【LIVE REPORT】
〈10年後のルームシック・ガールズエスケープ〉
2022.12.02 at 渋谷 CLUB QUATTRO
先月2日にヒトリエが開催したワンマンライヴ〈10年後のルームシック・ガールズエスケープ〉。2012年12月31日にファーストアルバム『ルームシック・ガールズエスケープ』をリリースしてから10周年であることを記念し、一夜だけの貴重な公演が開催された。公演当日、会場の渋谷 CLUB QUATTROのフロアには、観客一人一人の『ルームシック・ガールズエスケープ』という作品、ヒトリエというバンドに対する思いの強さに圧倒されるほどの熱気が開演前から立ち込めていた。
開演時間を迎え、ステージに現れたシノダ(ヴォーカル&ギター)、イガラシ(ベース)、ゆーまお(ドラム)。まず披露されたのは、『ルームシック・ガールズエスケープ』の1曲目に収録されている「SisterJudy」。初っ端から変則的でアップテンポなリズムに胸が掻き立てられていくと同時に、つくづくとんでもない曲だなと思う。2分ほどの曲とは信じられないほど音数や言葉が詰め込まれているが、不思議とゴチャついて聴こえることはない。それどころか音や言葉の組み方からは、楽曲を生み出したwowakaの優れたバランス感覚が窺える。そしてそれらを滑らかに唄い上げ、巧みに奏でる彼らの超人的なスキルとストイックさ。そういったヒトリエというバンドのすごみを痛感する1曲でもある。その後も「モンタージュガール」など、基本的にはアルバムの収録曲順に演奏されていくが、性急なビートと憂いを帯びた歌詞が織りなす独特な世界観の連発に、〈アガるのに泣きたくなる〉というヒトリエの楽曲から受け取る感覚の萌芽は、この作品から随所に見られていたことを実感した。
『ルームシック・ガールズエスケープ』を軸にした公演ではあるが、3人体制としての楽曲もいくつか披露された。「ゲノゲノゲ」という変化球的な曲もあれば、「3分29秒」といった初期衝動に溢れた曲もあり、バラエティに富んだ選曲からは、ヒトリエというバンドを進化させるため、作品を重ねるごとに新しい風をバンドに吹かそうと果敢に挑戦し続ける彼らの逞しさが垣間見えた。そんな彼らの強い意志に呼応するように、一曲終わるごとに拍手が鳴り止まなかったことも強く印象に残っている。
MCでは、「当時はまだ名古屋にいて、こっちに家がなかった。だからリーダー(wowaka)の家に入り浸ってたり……」と10年前のことを回顧し、思い出話に花を咲かせる3人がいた。中でも会場が沸いたのは、『ルームシック・ガールズエスケープ』の制作秘話。当時はスタジオを借りてレコーディングをする機会が少なかったため、レコーディング当日、「俺ちゃんとしたスタジオでレコーディングするのが初めてなんだよね」と嬉しそうにスタジオ入りしたシノダ。しかし、その数時間後にはシノダから笑顔が消え、いつの間にかギターの弦も2本に減っていた。「サブリミナル・ワンステップ」という曲のレコーディングで、シノダの手が他の弦に当たってしまうことから思い切って弦を減らしたそうだが、弦を減らすまでの間、wowakaが他の弦を押さえた状態でシノダが演奏したりといくつもの試行錯誤があったという。
当時の葛藤なども交えつつ、「とにかくリーダーが作る曲は速ぇんだよ!」と愛のあるツッコミをする3人。そういった本音も今だから正直に打ち明けられるのであって、当時はwowakaが作った曲を、彼が納得いくレベルに仕上げることに一人一人が必死だったのではないだろうか。4人組のバンドと言っても、理想像と技術の差から、一人と3人という構図になる瞬間があったのかもしれない。それでもwowakaは一人で表現する道ではなく、バンドという表現形態を選んだ。シノダ、イガラシ、ゆーまおでなければいけなかった。その真意を今彼に聞くことは当然できないが、ファーストアルバムの収録曲を一音一音魂を込めて鳴らす3人を見ていたら、wowakaが彼らと歩んでいくことを選んだ理由が勝手ながら少しわかった気がした。wowakaが作った曲をどこまでも愛し続け、最高な形で届けるため、真っ直ぐに表現を追求し続けるのは、きっと世界中どこを探してもこの3人しかいない。10年の時を経て、当時よりもさらにバンドが一つになっているような感覚に陥った。
ライヴの終盤、メンバーから告げられたのはまさかのサプライズ。3月より本公演がライヴツアーとして開催されるという。チケットの倍率がすさまじく、来られなかった人たちの思いを汲んで急遽開催が決定し、公演の詳細は本日1月11日にオフィシャルHPでアナウンスされた。この日のMCで、シノダが「うちのリーダーは、10年、100年経っても聴き続けられる曲を作ってったバケモノなんですわ。そんなバケモノに集められた僕たちなんで、10年やってきたんだろうなと思います」と語っていたが、今のヒトリエからは大袈裟でも何でもなく、100年経ってもwowakaが作った曲を愛してもらうため、そしてヒトリエというバンドの名をさらに多くの人の心に刻むための覚悟が感じられたのだ。もともとは、2012年に冬のコミックマーケットで、ミニアルバムとして頒布された『ルームシック・ガールズエスケープ』。自分たちの原点であるその作品と共に進化し続ける彼らの姿、そしてバンドが続いていくことの尊さを、是非その目に焼きつけてほしい。
文=宇佐美裕世
写真=西槇太一
【SET LIST】
01 SisterJudy
02 モンタージュガール
03 シャッタードール
04 アレとコレと、女の子
05 風、花
06 日常と地球の額縁
07 るらるら
08 カラノワレモノ
09 SLEEPWALK
10 3分29秒
11 ゲノゲノゲ
12 アンノウン・マザーグース
13 サブリミナル・ワンステップ
14 泡色の街
15 プリズムキューブ
16 アンハッピーリフレイン
17 ステレオジュブナイル
ENCORE
01 curved edge
02 ローリンガール
〈ヒトリエ 10年後のルームシック・ガールズエスケープ TOUR〉
3月10日(金) 香川 高松DiME OPEN 18:30 / START 19:00
3月21日(火・祝) 北海道 札幌 cube garden OPEN 15:30 / START 16:00
4月1日(土) 宮城 仙台 darwin OPEN 16:30 / START 17:00
4月13日(木) 愛知 名古屋クラブクアトロ OPEN 18:30 / START 19:00
4月14日(金) 大阪 BIGCAT OPEN 18:15 / START 19:00
4月16日(日) 広島 SIX ONE Live STAR OPEN 16:30 / START 17:00
4月24日(月) 東京 リキッドルーム OPEN 18:00 / START 19:00
4月25日(火) 東京 リキッドルーム OPEN 18:00 / START 19:00
4月28日(金) 福岡 DRUM Be-1 OPEN 18:30 / START 19:00