【LIVE REPORT】
銀杏BOYZ〈銀杏BOYZ アコースティック・ライブツアー2022「僕たちは世界に帰ることができない☆」〉
2022.03.14 at Zepp DiverCity
2020年に2度行なった配信ライヴでは、かつてのようなライヴができない状況に対するやるせなさを口にしていた峯田。フロアに人がひしめき、至近距離でお客さんの存在を感じながら唄うことが、自分にとってのライヴなのだ、とも語っていた。さまざまな制限がある中でのライヴ開催をはじめとした、この状況に対する峯田自身の葛藤や逡巡を経た上で、今回、初のアコースティック編成でのライヴツアーに踏み切ったことは、想像に難くない。〈銀杏BOYZ アコースティック・ライブツアー2022「僕たちは世界に帰ることができない☆」〉Zepp DiverCity公演。バンドにとって約2年半ぶりとなる有観客ライヴである。
峯田セレクトによるBGMが、インストのSEに変化すると、徐々に照明が落ち、ステージ後方のスクリーンに、ここ数年のライヴ映像が映し出された。拳をあげ、泣き笑いの顔で唄い叫ぶお客さん、もみくちゃになってるフロアと唾や汗を撒き散らしながらマイクに食らいつく峯田の姿がカットアップ的に流れていく。最後は、コロナ禍以降に行われた配信ライヴの映像となり、マスクをしないで外に出ることもなくなり、歓声や怒号が飛び交うようなライヴもなくなった、今では当たり前になりつつある現状、でも2年半前とは、すっかり変わってしまった日常を思い知らされるのだった。
一瞬の静寂を挟み、スクリーンにツアータイトルが映し出されると、スポットライトに照らし出されたステージ中央の椅子に向かって、マスク姿の峯田が歩いてくる。そして椅子に座り、マスクを外しながら、おもむろに手にしたアコギを抱え、「人間」を唄い始めた。オリジナルメンバーが抜け、峯田だけの銀杏BOYZになってまもない頃、幾度となく弾き語りで披露されてきたこの曲でライヴを始めたのは、アコースティック・ライヴという今回のテーマもあるだろうが、東ヨーロッパ地域で繰り広げられている争いなど、〈今現在の世界〉との対峙という意味合いもあるのだろう。剥き出しの声で唄われる〈君が泣いてる夢を見たよ/僕は何にもしてあげられず〉〈戦争反対/とりあえず/戦争反対って言ってりゃいいんだろ〉というフレーズが胸を突く。
久しぶりとなるライヴへの思いと、会場に集まった人たちへの感謝の言葉に続けてプレイされた「NO FUTURE NO CRY」の後半から、サポートメンバーが登場し、いつもの立ち位置に配された椅子に座って演奏する形でライヴが進んでいった前半。エレアコ・ベースを持つ藤原寛、主にウッドブラシのスティックを使う岡山健二に、アコギの加藤綾太。また唯一エレキ・ギターを手にする山本幹宗は、フィードバックノイズを繰り出すのではなく、シンプルに旋律を奏でている。「いつもの銀杏BOYZのライヴとはちょっと違う感じですけど」という最初の挨拶での峯田の言葉通り、アコースティック・ライヴ仕様にリアレンジされた楽曲たちを、一音一音丁寧に、互いに確かめ合いながら音を紡いでいく。夏目漱石『三四郎』の一節――主人公が偶然知り合った英語教師が語る初恋の話――の朗読から始まった「恋は永遠」に続く「骨」では、ドラムの岡山がメインヴォーカルをとり、峯田はコーラスに徹するなど、汗と唾とノイズに塗れた混沌とした空気の中で、幾度となく聴いてきた曲たちが、また違った表情を見せながら鳴らされていった。
