90年代を中心とした海外の音楽をルーツに持ち、自身のフィルターを通じて質の高いサウンドを構築してきた、Luby Sparks。シューゲイザーやドリームポップからの影響を反映させたファーストアルバムから4年が経ち、このたび完成したセカンドアルバム『Search + Destroy』には、ポップチューンからヘヴィなものまで幅広い楽曲が収録されている。そのどれもが綿密に組み立てられたサウンドである反面、彼らの熱量や衝動性、挑戦的な姿勢もにじんでいるのが印象的だ。今回、バンドのメインコンポーザーであるNatsuki(ベース)へ初インタビュー。そこから見えたのは、理想やこだわりを貫く姿と、そんな彼が得たある刺激によって、本作が開けたものになっているということ。知らず知らずのうちに自らの枠にとらわれてしまうことはあるが、彼らはそれを常に壊して変化を遂げ、より多くの人に自らの音楽を届けていくだろう。明日6月4日には、キャリア初のワンマンライヴが渋谷WWW Xで開催される。バンドの今を示し、新たな未来へ踏み出す一夜になるに違いない。
まず音楽を好きになったきっかけを教えてもらえますか?
「もともと両親が洋楽好きで、家の中では洋楽しか流れない家庭だったんです。それで小学生ぐらいの時に、母親から初めて『これを聴きなさい』ってジャミロクワイのCDを渡されて、〈世の中にはこんなにオシャレな音楽があるんだな〉って感じたのが音楽に興味を持った最初のきっかけでした。あとは小中高にかけて、父親と2人でサーフィンをやっていたんですけど、海に行くまでの車の中で父がいろんな音楽をかけていて。そこでは映画のサントラだったり、コールドプレイの初期のアルバムやパールジャムとか、90年代あたりの洋楽。そういうものがよく流れていて、今思えばすごく影響を受けているなと感じますね。自分でいろいろと探り出したのは中高時代からで、地元のTSUTAYAに行っては棚に陳列してあるものを片っ端から借りてました」
ベースを始めようと思ったのはどういうきっかけだったんでしょうか。
「母が学生時代にバンドでベースをやっていたので、その影響が大きいですね。母はさっき話したジャミロクワイやシャーデーとか、わりとベースの音がはっきり聴こえる音楽が好きだったのもあって、自分もベースの音がカッコいいなと感じてましたし、ずっとやってみたいっていう気持ちがあって。高校生になってから初めてベースを買って、そこから音楽の趣味の合う友達と遊びでバンドをやるようになっていきました」
その時はどんな音楽にハマっていましたか?
「レッド・ホット・チリ・ペッパーズやアークティック・モンキーズ、フランツ・フェルディナンド、ストロークスあたりの、比較的リフがはっきりしていて、ギターソロがあったり、個々の楽器の音がよく聴こえる、いわゆるわかりやすいロックバンドに夢中でしたね。そこから90年代の音楽を掘り下げていく中で、スマッシング・パンプキンズやダイナソーJr.、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインとかを聴いて、歪んだギターの気持ちよさであったり、ベースの音がはっきり聴こえなくてもカッコいいんだ、みたいなことに気づいて」
いわゆるオルタナやシューゲイザーにもハマっていった。
「はい。あとは高校生の時にナイン・インチ・ネイルズにもすごくハマっていたんですけど、当時彼らが来日した時のライヴが本当に衝撃的だったんです。演奏がうまくて音がよかったのもそうですし、最初は演奏している人数が少ないんですけど、だんだん増えていって、いろんな楽器の音も重なって最後はひとつになるんですね。その過程がすごくて。個々の楽器の音が目立つことよりも、音を重ねたり組み立てる段階がロックにとって大切なのかな、とも気づいて。それをきっかけに、緻密に計算して作られた音楽にも惹かれるようになりました」
そもそもNatsukiさんは、楽器を始めた頃から自分自身が目立ちたい、ベースを目立たせたい、みたいな気持ちはなかったですか。
「それはまったくないですね。今のLuby Sparksの原型を組んだ時から、まず自分で曲を作ってそれをバンドでやりたいっていうのはずっとあるんですけど、唄うのが昔は嫌いで(笑)。だからヴォーカルを立ててその人に唄ってもらおうっていうのは最初に決めていました。もちろん曲によってはベースを前に出したいものもあるんですけど、基本的には全体の構成を決めたり、それぞれの楽器のバランスを整えたり、アレンジメントするほうが好きで。作品を作る時にも最初に目標を決めて、そこにたどり着くためにどうすればいいか考えて進めていくことが多いですし、そういう作業が好きなんですよね」
全体像や完成後の姿をイメージして、そこを目指していくこと自体が楽しいと感じたりもするのでしょうか。
「そうですね。だから最初にイメージした通りに物事を進めたいと思ってしまうんです。デモに関しても、自分が理想と思う形にきっちり組み立てて、それを他のメンバーに渡して落とし込んでもらうやり方がいいなと思ってましたし。ただ今回のアルバムでは、自分が意図していないアクシデント的な要素を得たかったので、他のメンバーに歌詞を書いてもらったり、メロディを考えてもらうみたいなチャレンジをしてみました。そうやって一緒に作ってみたら、自分の範疇を超えたところからいろんなアイディアを持ってきてもらえたので、すごく新鮮でよかったです」
どうして他のメンバーの意見も取り入れようと?
