2022年3月13日にコレクターズが開催した、5年ぶり2度目の日本武道館公演〈This is Mods〉。その映像作品がBlu-ray / DVDにてリリースされたことを記念して、当時のライヴレポートを再掲載します。メンバー、ファンにとって忘れられない1日の記録をどうぞ。
コレクターズ、2度目の日本武道館公演。素晴らしいライヴだった。コロナ禍での開催は、決して100%やりきれたとは言い切れないかもしれないが、そのパフォーマンス以上に、今のバンドのテンションが35年目にして最も高いことを示し、そしてバンドとファンの間に、さらに強い絆を与えた。この後、バンドは曲作りからレコーディング。新作にも取り掛かることだろうが、この日、感じたことがきっと、次の作品にも影響を与えるのではないだろうか。当日のレポで、メンバーにもファンにも幸福だった、この大切な1日を振り返る。青春の光は消えない。永遠なのだ。
(これは『音楽と人』2022年5月号に掲載された記事です)
夢を見よう。
そう言われてるような気がした。歳を重ねて、大人になったふりをして、夢見たことを忘れようとするけれど、武道館のステージで、ユニオンジャックのスーツに身を包み、唄っている彼は、還暦を過ぎた今も、35年前にバンドを組んだ時と同じ夢を見てる。この会場で同じ時を共有している誰もが、どこかに置いてきたあの頃の夢を、ステージで唄う彼に重ねていた。
ザ・コレクターズ。5年ぶり2度目の日本武道館。
開場前から多くのファンが集まっていた。中でも目立つのは、モッズコートに3つボタンのスーツ、ボタンダウンのシャツにドクターマーチン。様々なコーディネートのモッズファッションで固めた人たち。そこに東京中からやってきた、20台以上のべスパによるスクーターラン。あの頃のブライトンや当時のフーのライヴ会場はこんな感じだったのかな、と思わせる、最高の演出。お膳立ては整った。しかし5年前もこれと同じ光景は展開されていたはずだ。それが今胸に残るのは、前回の武道館にあった、苦節30年でたどり着いた武道館、というバンドのドラマ性が削ぎ落とされ、浪花節的ではない、もっと彼らの本質にあるものが剥き出しになったからだろう。それがより、この会場に集った人たちをひとつにしていた。
そんな表の様子を知ってか知らずか、楽屋のメンバーはリラックスムード。加藤は5年前と同様にベスパ、古市は友人のポルシェで会場入り。「全員無事に揃ったから、今日は大成功だよ!」と上機嫌だ。そして早速、スタッフとオープニングとエンディングの確認へ。ステージ前の幕が上がるタイミングと速さ。照明の位置。最後の曲が終わったあと、メンバーの捌け方、照明の当たり方、「お願いマーシー」がBGMでかかるタイミング。この見せ方を事細かに確認する。めちゃくちゃ慎重。逆にサウンドチェックは、いくつかの不安要素を口にしつつも「まあ本番、どうにかなるでしょ」と余裕の表情を見せて終了。
その余裕は開演直前まで変わらず。緊張など微塵も見せない。古市は「永ちゃんのドキュメントで見た階段、ここじゃないんだよな」とチェックし、見つけると、その入場を真似して階段を降りてくる様子をカメラマンに撮らせる(笑)。そのムードは衣装に着替え、客入れが始まっても同じ。それどころか客電が落ち、オープニングの映像が流れ始めても、楽屋でモニターを見ながらツッコミを入れつつ笑顔を見せる。舞台監督が痺れを切らし、いいかげんにしろと言わんばかりに急かすと、ようやく楽屋を出る。その1分後、もう幕は上がり始めていた。武道館100回目くらいの余裕だった。
幕がゆっくり上がっていく。だんだん見えてくるは巨大なターゲットマークの照明トラス。〈This is Mods〉というテーマの象徴だ。ライヴはバンドの最新曲「裸のランチ」から始まった。その後も「クルーソー」を挟みつつ、「ヒマラヤ」「ひとりぼっちのアイラブユー」と、このメンバーになってからの楽曲が並ぶ。これは今のコレクターズが最高で最強なんだ、というメッセージ。この日はツアー・ファイナルという位置づけだったが、ツアーとほとんど変わらないセットリストも自信の現れ。35年の歩みだけではなく、今のバンドの良さを伝える。その意思が明確に現れていた。
