ミセスの曲にはこの映画とリンクするような重さや濃さが横たわっていることを伝えていかないと、僕らは戻れないところにまで行っちゃう気がして
で、今回のシングルについてですが、まずは『ラーゲリより愛を込めて』という映画について簡単に説明してもらえると。
「第二次世界大戦が終わってから何年もの間、シベリアの強制収容所に抑留されていた人たちの話ですね。だから実話をもとにした戦争映画――もちろん過激な戦争の描写もあるんだけど、本質的には愛の映画というか。誰かを愛することだったり、人が繋ぐ思いだったり、そういうものを表現した作品だと思います」
で、そんな映画の主題歌を書きませんか?と。
「話を聞いて素直に書きたいって思いました。なぜかっていうと、この映画を通じて僕らの本質が多くの人に伝わる機会だと思ったから」
あえて聞きますけど、本質っていうのは?
「〈爽やか! 青春! ポップ!〉じゃないところ。それこそ今まで僕と樋口さんで話してきたような、バンドのディープな部分ですね。そこを装飾もなければ薄めることもせず、原液の状態で伝えられることに僕はワクワクしたというか。それを今このタイミングでやらないとダメだなって。今ここで〈僕らってこういうバンドなんだ〉ってことをたくさんの人にわかってもらわないと」
「わかってもらわないと」っていうのはどういうことでしょう。
「〈実はこういうことをずっと唄ってきたバンドなんだよ〉っていうことですね。〈ポップだよね、爽やかだよね〉じゃなくて、ミセスの曲にはこの映画とリンクするような重さだったり濃さが横たわっていることを伝えていかないと、僕らは戻れないところにまで行っちゃう気がして」
バンドの本質がパブリックイメージに支配されてしまうと。
「だからやりたいって思った。そしたら『締め切りは1週間後です』って言われて、ちょっと待って!と(笑)」
はははははは!
「苦行でした。しかも〈Part of me〉(註:『Unity』収録曲)を書いたあとだったんで」
「Part of me」が難産だったっていう話は聞いてます。
「〈Part of me〉は曲作りがどうこうっていうレベルの難産ではなくて。自分の深い傷というか、あえて蓋をしている部分を掘り起こしていく行為って辛いじゃないですか。だから人って大人になっていくにつれて、その傷を忘れたりスルーできるスキルを身につけるわけで。でもそこを一番見つめなきゃいけない時間だったんですよ。で、〈Soranji〉って曲もそうで。自分の嫌いな部分だったり、自分が一番大事にしたいことだったり、そういう自分の深淵と向き合うことが、〈Part of me〉と立て続けにあったっていう」
でもそのおかげでこの映画に相応しい曲になったと思います。
「ミセスの根本というか起源?みたいな曲ができちゃいましたよね。ここで唄ってることからミセスの音楽はすべて始まってるというか。まさに原液」
確かにそうかも。
「それをちゃんと言葉に綴って、曲という形にして、リリースまでしてしまうっていうのは……もはや悔いはないというか。これ以上自分の深いところに潜ることはないんじゃない?っていう感じ。こんなの作っちゃっていいの?って」
ちなみに「潜る」というのは具体的にどういう感覚なのでしょうか。
「……目の前にある娯楽とか楽しみを一切絶って、自分が本来持ってるものでしか戦えなくなること……かな。なんの武装も装飾もなくありのままの自分をずっと見続ける感じ。ここまで潜っていいのか?って、自分で作っておきながら思いますね」
それだけ重たい映画だってことだと思うんですよ。僕もかなりしんどい気持ちになりながら観ましたけど。ちなみに今日、3人で観たんでしょ?
「僕は観るのが2回目だったんだけど……やっぱりヘヴィでした。すごくいい映画だし今日も泣いてしまったけど、重いんですよね。喪失感も大きいし、愛も大きいし」
自分が試写に行った時は、近くに座ってた初老の人がずっと泣いてて。自分の親もそうだけど、あの時代を知っている人にとってはものすごくリアルで重たい作品ではあって。でも、そのぶん若い世代にはそこまでリアリティを感じられない話でもあると思うんですよ。
「そうかもしれないですね」
例えば自分の祖父はシベリアに抑留されていた経験があって、子供の頃に向こうでの話をよく聞かされたの。「朝起きると必ず誰かが凍死してて、その人を白樺の木の下に埋めた」みたいなエピソードとか。
「それは……キツいですね」
だから自分にとってはものすごくしんどい映画で。でも大森くんみたいな若い人が、そこまで重さを感じたり、ミセスの原液みたいな曲を書かざるをえない気持ちになったのはどうしてだと思います?
「どうして……なんだろう? 難しいな」
まずは〈喪失〉、というテーマが自分とリンクしますよね。
「あぁ。あの…………すごく大きな喪失感とともに〈誰かを信じたい〉っていう気持ちとか、〈人の思いを繋いでいきたい〉っていう気持ちが描かれていたじゃないですか。その思いは僕の中にも常にあって。まず、僕にはどうしようもないほど大きな喪失感があって。……それが何なのか、言わなくてもわかるよね?」
わかります。
「それでも希望を見出そうとあがいてる姿に……僕はリンクしちゃうんですよ。映画のネタバレになっちゃうから詳しく言えないけど、僕は〈Soranji〉を作ってる時、映画の主人公と同じように、何かを残すことで希望を持ったり、思いを届けたいって気持ちしかなかった。本当にこれが最後の作品になってもいいぐらいの気持ちで」