D’ERLANGERの大人げないドラマーとして、そして若手バンドマンのよき先輩として、Tetsuの存在はとても大きい。昨年12月27日に日本武道館で行われた、ヴィジュアルロックに敬意を込めたイベント〈V系って知ってる?〉に、ベテラン勢から唯一ブッキングされた理由もわかる。さらに彼は、D’ERLANGERの個人事務所、株式会社カインアベルの社長としての顔を持っていることもよく知られている。予期せぬ出来事からプレイングマネージャーとなって11年。バンド運営とプレイヤーの間で、いろんな葛藤を抱え、苦悩もあった。しかしプレイヤーとしてはあまり見ないであろう部分も知ることによって、新たに気づいたこともあった。そしてそれが、今のD’ERLANGERというバンドの活動に大きく影響している。今回は、ドラマーTetsu、そして社長菊地哲、の2つの顔に焦点を当て、この11年のバンド人生を語ってもらった。
(これは音楽と人2023年1月号増刊『PHY Vol.23』に掲載された記事です)
最近のD’ERLANGERは〈SADISTICAL PUNK 2022〉と題したマンスリー企画を、2022年9月から11月にかけて月2本、Veats Shibuyaで行いましたね。
「もうコロナ禍になって約3年、今も続いてるじゃないですか。その中でもウチらは休まず、ツアーをいつも通りやる方法を選んだんです。キャパが制限されても、お客さんが来れなくても、それでもやるのがD’ERLANGERの信念だと思ったので。赤字になる可能性が高いけど、そうなったぶんはJーLOD(コンテンツ海外展開促進・基盤強化事業費補助金)を申請して補填しようと。そしたらそれが下りなかったんです」
え、じゃあ赤をけっこう抱えて?
「そうなんです。で、ツアーの精算って、半年くらいかかるんですよ。まあ、それが毎回大変な数字で。でもコロナが終わればガンガンツアーやって、すぐ返せるだろうと思ってたら、まだこんな感じなので。じゃあどうしようって考えた時に、長年活動している俺たちは、カードを何枚か持ってるな、って(笑)」
歴史と伝統というカードですね。
「はい(笑)。今までは、あえて昔の曲をそんなにやってなかったんで、再結成からちょうど15年のこのタイミングで、ファースト・アルバムの『LA VIE EN ROSE』、メジャー・デビューアルバムの『BASILISK』、avex時代、ワーナー時代、最新アルバム、オールタイムベストと6回、それぞれテーマを持ったライヴを企画して東京のみで行いました。その間、我々の大好きな全国ツアーは断念して」
やってみてどうでしたか?
「最初は、これをやんなきゃいけないのか、って気持ちもなくはなかったですけど、やってみると、メンバー同士、曲を作ったあの頃を思い出したり、お客さんが喜んでくれたり、長くやってるスタッフが『あの曲、初めて聴きましたよ』って言ってくれたりして、とても楽しくやれてます(笑)」
今のお話にも出てきましたけど、Tetsuさんは今、D’ERLANGERの事務所の社長であり、いわゆるプレイングマネージャーなわけですけど、なんでその役回りを引き受けたんですか?
「意外でしょ?」
意外すぎましたよ(笑)。僕、アニイ(ヤガミ・トール/BUCKーTICK)から「Tetsuが社長になるらしいよ」って聞いた時、「それ、絶対無理ですよ!」って言いましたけど。
「あはははは。もう11年ちょっとになりますよ。いろいろあったんですけど、かいつまんで話すと、前の事務所の体勢で、ちょっとゴタゴタしたんですね。当時、まだavexからリリースしていて、バンドにも援助金が出ていた時代。ライヴもNHKホールが売り切れるくらいの規模でやれてたから、いろいろ派手なことをやりつつも、順調だと思ってたんですよ。そしたらある日突然、マネージメントが『実は、来月の給料が払えない』って言い出して」
え、それは急に?
「はい。なんでだって問い詰めても『いや、ちょっと不明金が出ていて……』って、要領を得ないんですよ。Zi:KILLが止まる時もそんなことあったな……と嫌な過去を思い出して(笑)。もう埒が明かないから、うちの裏ボスの大石さん(マーヴェリックDC社長)に出てきてもらって、マネージメント交えて話したんですよ。そしたら給与が出ないどころか、これから払わなきゃいけないお金が2500万あることがわかって」
に、にせんごひゃくまん!
