【LIVE REPORT】
AA=〈LIVE from story of Suite #19〉
2022.2.26 at 恵比寿LIQUIDROOM
作品の再現になるとは思っていた。コロナ禍に生まれたアルバム『story of Suite #19』は、バラバラになったり、曲順を入れ替えられることを拒む長編小説のような物語であり、ラストの「SPRING HAS COME、取っ手のない扉が見る夢、またはその逆の世界」で春到来の予感を伝えていく……といった進行になるのが妥当。しかしながら、オミクロン株が猛威をふるった1月の悪夢と、ロシアによるウクライナ侵攻が緊急ニュースで流れ続けるここ数日間だ。春よ来い、なんて言える気分ではない。すっきりしない気持ちのままリキッドルームに向かう。
予想は半分正解で半分不正解。ライヴは『story of Suite #19』の完全再現でありつつ、生バンドのエネルギーを作品以上にはっきりと伝えるもの。そして、爆音で音を鳴らすことにどんな意味があるのか、言葉を尽くして説明するのではなく、音の絶対的パワーで意地でもわからせる、みたいな2時間でもあった。現実はすっきりしない。ただ、終わったあと私の心はびっくりするほど前を向いていた。
始まりは作品同様に「冬の到来」。ステージ後方のスクリーンには、近年AA=作品ではお馴染みshichigoro-shingoのイラストを使用した映像。楽曲のポエトリーは生ではなく同期で響き、ひとりステージに立つ上田剛士は黙々とシンセで別の音を被せていく。彼が唄い出すのは2曲目に入ってから。通常のライヴとはまるで違う始まり方に、2020年の不気味な静寂を思い出す。人の消えた街。渦巻く不安と苛立ち。生死のボーダーすら決める意見の分断。それらが次々と音と言葉になっていくが、具体的なコロナの文字は出てこない。あくまで寓話のような描写だから、ドキュメンタリーとは似て非なる想像の余白がある。
2曲目後半からドラムYOUTH-K!!!が加わり、生ドラムとブレイクビーツによる激しいバトルが勃発。さらに4曲目からギター児島が、5曲目になるとヴォーカル白川が加わっていく様子は、最初ソロプロジェクトだったAA=がバンドになっていく物語とも繋がるものだ。RPGのように少しずつ仲間を増やし、共に闘う喜びを知り、音のヴォリュームも集団のパワーも面白いほど上がっていく。『story of Suite #19』は、そういうバンドの物語でもあることを私はこの日初めて知った。おそらくは、作者だってそこをメインに考えてはいなかったはずである。
ひとりから始まった静寂の表現が、メンバーが揃うことでロックバンドの熱狂へ変わる。ことに、モノクロからカラーへとスイッチが切り替わるような6曲目「BORDER」の興奮は忘れがたい。歌詞は決して明るくないのだが、腰を折り曲げて弦をはじき、頭をガシガシ振っている彼らのパフォーマンスは、近年(といっても丸2年ライヴはなかったのだが)見たこともないほど激しく、また楽しそうに見えた。それまで聴き入る姿勢だったフロアから初めての拳が上がる。爆音――どうしようもなく体を突き動かす音。その意味をはっきりと感じた。怒りや衝動と結びつきやすいと言われるが、フィジカルで考えれば、これは喜びなのだ。最初からいつもどおり、大音量とモッシュの応酬だったなら、この感覚に気づくことはなかったと思う。
リアルな告白、エモーショナルな自問を経て、作品の締めとなる「SPRING HAS COME〜」へ。作品を聴く限り、迷いながらもドアを開ける希望の予感、という印象の曲だったが、生演奏で聴くそれはまさに希望の歌だ。サビの明快なメロディは目指すべき突破口として響き、上田と白川のツインボーカルが一体感を増幅させる。さらに舞い上がる鳥たちの群れがスクリーンに映ることで、飛び出していける勇気までが湧いてくる。作品とライヴの違いをまざまざと思い知る一曲だ。そしてまた、ライヴが音源と違うのは、これでエンドロールとならず、さらなる希望のダメ押しができるところだ。
それが10曲目に来た「PICK UP THE PIECES」(並ぶことで初めて気づいたが、この曲、「SPRING HAS COME〜」とほぼ同じコード!)。前作『#6』収録曲で、当時は10周年を経たバンドの喜びを描いていた時期なので、シンガロングパートの強度が違う。『story of Suite#19』の物語を堪能していた観客にも俄然スイッチが入り、フロアは手拍子とジャンプでとんでもない盛り上がりを見せていく。暴れたいから、ではなく、暗い現実になんとか抗いたいから。音楽が人々をどうまとめ、どんなふうに導くのか。その様子がありありとわかる、素晴らしいワンシーンだった。
ここからは通常のライヴ、つまりハード&アグレッシヴな爆音を次々と畳み掛けるステージへ。「Such a beautiful plastic world!!!」や「The Klock」、「ROOTS」など鉄板のナンバーが並ぶ。盛り上がる曲なら事欠かないバンドなので本編ラストは何かと楽しみにしていたが、AA=10周年記念のシングル「SAW」が選ばれていたのも感慨深い。〈オレたちの闘争はまだ続く〉の歌詞は何を指すのか。きっと生きる限り直面するあらゆる理不尽だ。終わらない疫病であれ、肥大する権力であれ、どうしようもない紛争であれ、諦めたら試合終了。俺は絶対に屈しない、君たちもそうあってほしいと、上田は何度も拳を客席に向けていた。
なお、予定されていたアンコールは2曲だったが、急遽加えられた「PEACE!!!」。AA=のはじまりの歌だから、という意味ではないだろう。今ここで、世界に、ウクライナに向けて。その判断も実に上田剛士らしい。ステージと客席で無数に上がったピースサイン。渾身のメッセージがそこにはあった。
文=石井恵梨子
写真=Yoshifumi Shimizu
【SET LIST】
01 Chapter 1_冬の到来
02 Chapter 2_閉ざされた扉、その理
03 Chapter 3_美しい世界
04 Chapter 4_過ぎていく時は君の物語と似ている
05 Chapter 5_CLOSED WORLD ORDER
06 Chapter 6_BORDER
07 Chapter 7_ある日の告白、広がる銀世界/COLD ARMS
08 Chapter 8_WHY DO YOU KNOW MY NANE? 〜全てを知ってる君は何も知らない〜
09 Chapter 9_ SPRING HAS COME、取っ手のない扉が見る夢、またはその逆の世界
10 PICK UP THE PIECES
11 NOISE OSC
12 2010 DIGItoTALism
13 憎悪は加速して人類は消滅す〜Hatred too go fast,Vanisinging all human〜
14 Such a beautiful plastic world!!!
15 POSER
16 TEKNOT
17 The Klock
18 ROOTS
19 posi-JUMPER
20 SAW
ENCORE
01 NEW HELLO
02 FREEDOM
03 PEACE!!!