4月20日にリリースされるTRICERATOPSのニューアルバム『Unite / Divide』は、8年ぶりの作品となる。これだけ時間がかかったのは、和田唱(ヴォーカル&ギター)のソングライティングのペースが多少ゆっくりになったこともあるが、それ以上に、デビュー25周年を迎えるメンバー3人の、バンドへの向き合い方にズレが生まれたことが大きい。それを再確認するため、3人はそれぞれソロ活動を行っていたが、いろんなきっかけで同じ方向に向き合い、ようやくここに来て再始動。そして生まれたこのアルバムは、非常に歌詞が生々しく、和田が感じる時代への苛立ちや疑問が刻み込まれ、TRICERATOPSらしくない衝動がリアルに描き出された作品となった。そう、いわばこれはバンドの復活作であると同時に、25年目にしてグレートリセットされた、ファーストアルバムなのだ。
(これは『音楽と人』5月号に掲載された記事です)
TRICERATOPSは、今年でデビュー25周年を迎えました。
「まったく実感が湧かないです(笑)。僕が中学の頃、ローリング・ストーンズのヒストリービデオ『25×5』が出たんですよ。それは彼らの結成25周年記念で、メンバーそれぞれのインタビュー映像を挟みながら、歴史を振り返る映像作品なんですけど、〈25年もバンドやるなんて、大ベテランだな〉って思ったもんですよ。見た目も当時の自分からしたらおじさんだったし(笑)。あの時のストーンズと、同じ時間を3人で過ごしてきたんだと思うと、非常に不思議ですね」
SHISHAMOの対バンツアーのゲストに呼ばれたり、ARABAKI ROCK FEST.ではトリビュートステージが用意されるなど、25周年に相応しい動きも出てきました。
「ありがたいですね。SHISHAMOはすごくいいバンドだし、(宮崎)朝子ちゃんから『ファンです』なんて言われるのは誇らしいですよ。ARABAKIも特別ステージを企画してくれて、感謝感謝です」
そんなアニヴァーサリーに、8年ぶりのフルアルバムがリリースされます。
「8年……気づいたらこんなに経ってましたね(笑)。でもここ5年ほどソロでずっと曲を書いてたので、最近はいい感じにソングライティングモードなんです。思えば2010年頃から、ペースが以前より落ちたんですよ。バンドとして何を唄えばいいのか、って。でも今は扉が開いて、よし曲書こう!ってモードになってますね。ソロをやったことで自分がリセットされたのかも」
それも大きいと思いますが、この8年は同時に、和田くんがメンバーに、自分にとってバンドとは何か、問いかけた時間でもあって。
「そうですね」
今は同じ方向を向いて歩いてる感覚にはなれていますか?
「うん……話がちょっと逸れますけど、僕ら、アルバム作ることになったら、誰かの家に集まって、みんなで一緒に最初のデモテープを形にする、っていうことがこれまで何度かあって。思えば大切なタイミングで必ずやってるんですね。最初は佳史(吉田佳史/ドラム)の……彼が結婚したばかりの頃だったかな。彼の部屋に集まってデモテープ作って、一段落したタイミングで、奥さんが夜ご飯作ってくれて。それをみんなで食べて、また作業して。深夜に終わったあと、佳史は、僕と林(林幸治/ベース)を車で家まで送ってくれてたんですよ! そのために、彼だけ酒を呑まずに。美しい時代だ!(笑)」
いい話ですね。
「デモ作りというとそれを思い出すんですけど、今回はそれをやるべきだなと思って、僕の家に2人を呼んだんです。僕は送らなかったですけどね(笑)。すごく狭いですけど、ちょっとした作業部屋があるから、そこに3人で入って、曲のフレーズとかを煮詰めて。そのために僕は、詞曲をすごく早い段階で準備してたんですよ」
じゃあそれをあらかじめ2人に送って?