そのような構成で浮き彫りになったのは、加藤ひさしという男の抱えきれないロマンチシズム。35年前からこの日まで、ずっと変わることがない。コレクターズとしていちばん最初に書いた「NICK! NICK! NICK!」のような反戦歌も(照明トラスが青と黄色のウクライナカラーに彩られていた)、究極のラブソング「世界を止めて」も、「僕の時間機械」の後悔も、最新の「ヒマラヤ」もそうだ。いつもその願いは届かない。でも、その届かない思いが、ロマンチシズムを加速させる。憧れが永遠になる。そしてその姿は、大人になることを受け入れて、しょうがないんだと言い聞かせ、ケリをつけてきたはずのものを呼び覚ます。モッズを描いた「さらば青春の光」の主人公ジミーは、崖からベスパを落として、青春という時期にケリをつけた。大人になるんだ、しょうがないんだ、と。でもバンド結成から35年。還暦も過ぎた61歳が、まだ諦めきれないと唄ってる。届かない思いに手を伸ばそうとする。その姿が僕たちに、何か忘れていたものを思い起こさせるのだ。
そう、モッズファッションもスクーターランも、ファッションじゃない。まだ何も諦めてない、永遠のモッズ少年がそこにいるから、ここにやってくる。そしてその日の一瞬だけ、心があの日に戻るのだ。鏡に映るモッズコートを着た中年の姿に、あの頃の面影はないかもしれない。でもコレクターズのロマンチシズムが、現実に魔法をかける。
This is Mods。
そのタイトルの通りだった。5年後の40周年はもちろん、いつだってここに来れば、あの頃の僕がいる。この日、武道館は大切な約束の場所になった。記念すべき1日だった。
文=金光裕史
写真=中野敬久
DVD/Blu-ray『THE COLLECTORS “This is Mods” 35th anniversary live at Nippon Budokan 13 Mar 2022』
2022.07.20 RELEASE
■Blu-ray+2CD
■DVD+2CD
・DISC1(Blu-ray / DVD)
01 Mods Scooter Run
02 OPENING
03 裸のランチ
04 クルーソー
05 ヒマラヤ
06 ひとりぼっちのアイラブユー
07 Stage Banter 1
08 GIFT
09 たよれる男
10 Stay Cool! Stay Hip! Stay Young!
11 扉をたたいて
12 Stage Banter 2
13 全部やれ!
14 ノビシロマックス
15 Stage Banter 3
16 マネー
17 MILK COFFEE BLUES
18 ロボット工場
19 愛ある世界
20 NICK! NICK! NICK!
21 Stage Banter 4
22 お願いマーシー
23 限界ライン
24 虚っぽの世界
ENCORE 1
25 世界を止めて
26 僕はコレクター
ENCORE 2
27 僕の時間機械
・DISC-2 (CD)
01 裸のランチ
02 クルーソー
03 ヒマラヤ
04 ひとりぼっちのアイラブユー
05 GIFT
06 たよれる男
07 Stay Cool! Stay Hip! Stay Young!
08 扉をたたいて
09 全部やれ!
10 ノビシロマックス
11 マネー
12 MILK COFFEE BLUES
・DISC-3 (CD)
01 ロボット工場
02 愛ある世界
03 NICK! NICK! NICK!
04 お願いマーシー
05 限界ライン
06 虚っぽの世界
07 世界を止めて
08 僕はコレクター
09 僕の時間機械
10 This is Mods
・Blu-ray/DVD収録
OPENING MOVIE 「This is Mods」
・Blu-rayのみ収録
ドキュメンタリー映像「Back Stage Pass」
Audio Commentary
20Pフォトブックレット/ステッカーシート封入
〈THE COLLECTORS 35th anniversary live action "Living Four Kicks 2022"〉
2022年7月23日(土)東京・豊洲PIT(全席指定)
2022年8月27日(土)大阪・BIGCAT(スタンディング)
2022年8月28日(日)名古屋・CLUB QUATTRO(スタンディング)
開場 15:15/開演 16:00