「なのに口座には金がない。聞いても全然ピンとこないんですよ。稼ぎはあったはずだし、どうしてそうなってるのかわからないので。でも話していくと、イベンターを始め、ライヴのスタッフや物販の会社とか、お世話になってきた人たちに払ってない金がそんだけあると。それを聞いた大石さんが『現在の組織は一旦解散だ! 新しい体勢を作って、Tetsu、お前が社長をやれ。なぜならお前がいちばんマメだからだ』って(笑)」
ははははは。
「単純にそれだけですよ。社長って何やるんだかわからないけど、大石さんの条件だし、やらなきゃ始まらないから、一も二もなく受けたんです」
そして社長業がスタートした、と。
「でも、何やっていいのかさっぱりわからない。だからまずアニキ(ヤガミ)が当時社長だったから、呑みに行って聞いたんですよ。『アニキ、社長って何すればいいんですか?』って。そしたら『社長っていうのはな、メンバーを守るもんだ』って」
名言ですね。
「名言なんですよ。まあ、俺もメンバーなんだけどな、とその時は思ったけど(笑)。その意味がわかってきたのは、2年くらい経ってからかな」
で、その2500万はどうしたんですか?
「詳しいことは言えないですけど、その半分以上を新しい体勢になって借金として抱えましたよ。超マイナススタート(笑)。その負債のほとんどはイベンターさんだったので、そこに毎月返すわけです。とにかくライヴをやって、毎月、メンバーに最低限を分配して、あとは返済。でもその時、前の事務所からの経理の方がいたんですよ。お金を見る人は必要だから連れていけ、ってなったんですけど、どう考えてもその人、不明金の流れとか知ってるはずじゃないですか?」
経理だったらそうですよね。
「そこでまたアニキに相談に行って。そしたら『会社にとって大事なのは元帳だから、まずそれを確認しろ』って言われて」
アニイすごいな(笑)。ちゃんと社長してたんだ。
「俺、さっぱりわかんないから『元帳って何ですか?』って聞いたら、むちゃくちゃ怒られて(笑)。『バカヤロー、明日すぐ確認しろ!』って。次の日その経理に『うちの元帳ってどこにあるんですか?』って聞いたら『このパソコンの中にありますよ』って言われて。またアニキのところに走って『うちの元帳、パソコンの中にありました』って言ったら、『バカヤロー! パソコンの中にあったら改ざんできるだろ? ちゃんと金庫に入れて、修正できないようにしとくんだよ!』ってまた怒られて(笑)。そのまた次の日、経理に『なんか元帳ってパソコンの中にあっちゃダメみたいだよ』って言ったら、もうめちゃくちゃ俺のことをウザがるようになって」
信用できませんよね。
「そういうことがあって、もうここは、俺が腹くくって頑張るしかないな、と思ったんですよ。だからその経理には辞めてもらって、一からやってみようと。そんな俺を知って、協力してあげるよって人はいっぱいいたんだけど、みんな本業がある人だったし、こっちもメンバーに生活できる金を分配しつつ、借金を返さないといけないからそんなに余裕ないし。猛勉強しつつ、11年やってきた感じです」
その猛勉強って何をしたんですか。
「エクセルの表計算から始まりましたよ(笑)。人からもらったエクセルの表を改造して、うちの会社に当てはめてみたりしながら」
ウチと同じだ(笑)。
「Tシャツとかを作らなきゃいけないから、物販の会社の人と原価とかロット数とか、今まで知らなかったことを話して。税理士さんにもアドバイスをもらって。だんだんと、こうやれば会社はやっていけるのか、ってわかるようになって。いろんな人に助けられてここまで来てますよ」
人の優しさが身にしみる、と。
「そうなんですよ。借金したイベンターさんに、毎月きっちり返してたら、気に入られちゃって(笑)。avexと契約切れたあと、ワーナーを紹介してくれたのは、そのイベンターの社長さんだったんですよ」
いい話ですね。でも、Tetsuさんは、僕が昔取材してた頃、圧倒的にロックスター気質だったじゃないですか。
「いやいやいや」
CRAZEの取材に事務所に行ったら、マネージャーさんから「今首都高が事故渋滞してて、遅れるそうです」と言われたことがあって。でもその時、僕も首都高使って来たんですけど、どこも渋滞してないんですよ(笑)。そのあと、CIPHERさんとTetsuさん、3時間待っても来なくて(笑)。
「ははははは、申し訳ありませんでした!」