「そう。もう歌詞もついた簡単な音源を送って。それを3人で会って煮詰めていく。データのやり取りだけでもできたかもしれないけど、やっぱり同じ空間にいることが今回は必要で。1曲1曲に長い時間、3人で関わることをバンドとしてやりたかった。僕が設計図を書いて、単にそれをなぞってもらうっていう進め方じゃ意味なくて。〈バンド〉を感じたかった」
で、夜は奥さんが食事を用意してくれると。
「そうなんですよ! ご飯ができたらおしまいにして、みんなで一緒に食べて、酒を呑む。それを何回もやりましたね。ワイン、相当な本数空けましたよ(笑)」
そうやってもう1回、バンドをちゃんとやろう、と思わせたものは何だったんですか?
「ソロの取材でもお話しましたけど、まず僕は、3人が同じパッションでバンドに向き合えてるのか、信じられなくなってたんですね。だから2018年にソロを始めたわけですけど、実はもう少し続けようと思ってたんです。そしたらマネージャーの大森さんが『復活するなら、2020年は逃さないほうがいいんじゃない?』って」
「2020」という名曲がありますからね。
「そう。2020年を逃すと、ちょっと復活するタイミングがなくなるよ、って。正直、その時はまだ考えてなかったです。でも、そう言われてから徐々に、自分がお客さんの立場なら、このタイミングで復活したら嬉しいよな、と思うようになって、その気になってきたんです。新曲がなくても、ベスト的な内容のライヴならいいかなと思って、2人と久しぶりに会って内容を詰めようとしたら、今まで意見なんてほぼ言わなかった林が、セットリストを考えてきたんですよ。これがめちゃくちゃ新鮮だったんです。しかもその選曲が、シングルのオンパレードで、 ヴォーカリストのペース配分を何も考えてない(笑)。でも林の気持ちが詰まってたし、その姿勢が嬉しくて、そのセットリストでやってみたら、すごく充実感があったんです。明らかに以前とは違う何かがあったから、これなら3人でできるかもな、って」
なるほど。
「次のソロも意識してたから、曲はもう作り始めてたんですよ。iPhoneのヴォイスメモにアイディアが断片的に入ってて。それを聴き返してみたら、これならバンドでいい曲になるな、ってものもけっこうあったりして」
しかしアルバムタイトルが『Unite / Divide』って、めちゃくちゃ意味深に感じます。
「思いますよね(笑)。今回、タイトルは悩んだんですよ。犬の散歩をしながら、思いついたらスマホにメモったんですけど、なかなかしっくり来なくて。でもある時、閃いたというか。この2年以上、ずっとコロナ禍じゃないですか。そんな中、僕の中で膨れ上がる疑問、苛立ち、寂しさ。それをSNSで、僕はこう思ってるって発信するのは可能ですけど、対抗するエネルギーも受けなきゃならない。俺はミュージシャンなんだから、音楽で表現しようと思ったんです」
というのは?
「この時代、みんなそれぞれがいろんなことを思ってるじゃないですか。情報もいろんなところで手に入るから、それぞれが自分の意見に信念を持ってて揺るがない。あるいは何も考えない。だから『君は間違ってるよ。正しいのはこっちだよ』って言い合っても、埒が明かないでしょ。社会はどんどん分断されていくんだなって思うことがけっこうあって。〈いっそ分裂〉って曲も入ってますけど、もうわかり合えないんだったら、いっそ分断されちゃって、わかり合える人たちだけで集まって一緒に生きたほうが、むしろハッピーなんじゃない?って気持ちから生まれました。かなり皮肉っぽいですけどね(笑)」
なるほどね。
「10年前は『WE ARE ONE』(註:10枚目のアルバム)って言ってた僕が、こんなこと思うなんて考えられなかった。だから気持ちとしては〈unite=団結〉したいけど、違う考えの人同士が、お互い、相容れない意見を責めたてるんだったら〈divide=分割〉したほうがハッピーなのかもね、って」
そういう気持ちがタイトルになってるわけですね。