惨めに思われたくない、って気持ちをずっと引きずって生きてきたけど、孤独じゃなかったね、俺の人生
あと、浅田くんがコータローさんの気持ちをちゃんと汲めることも大きいでしょうね。
「うん。レコーディングの作業に関しては、信ちゃんがいるから何のストレスもない。それがほんとに助かる。あと今回、ジャケットもいいんですよ。昨日、アナログ盤の校正出てきて、見た時ぶっ飛んだもん」
これはコンセプトが何かあったんですか?
「いつか海で撮りたいと思ってただけ(笑)」
はははは。じゃあこのタイトルは?
「アルバム作ることになって、最初にイメージしたのは、ジャケットが海で、スローな曲から始まる、ってことだったの。で、信ちゃんに、『ちょっと1曲目に、スローな曲書いてくれない?』ってお願いしたんだよね。そしたら『いいですよ。じゃあ歌詞はコータローさんが書いてください』って言われて。で、書いてたんだけど、その途中、池袋の丸井がなくなったんだよね。8月29日。完全に閉店して、工事始まっちゃってさ。俺、立ち直れないぐらい落ち込んでたの。その時、自分の昨日、今日、明日をほんとに考えたわけよ。それがタイトルになったね」
それくらいで、と思う人もいるかもしれませんが、近くの大学に通ってた身としてはよくわかります。
「でしょ? 衝撃だったんだよ。時の流れを感じないわけにはいかなかった。それをきっかけに、いろんなことを思い出したんだよね。〈俺もここまできちゃったんだ、57だもんな〉って。そんなこと、普段は全然考えもしないのに。そしたら何も書けなくなっちゃってさ。『信ちゃん、俺ちょっと書けないみたい』って」
甘える57歳(笑)。
「途中経過は見せてたから、あとは信ちゃんが気持ちを汲んでくれて書いてくれた。とにかく丸井がなくなったのは衝撃でね。閉店の瞬間も見に行ったもん」
すごくセンシティヴですよね。
「センシティヴだね。そのへんのラーメン屋がちょこちょこ変わるぶんには別にいいんだけど、もう巨大すぎた、丸井は」
そして息子の健太くんがドラム。彼、お世辞抜きで上手いですよね。
「上手いよ。しかも〈サワーの泡〉なんて、土壇場でアレンジしながら録ったんだけど、どれも瞬時に対応しててさ」
ツアーも帯同するし、アルバムは生で録ってる曲はほぼ叩いてるじゃないですか。
「そうだね。前回は、健太が叩くってことが、なんだかんだ言って自分の中でもトピックだったけど、今回はあんまりないね。いちドラマーとして接してる感覚だね」
男と男の付き合いをしてる感じっていうか。
「そうだね。あんまり親父のやり方わかんないからさ。まああいつにとっては、それでいいんじゃない(笑)。一昔前だったら、キャッチボールやってやんなきゃとか、としまえん連れてかなきゃとか、いろんなことあったと思うんだけど、もういっぱしのドラマーなんだから」
まさか息子が同じ職業に就くとは。
「思いもしなかったよ。でもあいつ、すごいマニアックな資質があってさ。保育園の頃からまんだらけに行きたがってたの。ウルトラマンの怪獣のおもちゃとかあるじゃん。それの新品じゃなくて、中古を欲しがるんだよ。ヴィンテージ気質(笑)。1体ずつ足の裏見て、どの年代のか選別すんの。末恐ろしいと思ったね(笑)」
健太くんにはバンドマンになってほしいですか? それともプレイヤーになってほしいですか?
「本人はコレクターズをずっと見てるから、すごくバンド志向だったんですよ。実際バンドもやってるけど、でも、どんどんドラム叩けてればいいってなってるね。そもそもあいつが最初に目標にしたのが、スティーヴ・ガッドと、カースケさん(河村智康)だしね」
ソロデビュー30周年。そして5枚目のソロアルバムですけど、まだまだ作りたいと思いますか。
「あとは一応還暦で作りたいなと思うくらいかな」
じゃああと3年後。
「うん。その時にどう思うかだな」
どう思うかっていうのは?
「やっぱりさ、そもそもがソロ気質ではないわけよ。アニヴァーサリーで、おまけに自伝まで出しといて何なんだけどさ(笑)。コレクターズはいいんだよ。加藤くん(加藤ひさし/ヴォーカル)がいる限り、ずっと横でギター弾くことに決めてるから。それがいちばん俺らしくいられるから。でもこういうソロも、中途半端に終わらせたくないな、って気にもなってきた……ってことなのかな。なってみないとわからないから断言はしたくないけど、60以降も作りたいなと思っていたいね。願いだね、それは」
願いというのは、そういう自分でいたいということですね。
「そうだね。うん。幸せだなって思えるんですよ。30年以上前にカッコいいと思ったヴォーカリストの横で、ギターを弾いててさ。ちょっと時間が空けばソロ作らないかって言われて。じゃあやろうかなって腰を上げたら、信ちゃんやTOSHI-LOWやみーちゃんという、仲間が協力してくれるわけじゃん。自分がそうやって生きてこれるなんて、思ってもなかったんだよね。財産だよ、俺の」
でもコータローさんはずっとそれを求めてたんだと思いますよ。たぶん、孤独じゃないんだ、ってことを証明したかったんだと思う。
「そうだね。俺、自分のことラッキーだと思うの。両親亡くして、天涯孤独になって。田舎に預けられて、何も持たないでまた東京出てきて。そんな境遇を恨んだりもしたけど、でも、いつも誰かに助けられてきた。とはいえ、生意気言うようだけど、それも含めて自分でつかみ取るもんだよね、絶対に。北上で俺の面倒見てくれた親戚が居て、そこで出会った親友が居て、加藤くんに出会って……孤独じゃなかったね、俺の人生。惨めに思われたくない、って気持ちを、ずっと引きずって生きてきたけどさ」
そうですよね。
「うん。でもTOSHI-LOWみたいな奴がさ、『コーちゃんは帰り道、一人になったら寂しそうな顔してんだよ』って言ってくれるわけじゃん。そういうのをわかってもらえてるだけで、幸せな人生だよ」
文=金光裕史
写真=新保勇樹
NEW ALBUM『Yesterday, Today&Tomorrow』
2022.03.30 RELEASE
■CD
■アナログ
01 Yesterday, Today&Tomorrow
02 笑いとばせ!
03 Fall in Love Again
04 傷だらけのテンダネス
05 北風
06 I’m A Dreamer
07 サワーの泡
08 雨の匂い
09 冬がはじまる
10 ウイスキー
【Tour Information】
〈SOLO BAND TOUR “Yesterday, Today&Tomorrow”〉
2022年5月8日 仙台・CLUB JUNK BOX
2022年5月15日(日)東京・神田明神ホール
2022年5月21日(土)大阪・umeda
OPEN16:30/START17:00
前売チケット価格:¥6,600(ドリンク代別)
古市コータロー自伝「お前のブルースを聴かせてくれ」増補改訂版
2022年3月30日発売
タワーレコード独占販売
定価:2,500円(税込)
仕様:四六版/256ページ予定
発売:(株)音楽と人
〈ご注意〉この書籍は、タワーレコードのみで販売いたします。一般書店、CD店ではお買い求めいただけません。お近くにタワーレコードがない場合は、タワーレコード・ホームページより予約・お買い求めください。
この本に関する問い合わせ先:(株)音楽と人販売係 03-5452-4266