【LIVE REPORT】
BUCK-TICK TOUR THE BEST 35th anniv. FINALO in Budokan
2022.12.29 at 日本武道館
上空に、上弦前の月と木星が隣り合っていた。なんとも粋な天界の計らい。自然の美を前にすると人工物は色褪せると言われるけれど、本当なのか。中盤「Moon さよならを教えて」で浮かび上がったモザイクの月は、空に浮かんだ本物よりも深い輝きを湛えていた。アンコールに響いた「JUPITER」は、夜空のそれよりも優しく繊細な光をまとっていた。気のせいだろうか。嘘でも幻でもいい。この時間だけは永遠と信じ込める、ひときわ濃厚な2時間半だった。
年末恒例の武道館公演。今回は35周年を祝う〈TOUR THE BEST 35th anniv.〉のファイナル公演も兼ねており、セットリストは10月から続くツアーの中で変化した結果たどり着いた過去の名曲と最新曲を程よく散りばめながら、バンドの現在地を確かめていく内容だ。そして、息の長いバンドほど過去の栄光にはしがみつかないように、BUCK-TICKもまた、最新の曲が最大の見せ場を作っていたのだった。
最新の曲。2020年のアルバム『ABRACADABRA』以降、まずはシングルの「Go-Go B-T TRAIN」がそれにあたる。一発目のハイエナジーなロックンロール。〈ガタガタ&ゴトゴト〉とまんま擬音を口にし、機関車の車輪の動きを真似てみせる櫻井敦司が、デカダン魔王的にアリなのかと言われると微妙なのだが、そんなものは振り切っていい、とにかく前進あるのみ!と宣言する勢いにヤラれてしまう。幾度となく続いたツアー中断を忘れさせる高揚感。二人のギタリストが声を合わせる〈Hey!Hey!Hey!〉のコーラスがさらなる動力となって会場中を突き動かす。今井寿が高々と右足を蹴り上げたところで、すかさず「Alice in Wonder Underground」になだれ込んでいくのだ。アガり方が半端ない。
「最後まで楽しんでください……ニャッ♡」というMCに頬が緩んだ「GUSTAVE」のユーモア。樋口豊もステージ上段から降りてきて客席に笑顔を向ける。かと思えば今井と櫻井の毒気に改めて鳥肌が立つ「Villain」があり、震える告白から始まる「MOONLIGHT ESCAPE」のような逃避行もある。星野英彦作曲の「ダンス天国」ではデヴィッド・ボウイ「Let’s Dance」のワンフレーズが見事な融合を見せており、それぞれの曲が少しずつブラッシュアップされているのがわかる。ツアー前半戦を見ているから余計感じられるが、一曲ごとの精度と全体の完成度は、少しずつどころか、もう飛躍的に高まっているのだ。
一本一本のライヴごとに集中力を高めていく5人の飽くなき向上心。ここまで来たらやることは同じでしょう、といった思考停止がない。差し込むフレーズひとつ、目線や表情ひとつ、指先の動きひとつが、徹底的に、昨日より今日がよいものになるようにと磨き込まれている。これが、35年継続するバンドのすごさ。底力を見せつけたもうひとつのハイライトが、またしても最新の曲、「さよならシェルター」であった。
9月発売のコンセプト・ベストアルバムに収録されたこの新曲は、最初、覚悟を決めた反戦の歌として機能した。「REVOLVER」「ゲルニカの夜」と並ぶことで、残酷な現実を突きつける痛ましさを放っていたのだ。ただ、このツアーで「さよならシェルター」は、「ユリイカ」に続いて始まる静かな一曲になった。〈LOVE、PEACE!〉と際限なく繰り返したあと、「来年こそもっといい年になるといいな。世界中の子供たちに楽しい新年がくるといいな」とMCを挟み、小さな子供を抱きしめるポーズを取りながら跪いて唄う櫻井がいたのだ。生々しい反戦歌が、時間をかけて、せめてもの祈りに変化していくようだった。
祈る気持ちは、未来を信じる心がないと生まれない。「さよならシェルター」が初披露された横浜アリーナ公演に比べても、近年漂っていた緊張・緊迫のムードは確実に薄れている。満面の笑顔を隠さないのはユータひとり。ただしアニイ、ヒデ、今井の表情も終始リラックスしており、全員がこの空間を楽しんでいることが伝わってくる。アンコールは34年前に発表された「JUST ONE MORE KISS」のアコースティック版。当時のセンセーショナルなアレコレは削ぎ落とされ、シンプルなメロディは、5人で乗り越えてきたものすべてを美しく浄化するように響く。懐かしい過去に向けてではなく、未来に向けて響くのだ。
