【LIVE REPORT】
山内総一郎〈山内総一郎 HALL LIVE『歌者 -utamono-』〉
2022.04.09 at 昭和女子大学人見記念講堂
音楽と人間性は別。
極端に言えば、音楽さえ良ければ人間性はどうでもいい。
世の中にはそういう考えを持つ人も少なからずいると思う。だが、山内総一郎の音楽に触れるたび、やはり音楽と人間性は地続きであり、人間性を含めて彼の音楽に惹かれているのだと強く思い知らされる。
山内総一郎が今年3月にリリースした初のソロアルバム『歌者 -utamono-』。そして、同作のリリース記念ワンマンライヴ〈山内総一郎 HALL LIVE『歌者 -utamono-』〉が先月昭和女子大学人見記念講堂で開催された。アルバム収録曲「歌にならない」で幕を開けた本公演。ハンドマイク一本で唄う山内の脇を固めるのは、名越由貴夫(ギター)、砂山淳一(ベース)、伊藤大地(ドラム)、皆川真人(キーボード)といった、山内とは以前から交流のある面々だった。特に砂山とは旧知の仲で、高校の同級生だという。当時は同じバンドで活動していた2人が共にステージに立つのは20何年ぶりだそうで、思い出話に花を咲かせる姿は微笑ましくもあった。2曲目の「地下鉄のフリージア」では歌唱の合間に笑顔で観客へハンドクラップを促したりと、信頼できる仲間が傍にいるからか、緊張感よりも楽しさやアットホームな空気が漂っていたのが今でも印象に残っている。
「たくさんの思い出と再会しながら曲を作って気づいたのは、僕はこれからも皆さんと素晴らしい景色を見て行きたい、皆さんの背中を押して行きたいということ」と語り披露されたのは、「大人になっていくのだろう」。〈いつからか大きな声で 遊ぼう!なんて言えてない/ありふれた日々が特別だったんだ〉〈瞬く間に過ぎた日々 憧れには遠いけど/何度も何度も 僕を照らしていた〉と郷愁を誘う歌詞を、アコースティック形式で伸びやかに唄う山内。この楽曲をはじめ、『歌者 -utamono-』の収録曲には山内が人生で積み重ねてきた感情や痛みが随所に滲んでいるが、演奏によっていっそう血が通った楽曲たちを耳にしていると、まるで彼のこれまでの歩みを共に振り返っているような感覚にも陥った。
続くカヴァー曲披露のタームでは、スピッツ、奥田民生、くるりといった、彼にとって特に思い入れの強いアーティストの楽曲を披露。一曲ごとにアーティストや曲にまつわる思い出を丁寧に語るところに山内の律儀さが垣間見えつつ、どの曲も聴き手の心を揺さぶるほどの歌声が素晴らしかった。特筆すべきは、THE YELLOW MONKEYの「SO YOUNG」。当然、山内と聴き手が同じような人生経験を重ねてきたわけではないし、この曲に対する思い入れも、彼と聴き手で全く同じわけではない。それでも、彼が唄うことで誰もが共感し得る普遍性が宿り、聴き手が個々に抱える傷や痛みを預けられる余白が生まれたように感じた。
カヴァー曲のあとは、再びバンドセットで、「青春の響きたち」などアルバム収録曲が披露されたが、持ち曲であろうとなかろうと、先ほど感じたことは変わらない。それはきっと、どの曲にも冒頭で述べた「皆さんの背中を押して行きたい」という言葉の通り、誰かの感情に寄り添いたいと本気で願う山内の覚悟や優しさ込められているからではないだろうか。そんな思いを抱えながらこの公演を観ていた中で、特に印象に残ったのは終盤に語られたこの言葉。
「悲しみや争いが起こっている中で、心の居場所がなかなか無いような日々を過ごしていらっしゃる方もいると思います。でも、この空間や音楽が少しでも愛おしく思えたのなら、それがあなたの居場所です。この先も僕は居場所を作っていきたいんです」
自分の歌で孤独感を打ち消してほしい。そして、聴き手を光の射す未来へ連れていきたい。そういった祈りにも似た強い想いは、アンコールのラストに披露された新曲「日々の産声」にも確かに込められていた。
〈君を彼方へ 終わりのない日々へ/連れてゆくのさ ルルル とっておきの歌で〉
ライヴの数日前に完成したという出来立てホヤホヤのこの曲。タイトルが決まっていなかったため、急遽ライヴ中にタイトルを決めると宣言した山内に対して、バンドメンバーが驚いた表情を見せたり、観客も声が出せないにしろ、明らかに驚いているのが伝わってきた。山内も「こういうことはまず無いですよね(笑)。こんな空間は他に無いですから!」と語っていたが、それによって少しでも早く新曲を届けたいという山内の純粋な想いが伝わってきて温かい気持ちになれた。
そんな山内の芯の強さと歌者としての逞しさを、表現力豊かな彼の歌声を軸に実感した一夜だった。きっと、彼はバンドとしてもソロとしても絶えず生み出していくのだろう。誰一人として見捨てない音楽を。
文=宇佐美裕世
写真=森 好弘
【SET LIST】
01 歌にならない
02 地下鉄のフリージア
03 サタデー・ナイト・クエスチョン(中島愛への提供曲)
04 マイ・ソング(花澤香菜への提供曲)
05 大人になっていくのだろう
06 チェリー(スピッツ)
07 息子(奥田民生)
08 SO YOUNG(THE YELLOW MONKEY)
09 ロックンロール(くるり)
10 青春の響きたち
11 風を切る
12 最愛の生業
13 白
ENCORE
01 あとがき
02 日々の産声