「前回の〈Somewhere〉っていうシングルを制作した時に、デモの段階でかなり決め込み過ぎていたので、他のメンバーは当日のレコーディングでただ弾くだけ、みたいな状態になってしまって。しかもレコーディングの時間がなかったのでピリピリしてて、バンドの空気があまりよくなかったんですよね。それに自分の近しいバンドや先輩たちから、ソングライターがひとりで仕切っていたらバンドの空気がだんだん悪くなっていった、みたいな話を聞く機会もあったので、自分もこのままじゃいけないなと思ったんですよ。もちろんそういうやり方のよさもあるのかもしれないですけど、自分はバンドのリーダーとしての器があるわけでもないなと思い出して。だからみんなのアイディアを積極的に取り入れて、もっとバンドらしくなりたいなと思ったのがきっかけでした」
自分のやりたいことをやろうと思ったら、ひとりで宅録で曲を作ることもできるわけで。どうしてそこまでバンドという形にこだわるんでしょう。
「やっぱりバンドで音楽をやることにロマンがあると思うし、そこにずっと憧れているからっていうのは大きいと思います。それにさっきも言ったように、今回のアルバムをメンバーと作る中で、自分の想定していなかったものが出てきて〈うわ、何これ。めっちゃいいじゃん〉みたいに興奮しましたし、それが嬉しかったんですよね。自分にないものや足りないところを他の人が持ち合わせていて、それを補ってくれるからバンドっていいなとあらためて思いましたし。その反動からなのか、今はひとりで曲を作って仕上げることに対して、物悲しさを感じるようになってしまったぐらいで」
それぐらい誰かと作り上げる体験から刺激を受けた。
「はい。たぶん今までも心のどこかでこういう刺激を求めていたのかもしれないんですけど、自分の中にある几帳面さが勝って、自分が曲を書かなきゃいけない、こうしなきゃいけないと思い込んでいた節があったんです。そういう凝り固まった部分をメンバーのおかげで壊せたと思います。それにこれまで〈Luby Sparksは、シューゲイザーやドリームポップをやっているバンド〉っていう見え方になるように、あえて意図して突き詰めてきた部分もあって。だけどそれ以外にもいろんな音楽が好きですし、自分たちのこれまでのイメージを変えたいっていう思いもあったんですよ。そのために今回はメンバーに頼ったところもあるんですけど、それぞれが影響を受けた音楽や、Luby Sparksとしてこれまでに経てきたものを踏まえて新しいアイディアを出してくれて。だから結果的にいろんなジャンルの曲ができたんだと思いますし、今作で言うと2曲目と7曲目みたいな、こういう重たい楽曲もこのバンドでできるんだなっていう発見もありました。今は〈Luby Sparksはこういうジャンル〉っていうのを設けずに、何をやっても大丈夫みたいな雰囲気がバンドの中にあります」
今作って整然としたサウンドではあるけれど、それ以上にバンドの熱量や、もっといろんなことができるはずだ、といった姿勢も出ていて、より間口が広がっていると感じたんです。それはNatsukiさんはもちろん、バンドが変化を求めて、互いに刺激を受けたからこそこういう作風になったんだろうなって。
「そうですね。『Search + Destroy』っていうタイトルにも自分たちの新しい方向性を探究しつつ、これまでの既存のイメージを破壊するみたいな意味を込めていて。タイトルの通り、バンドの音楽性や曲の作り方とか、そういうところで凝り固まっていた部分を破壊して、ちゃんと前に進めているなとも思っているんです。それにセカンドではありますけど、Erika(ヴォーカル)が加入してから初めてのフルアルバムですし、新しいLuby Sparksとしてやっと始まりの地点に立てたというか。僕としてはここからまた新たにバンドのストーリーを進めていくっていうイメージがあるので、今作を通してやっと本当の意味でバンドになれたなとも思っています」
前以上にバンドが外に開けて、ここから新しいスタートを切れると思うのですが、今後やってみたいことはありますか。
「このアルバムでLuby Sparksはジャンルにとらわれずにいろんな音楽をやるバンドなんだ、っていうことを示せたと思うので、何をやってもいいと思うんです。ヘヴィな部分を突き詰めてもっと激しい曲をやってもいいし、打ち込みを極めてエレクトロに寄るのもありだなって。だからいろいろなことをやってみたいですし、日本だと英詞で唄い続けているバンドは少ないと思うので、そこはバンドの武器として曲げずにやっていきたいです。あとは自分たちの音楽を通じて、普段は邦楽を愛聴している方が洋楽を聴くきっかけになったり、逆に洋楽しか聴かない方には日本のバンドもこういう音を出すことができるんだ、ということも知ってもらえたらとも思っていて。そういういろんな人の中にある凝り固まった価値観みたいなものも破壊できたらいいなと思います」
文=青木里紗
写真=Dai Yamashiro
NEW ALBUM『Search + Destroy』
2022.05.11 RELEASE
01 Start Again
02 Depression
03 Honey
04 Callin' You
05 Crushing
06 Lovebites
07 Don't Own Me
08 Closer
09 One Last Girl
10 Search + Destroy