新曲「Soranji」には、Mrs. GREEN APPLEがこれまで唄ってきたことが集約されている。2019年にリリースされた「ロマンチシズム」以来、約3年半ぶりとなるシングル「Soranji」。表題曲は映画『ラーゲリより愛を込めて』の主題歌で、第二次大戦後、シベリアの強制収容所(ラーゲリ)で、帰国の日を信じて過酷な労働に耐えた主人公・山本幡男らの心情や、作品の世界観に寄り添った楽曲に仕上がっている。そして、山本のように、強い信念のもと一筋の光を信じて仲間と生き抜く姿は、ミセスというバンド、そして大森元貴(ヴォーカル&ギター)の生き様とも重なる。ミセスはなぜバンドとして音を鳴らし続けるのか。そして、大森はどのような思いで「Soranji」という楽曲を制作したのか。それらを大森のインタビューで解き明かす。
(これは『音楽と人』2022年12月号に掲載された記事です)
2回目の表紙巻頭ということで。
「はい。ありがとうございます」
こちらこそ。まず作品について話す前に、『Unity』をリリースした時の反応から聞きたいんですが。
「反応は……あんまり気にしてないので、正直に言えば〈わからない〉ですね」
なんだその答え(笑)。
「はははは! でも、ホントに『Unity』って、周りの人の評価を意識しないで作った作品なので。ていうか〈もうこれしか作れない〉っていう感覚のアルバムだったんですよ。後悔とか、向上心とか、こう思われたいとか、そういう気持ちをまとったものではない。だからいろんな声とか反応っていうのは、見かけることはあっても気にならなくて」
だから「わからない」と。
「だって気にしてないんだもん。もちろん正しく理解されたいとかちゃんと届くといいなっていう思いはあったけど、やっぱり休止からの復活で、なおかつ3人になったっていう事実も踏まえたところでの作品なので、僕らのメッセージが正しく伝わることって不可能じゃないですか」
それぞれ捉え方がありますからね、ミセスという存在に対しての。
「そうそう。5人じゃなきゃ嫌だっていう人もいれば、僕がいればいいっていう人もいるし、曲が聴ければ何でもいいっていう人もいて。そういう人たち全員に正しく理解されることは難しいタイミングだと思ったんですよ。だから僕らが良ければいいや、みたいな感覚でした」
で、その『Unity』発売日にはぴあアリーナでライヴをやりました。大森くん的にはどんなライヴでしたか。
「僕、あの日を迎えるのが怖かったんです。メンバーにもずっと言ってたんだけど、あの日ってバンドにとって大きなターニングポイントになっちゃうじゃないですか。しようと思わなくても勝手にそうなっちゃう。で、そういう日を僕は迎えたくなかった」
本来ならここで「フェーズ2というターニングポイントをようやく迎えることができて嬉しかったです」って言うのが正解なんだけど(笑)。
「だよね(笑)。や、ライヴはすごく楽しかったです。久しぶりにみんなとも会えたし、すごく嬉しかったし、やって良かったなって思ってる。でも、僕の中ではあの日を迎えることって、どこか卒業式みたいなものというか」
卒業式?
「今までいた場所から離れて新しいところへ踏み出す感覚があって、それがなんか……寂しかったの。ミセスの新しいストーリーが始まっちゃうじゃん、みたいな。それぐらいフェーズ1のミセスは僕にとって……青春だったんですよ」
だからあの日を迎えたくなかった。
「僕の中で色濃くて、大好きだった季節が、あの日とともに終わりを告げちゃうような気がしたんですよ」
あの日3人でライヴをすることによって、5人だったMrs. GREEN APPLEが――。
「過去になる。で、それって僕の人生観すらも大きく変わるタイミングというか。今までと同じ気持ちのままバンドの舵をとってはいけないんだろうなっていうのを、嫌でも実感しちゃう日でもあって。つまり、駄々をこねていただけです(笑)」
そんなに大事だった自分の青春時代を断ち切って次に向かうのが嫌だったら、バンドなんて辞めれば良かったじゃん。
「そんなイジワルなこと言わないでよ!(笑)」
それこそ昔の大森元貴だったら「思い出を大切にしたい」って駄々こねて終わらせちゃってたかもしれないけど、勇気を出して復活したわけで。だからあの日、「本当は怖かった」って泣きながら本音を言えたのも良かったなって。
「僕もそう思ってますよ。けど、あそこで僕が流した涙すらも、あの日のライヴにおいては必然だったというか。つまり僕のコアな部分を明かすことが必要なライヴでもあったと思うんですよ。それは『Unity』っていう作品もそうだし今回の〈Soranji〉もそうだけど、この先ずっと僕の人生や感情をすべてエンタメに捧げてしまうような感覚があって。それがちょっと寂しかった」
なるほど。でもステージでは寂しそうには見えなかったですよ。むしろ昔の大森くんのほうが寂しそうだった。
「それだけ僕自身がエンタメに昇華されてるってことだと思うんですよ。5人が3人になったことも、それで『Unity』っていうアルバムができたことも、〈Utopia〉っていうライヴができたことも、総じてエンタメになったというか」
本来はドキュメントであるものが。
「僕らにとって予期せず起こったことですら、美しいストーリーになってしまうというか。それで間違いないしそれが正解なのはわかってるけど、やっぱりどこか寂しいんですよ。それでもこうして無事にフェーズ2をスタートさせることができて良かったなって思ってはいますけどね」
そうじゃないとこっちも取材をする意味がない(笑)。
「はははは。でもそれぐらい簡単に『フェーズ2開幕します!』ってお披露目の舞台に立つことはやっぱりできなかったんですよ。3人になったことでミセスの本質を問われる局面であったのは間違いないし、そこに対する恐怖心はもちろんあったし」