【LIVE REPORT】
〈フラワーカンパニーズ ワンマンライブ『ゾロ目だョ全員集合!~フラカン33年、野音99年~』〉
2022.9.23 at 日比谷野外大音楽堂
最新アルバム『ネイキッド!』の取材で、約1ヵ月後に迫った約5年ぶり8回目となる日比谷野音ライヴについての話になった時のこと。台風シーズンだし、雨バンドと称されるフラカンなので天気が……というこちらの余計な心配に、「今度こそ、その称号を返上しますよ!」と笑いながら言葉を返したリーダーのグレートマエカワ。お互い冗談半分でのやりとりだったわけだが、開催2日前あたりから熱帯低気圧の影響で大雨、下手すれば台風になるかも、という予報が出始め、文字通り怪しい雲行きの中、当日を迎えた。
紆余曲折のバンドの歴史の中でも、ここ野音で行ってきたライヴには格別の思いがある彼ら。しかも再来年以降、改修工事が始まるとされており、慣れ親しんだ現行の野音でのワンマンは最後になるかもしれないということで、今回メンバーの気合いはかなりのものである。それは、いつものニワトリを象ったバンドロゴでなく、緑地に白抜きで描かれた33に99という文字が内包されたロゴの、この日のためだけに用意されたバックドロップがステージ後方に掲げられているところからも伝わってくる。
予報どおり、熱帯低気圧は台風15号となり関東地方に近づいていて、開演の少し前からポツリポツリと雨が落ちてきた。とはいえ小雨程度で、雨バンドの称号返上とはいかずとも、野外のフラカンライヴにしては、まずまずの天気。おなじみのSEが鳴ると客席から湧き起こるハンドクラップに出迎えられ、4人がステージに姿を現わした。鈴木圭介が吹くハープに、ブルージーな竹安堅一のギターが重なっていく。このイントロは……「夢の列車」だ! 節目のライヴで披露されることが多く、約7年前の武道館や過去の野音でもプレイされているが、中盤から後半にかけてのぐっと聴かせるタームに配されることが多かったこの曲が、ここで鳴らされるとは。思いもよらない幕開けに驚かされつつ、プログレッシブな展開とともに徐々に熱を帯びていく4人の演奏も相まって、初手からグッとステージに引き寄せられていったのだった。
「どうも、フラワーカンパニーズです!」という鈴木の挨拶から、最新アルバム『ネイキッド!』収録の「行ってきまーす」へ。ジャーン!というイントロのギターが鳴った途端、雨脚が強まるが、そんなことはもろともせず、「揺れる火」、「モンキー」と畳み掛け、グイグイとギアを上げていく。
「ひさしぶりの曲をやります」という言葉から披露されたのは「ヒコーキ雲」。サビの〈振り向いてピース〉というフレーズに合わせて、客席いっぱいにピースマークが掲げられたこの曲しかり、先にプレイされた「モンキー」しかり、かなり久々にライヴでプレイされるナンバーが随所に散りばめられていたこの日。それこそ後半には、いまや成人した鈴木の息子が生まれた頃に書かれたであろう「少年」や、マエカワの「ミリオン!ミリオン!」という掛け声から始まる「友達100万人」という激レア曲も披露(「友達100万人」は、わたくし初めてライヴで聴きました)。前回の野音からの5年間、そして33周年のフラカンを見せるようなライヴにしたいと『ネイキッド!』の取材時にメンバーは言っていたのだが、その言葉通り、メジャーから再びインディーズに活動の場を移行していった、ここ5、6年の間に発表された楽曲を中心に、新旧織り交ぜたセットリストでライヴは進んでいった。