パレードが行くよ。君の街へ、終わらないパレードが。そんな語り口調から始まった二度目のアンコールは「LOVE PARADE」。何事も終わりはあると知りつつ、やはり永遠を乞いたくなるメランコリックな名曲だ。恒例の武道館公演はいつまで見られるだろう。BUCK-TICKにも終わりは来るのだろうか。考え出すとキリがないことだが、とりあえず安心しろ、と諭すように最後は今井寿が左手をぴしりと掲げてくれた。その先には立てた中指……ではなく、ピースサイン。無言の挨拶がどこまでもこの人らしかった。
終演後発表されたのは、2023年の3月に2連続のシングルが、そして4月にはニューアルバムが到着というニュース。4月から7月にかけては全国ツアーも決定した。パレードは終わらない。そのことが、ただありがたいと思う。もはや前人未踏の世界。35年続くとは、そういうことだ。
文=石井恵梨子 写真=田中聖太郎
【SET LIST】
01 Go-Go B-T TRAIN
02 Alice in Wonder Underground
03 GUSTAVE
04 FUTURE SONG -未来が通る-
05 Moon さよならを教えて
06 メランコリア -ELECTRIA-
07 Villain
08 舞夢マイム
09 MOONLIGHT ESCAPE
10 ダンス天国
11 ユリイカ
12 さよならシェルター
13 RAIN
14 ROMANCE
15 夢魔-The Nightmare
ENCORE 01
01 JUST ONE MORE KISS
02 JUPITER
03 Memento mori
04 独壇場Beauty -R.I.P.-
ENCORE 02
01 LOVE PARADE
02 夢見る宇宙
03 鼓動
2023年3月より3作品連続リリース&全国ツアー決定!
NEW SINGLE「太陽とイカロス」
2023.03.08 RELEASE
01 太陽とイカロス(作詞:櫻井敦司/作曲:星野英彦)
他1曲収録予定
NEW SINGLE「無限 LOOP」
2023.03.22 RELEASE
01 無限 LOOP(作詞:櫻井敦司/作曲:今井寿)
他1曲収録予定
NEW ALBUM『タイトル未定』
2023.04 RELEASE
詳細は、後日発表
〈BUCK-TICK TOUR 2023〉
4/19 (水) 東京:J:COMホール八王子 OPEN 17:30 START 18:30
4/23 (日) 栃木:宇都宮市文化会館 大ホール OPEN 17:00 START 18:00
5/13 (土) 香川:観音寺市民会館 大ホール OPEN 17:00 START 18:00
5/14 (日) 岡山:倉敷市民会館 OPEN 17:00 START 18:00
5/20 (土) 京都:ロームシアター京都 メインホール OPEN 17:00 START 18:00
5/21 (日) 兵庫:神戸国際会館こくさいホール OPEN 17:00 START 18:00
5/27 (土) 神奈川:パシフィコ横浜 国立大ホール OPEN 17:00 START 18:00
6/3 (土) 愛知:日本特殊陶業市民会館フォレストホール(旧:名古屋市民会館)OPEN 17:00 START 18:00
6/10 (土) 石川:本多の森ホール OPEN 17:00 START 18:00
6/11 (日) 長野:長野市芸術館メインホール OPEN 17:00 START 18:00
6/17 (土) 大阪:オリックス劇場(旧:大阪厚生年金会館)OPEN 17:00 START 18:00
6/18 (日) 大阪:オリックス劇場(旧:大阪厚生年金会館)OPEN 17:00 START 18:00
6/24 (土) 広島:上野学園ホール(広島県立文化芸術ホール) OPEN 17:00 START 18:00
6/25 (日) 福岡:福岡サンパレスホテル&ホール OPEN 17:00 START 18:00
7/1 (土) 北海道:札幌カナモトホール(札幌市民ホール)OPEN 17:00 START 18:00
7/9 (日) 宮城:仙台サンプラザホール OPEN 17:00 START 18:00
7/15 (土) 群馬:高崎芸術劇場 大劇場 OPEN 17:00 START 18:00
7/17 (月・祝) 静岡:静岡市民文化会館 大ホール OPEN 17:00 START 18:00
7/22 (土) 東京:東京ガーデンシアター OPEN 17:00 START 18:00
7/23 (日) 東京:東京ガーデンシアター OPEN 17:00 START 18:00
前売りチケット¥9,900(税込)
ツアー特設サイト