「いちごの唄」が終わり、自分が曲を作り始めた頃の話を始めた峯田。その頃の自分にとって世界は敵で、そんな世界に押しつぶされないように、打ち克つために、曲を作り、バンドをやってきた。けど今、その憎き敵である世界が、新型コロナウィルスや戦争によって瀕死の状態になってしまった、と語り、「やっぱりこの世界は平和であってほしいなと思います」という言葉から、〈ハロー、今、君にすばらしい世界がみえますか〉と唄われる、「新訳 銀河鉄道の夜」へ。そこから、アシッドフォーク調にリアレンジされたことで、メロディと峯田の声に宿る感情がダイレクトに伝わってきた「アーメン・ザーメン・メリーチェイン」、キーボーディストDr,kyOnが加わった「光」という流れは圧巻だった。時に純粋でロマンチックに、時に心に渦巻くどす黒い感情も開陳しながら、クソみたいな現実に押し流され、埋もれてしまいそうな微かな希望を掬い上げるかのように、「光」の後半、椅子から立ち上がり、マイクに食らいつくように全身全霊で唄う峯田の姿に感情が揺さぶられる。
気づけば岡山は普通のスティックを握り、山本だけでなく、加藤もエレキを手に立ち上がり「東京」を演奏している。徐々に熱を帯びていくステージから、「BABY BABY」のイントロが高らかに鳴らされると、それまで椅子に座っていたオーディエンスが一斉に立ち上がり、もはや普段のライヴと変わらぬ様相に。「ぽあだむ」では、シーケンスではなく、Dr,kyOnのシンセの旋律によって、スイートなポップネスに満たされていくフロア。そしてバンドメンバーの紹介とともに演奏された「僕たちは世界を変えることができない」で本編を締めくくり、アンコールでは、本編に引き続きDr,kyOnとともに「夜王子と月の姫」をプレイ。その後、いつものメンバーとともに「GOD SAVE THE わーるど」、さらにライヴでは初披露となる「少年少女」で、この日は幕を閉じたのだった。
〈きれいなひとりぼっちたち 善と悪ぜんぶ持って 少年は少女に出逢う〉――ラストナンバーとなった「少年少女」を聴きながら、「新訳 銀河鉄道の夜」に入る前のMCでの言葉を思い返していた。
「遠くウクライナの空にも星が降り、爆弾の音が聞こえるなか子供たちが眠る。モスクワの空にも星が降り、パレスチナやいろんな国の空にも星が降り、俺らのいる東京の空と変わらない」
ウクライナだけでなく、ロシアにも言及した峯田。決してロシアに住む人すべて悪いわけじゃない。何が正しくて、何が悪いのか。奇麗事だけではない現実に押しつぶされないように、世界に打ち克つために少年は音楽を手にした。そして、同じようなひとりぼっちたちに向けて、善と悪ぜんぶ持って歌を唄う。濃密だったが、あっという間にも感じた全21曲、2時間半超えのライヴで、峯田和伸の、銀杏BOYZの音楽の核に触れたような、そんな気持ちにもなったのだった。 この日、何度となく、「ライヴができてよかった」と峯田は口にしていたが、こちらもまた、久しぶりに銀杏BOYZのライヴが観れて本当によかった。あの頃の世界にはもう帰ることはできないけれど、今度はどんな形で彼らのライヴを観ることができるのだろうか。その日が来るのを、今から心待ちにしている。
文=平林道子
写真=村井香
【SET LIST】
01 人間
02 NO FUTURE NO CRY
03 若者たち
04 駆け抜けて性春
05 恋は永遠
06 骨
07 夢で逢えたら
08 トラッシュ
09 エンジェルベイビー
10 いちごの唄
11 新訳 銀河鉄道の夜
12 アーメン・ザーメン・メリーチェイン
13 光
14 東京
15 BABY BABY
16 アレックス
17 ぽあだむ
18 僕たちは世界を変えることができない
ENCORE
01 夜王子と月の姫
02 GOD SAVE THE わーるど
03 少年少女