これでもかと鈴木圭介の私小説的ナンバーが並んだ中盤。なかでも、ギリギリの夜を過ごす男の独白のようなポエトリーリーディングから始まる「人間の爆発」から、〈生きててよかった〉と、まさしく全開の声が響きわたった「深夜高速」。さらに柔らかなメロディとともに、〈僕の声が聞こえるかい?〉と唄われる「こちら東京」へと続く流れに胸がグッとなる。グラデーションを描くように浮かび上がる鈴木の心象風景が、なんだかこの2、3年の世の中の空気と、その中で生きてきた私たちの感情にもリンクするかのように響いてきた。極々パーソナルな歌が、聴き手それぞれの思いに重なっていく、フラカンというバンドの真骨頂を感じる、そんな場面でもあった。
メンバーそれぞれのMCから、「メンバーチェンジなし、活動休止なし、ヒット曲なし!」といういつもの口上を挟み、「友達100万人」「恋をしましょう」「まずはごはんだろ?」「マイ・スウィート・ソウル」とラストスパートとばかりにアップテンポなナンバーを畳みかけてく。そして「最後にもう1曲だけ」と「夜明け」が、野音の空に放たれた。後半の勢いのまま、久々の野音ライヴを賑々しく終えるという選択肢もあっただろうし、それに相応しい曲もあるわけだが、そうはせず、オープニング同様にじっくり聴かせる長尺曲を本編ラストに据えたところからも、単なるお祭りモードの野音ライヴにはしたくない、この日、この場所に対する彼らの特別な思いが伝わってきたのだった。
アンコールでは、50代最初のアルバムに収録の「見晴らしのいい場所」から、「プラスチックにしてくれ」と20歳の頃に生まれたナンバーへと繋ぎ、鈴木は雨水がたまったステージ上でヘッドスライディングを決めていた。雨に降られた2009年のARABAKIのステージで何度も膝からスライディングした結果、足の靭帯を損傷したこともあり、これまた雨だった前回の野音では遠慮がちに一度だけだったのだが、今回は本編も含めると4回。きっと、それだけの高揚感と手応えをこの日のライヴで感じていたからなのだろう。そして大ラスの「サヨナラBABY」で、幸福な一体感をもたらしフラカンの5年ぶり8回目となる野音ワンマンは大団円を迎えた。
本編のMCで、会心のアルバムが完成し、今バンドの状態がとてもいい、という言葉に続けて、「今の状態がいいから、過去のこともオセロみたいに塗り替えられちゃう」と語った鈴木。これは、「ヒコーキ雲」リリース時にTV出演した際の苦い思い出についてマエカワが話したことを受けての言葉でもあるのだが、新作の手応えとバンドの状態はもちろん、この日披露された数々の楽曲たちを作った当時のバンドや自身の状況が、この野音でいい形で更新された感覚がきっとあっての言葉なのだろう。そして同じように、この日、この場所で届けられた歌、4人の気合いのこもった演奏が、これまでの窮屈でどんよりとした日々を塗り替えてくれたような、そんな気持ちにもなったライヴであった。
10月8日より始まる怒髪天との2マンツアーを経て、11月からは、アルバム『ネイキッド!』を引っ提げて全国30ヵ所33公演からなるワンマンツアー〈いつだってネイキッド'22/'23〉がスタートする。野音では、アルバム冒頭を飾る「行ってきまーす」と、鈴木いわく「初のラップ調ナンバー」という(笑)「借りもの競走」のみの披露となったが、重苦しい世の中の空気を少しずつ塗り替えてくれるような、軽やかな手触りの新作の楽曲たちが、どんなふうに鳴らされるのか。またかなりいい状態だというバンドの今を、ライヴハウスで確認したいと思う。
文=平林道子
写真=CHIYORI
【SET LIST】
01 夢の列車
02 行ってきまーす
03 揺れる火
04 モンキー
05 ヒコーキ雲
06 パンクはうまく踊れない
07 ピースフル
08 借りもの競走
09 ロックンロールバンド
10 東京ルー・リード
11 ⼈間の爆発
12 深夜高速
13 こちら東京
14 少年
15 友達100万人
16 恋をしましょう
17 まずはごはんだろ?
18 マイ・スウィート・ソウル
19 夜明け
ENCORE
01 見晴らしのいい場所
02 プラスチックにしてくれ
03 サヨナラBABY