、岡野の声に不安はまったく感じられない。というか初っ端から声の豪速球を投げまくってくる。しかも球種はストレートから変化球まで自由自在だ。例えば「悪霊少女」の2番、サビ終わりのファルセットをロングトーン。長尺で歌を引っ張る岡野の表情はいかにも声を出すのが気持ちいいといった様子で、彼の歌に対する自信の深さが窺えた。これは『暁』リリース時のインタビューで知ったことだが、以前の岡野は歌に対しての自己評価が低めに設定されていた。得意ではあるけど誇れるほどのものではなかったという。そんな自分の歌がそこまで評価されるものだと知ったのは2020年にスタートさせたソロ活動だというのだから、デビュー24年目にして彼の成長曲線はさらに右肩上がりになることだろう。
対する新藤は前回のツアーから岡野が歌に専念することになったぶん(註:以前の岡野は歌だけでなくギターも弾くことで、バンドとつながりを求めていた)、今まで以上にバンドメンバーとのセッションに没頭する場面が多く見受けられた。ギタリストとしてバンドメンバーとヴォーカリストの真ん中ぐらいに居心地のいい場所を見つけ、そこで自由奔放にギターと戯れている、といった印象。特に印象的だったのは「カメレオン・レンズ」でのギターソロ。tasukuとツインでソロをハモる彼の顔は、10代の頃と変わらぬギター小僧のようで、でもそんな自分を気恥ずかしく思っているようでもいて、そこに彼らしさを感じた。それこそ冒頭で触れた新曲にリンクする話だが、この時代にギターソロ、しかもツインでハモるバンドがこの世にどれだけいることか。できることなら次回はもっと長尺でのソロパートをお願いしたい。マイケル・シェンカー的なやつを、もちろんギターはフライングVで。
そして予想外だったのがライヴ中盤のブロックに置かれた「ナンバー」「クラウド」「ジルダ」での演出だった。終始ステージの背後に映し出されていたのは、ロードムービーや街を行き交う人々の映像、さらにはバンドメンバーを含む彼らが歌を口ずさむといったシーンだ。どれも何気ない日常の中にポルノの音楽が息づいているストーリーを紡いでいるかのようで、前半までのシアトリカルな演出との対比にニヤリとさせられた。『暁』はエンタメという非日常に逃げ込むだけの作品ではない。むしろ、繰り返される日常の中にどれだけの希望や明日を見つけることができるのか。そんな彼らのメッセージをあの演出から受け取った。
しかしここは武道館、さらに今日はツアーファイナル。ボワっボワっとステージにファイアボールがそそり立つ「Zombies are standing out」を皮切りに、ライヴの後半はエンターテインメントに振り切ったパフォーマンスが次々と投下される。そのクライマックスはバンドセッションによるインタールードを挟んで披露された「証言」だった。映画音楽のオーケストラを想起させるドラマチックな演奏をバックに、これでもかと感情をぶちまける岡野の姿は、ミュージカル俳優と錯覚してしまうほど情熱的かつエモーショナル。新藤が8月からスタートするミュージカルの舞台を手がけることが発表されたが、『暁』と同様、今回のツアーにミュージカル的な演出や要素が盛り込まれていることは間違いないだろう。そして本編ラストは「VS」「テーマソング」「暁」という、とにかく自分で自分の背中を押しまくるアップリフティングな3曲で締めくくられ、冒頭で触れたアンコールの場面を迎えることになるのだ。
こうして振り返ってみると、ツアーが『暁』というアルバムを頼りに光の差す場所を目指す旅だったことは明らかで、そのきっかけはコロナに翻弄されまくった現実の世界にある。夜明け前、暁の空の向こう側に見つけた光。そこに向かうことがすなわち希望だというエンディングで迎えたツアーファイナル……かと思いきや、世の中はそんなに甘くない、ということなのか。希望がもたらす福音は今も訪れる気配もない。紛争は続き、天変地異は鳴り止まず、人間は不可解な生物としての歴史を刻んでいる。その事実と「OLD VILLAGER」が放つ強烈なアイロニーを結びつけることは安易かもしれないが、岡野と新藤はそんな世界とこの先どう対峙していくのか、そのヒントがあの曲にはあるような気がしてならない。2人が描く世界の続きを早く知りたいところである。
文=樋口靖幸
【SET LIST】
01 悪霊少女
02 バトロワ・ゲームズ
03 カメレオン・レンズ
04 ネオメロドラマティック
05 プリズム
06 愛が呼ぶほうへ
07 ナンバー
08 クラウド
09 ジルダ
10 うたかた
11 瞬く星の下で
12 Zombies are standing out
13 メビウス
14 証言
15 アゲハ蝶
16 ミュージック・アワー
17 VS
18 テーマソング
19 暁
ENCORE
01 OLD VILLAGER
02 Century Lovers
03 ジレンマ