【LIVE REPORT】
〈FOREVER IN THE DAZE TOUR 2021-2022〉
2021.01.09 at 幕張メッセ国際展示場9-11ホール
「ロックバンドなんてものを好きでいてくれてありがとう」――。
全国ツアー〈FOREVER IN THE DAZE TOUR 2021-2022〉の幕張メッセ公演2日目、高揚感に包まれたステージ。「トアルハルノヒ」を唄い終えたあと、野田洋次郎(ヴォーカル&ギター)がそう口にした感謝の言葉がこのツアーを象徴しているようだった。
2020年11月、彼らはメジャーデビュー15周年を記念して〈RADWIMPS 15th Anniversary Special Concert〉を開催した。会場は彼らのホームグラウンドである横浜アリーナで、有観客と配信のハイブリッド形式の特別公演。それは以前『音楽と人』でも書いた通り、2013年に彼らが宮城県で開催した野外ライヴ〈青とメメメ〉を想起させるような強いメッセージ性を伴ったライヴでもあった。震災とコロナ、その2つを並列で語るのは安易かもしれないけれど、どちらも未来が見えなくなってしまう事態ではあるのは確かで、バンドの情動が揺さぶられるのは当然のこと。どちらの公演でも、彼らはライヴというエンターテインメントを通して〈こんな世の中だけど、それでも僕らは明日を選んで生きていくしかない〉――といったメッセージを投げかけ、オーディエンスに寄り添うことに意識が注がれていた。ゆえに横アリでの15周年コンサートは、音楽はもちろんそれを取り巻くすべての膨大な演出が、そんな洋次郎のメッセージを伝えるために存在していたと記憶している。
対して今回は、メッセージを届けるというよりも(もちろん洋次郎の口からひたむきな思いが伝えられる場面もあったが)、音楽そのものをバンドで鳴らすことの興奮や喜びが真ん中にあるライヴだった。ツアー折り返し地点ということもあってかバンドの演奏の完成度は極めて高く、まったく隙がない(アンコールで思わぬ演奏のハプニングが起きたが、それは口外しないことを洋次郎が客席にお願いしたからここには書かない)。ギター桑原の不在でライヴはどうなってしまうのか?というツアー前に抱いていた不安が一掃されるような、ツアーメンバーを含む総勢6名となったバンドの頼もしさに圧倒されっぱなしの2時間半だったのだ。また、ステージのメンバーを大写しにするスクリーンや客席へと伸びる花道も、彼らのアリーナツアーではよくある演出だが、様々な制約を強いられているオーディエンスとの距離を少しでも詰めるための装置として、いつも以上の大きな役割を果たしていた。
ライヴ冒頭の「TWILIGHT」での四方八方から入り乱れるレーザービームの数は、舞台上のメンバーをどうにか視認できるレベルの激しさだし、「海馬」ではステージ背後に投映された映像の禍々しさに思わず身構えた。言うまでもなく、バンドのパフォーマンスをマックスで伝えようとするスタッフたちの強い思いがなければ成立しないステージだ。でもライヴ中、そういった人たちの存在に思いを巡らせたり、あるいはそこにいるはずだったメンバーがいないことへの複雑な思いに駆られることもない。むしろ序盤の「ドリーマーズ・ハイ」からサポートメンバーのプレイをフィーチャーしたり、ツインギターになったことで「DARMA GRAND PRIX」がオシャレでスリリングな曲になっていたりと、目の前で鳴らされているバンドの音が著しくアップデートされていたのだ。
そもそもここまで2人のギタリストがRADWIMPSのメンバーの一員としてフィーチャーされていることが意外だったのと、すでに2人がバンドにすっかり馴染んでいることにも驚かされた。「おしゃかしゃま」のアウトロで感情が乗っかったギターソロを披露したTAIKING (Suchmos)。水玉シャツでフライングVと格闘する沙田瑞紀 (miida)は、若くしてこの世を去った天才ギターヒーロー・ランディローズを彷彿とさせる存在感を放っていた。そんな彼らを武田祐介(ベース)がアニキ目線で見守っている光景も微笑ましくて、バンドに新しい血が入ったことを素直に喜べるシーンがいくつもあった。
思えばツインドラムという編成も今やRADWIMPSにとって当たり前の光景となっているが、そもそも4人中2人のメンバーが不在のままバンドが続いていること自体、奇妙なことでもある。それでも彼らは負い目に感じることもなく、むしろ逆境を乗り越える勢いで走り続けてきた。その不屈さの源はもちろん洋次郎にあるのは当然だが、この日のライヴも彼が突出した存在としてステージに君臨しているわけではない。むしろ6人編成のRADWIMPS は、これまで以上に〈バンドらしさ〉をまとっていた。例えばシンプルで素朴な演奏に温かみを感じた「うたかた歌」や観客のハンドクラップで一体感を作り上げた「NEVER EVER ENDER」、そして冒頭で触れた「トアルハルノヒ」。そのどれもがRADWIMPSはバンドであることをことさら強く主張しているような熱を帯びていたのだった。
そもそも『FOREVER DAZE』というアルバムは、洋次郎がバンドという枠を飛び越え幅広い音楽に手を伸ばした作品だ。ロックバンド特有の青臭さや反抗心よりも、音楽そのものに彼自身がどっぷり浸ることで生まれた一枚、と言っていいだろう。もちろんそこにはツアーに出ることもできず、会いたい人と会うこともできないことや、社会の分断や誰かの身勝手な正義を前に絶望したことが、あってもおかしくないだろう。もしそうだとしたら、彼が音楽に救いを求めるのは当然のことだ。結果、彼が音楽に救われたことで『FOREVER DAZE』は生まれたわけだが、このアルバムから感じられる瑞々しさは、彼自身が音楽によって生まれ変わったことを示唆しているのかもしれない。
そんなアルバムを携えたツアーが、なぜここまで〈バンドらしさ〉をまとうものになったのか。理由はステージで起こっている出来事とバンドが鳴らす音を聴けば一目瞭然だった。彼は絶望の果てに追いやられても、思いがけず期待を裏切られるようなことがあっても、人を愛することを諦めない。そうすることでしか明日を掴むことができないことを知っているのだ。ゆえにこれまで以上にバンドで音を鳴らすことに夢中になっているのだろう。
「ロックバンドなんてものを好きでいてくれてありがとう」という言葉には、実はバンドに対する感謝の気持ちも込められていたような気がする。〈ロックバンドなんてもんを やってきてよかった〉――「トアルハルノヒ」の一節を口ずさみながら、今でも彼は休止メンバーの帰還を待っているのかもしれない。
文=樋口靖幸
写真=ヤオタケシ
【SETLIST】
01 TWILIGHT
02 桃源郷
03 ドリーマーズ・ハイ
04 海馬
05 カタルシスト
06 DARMA GRAND PRIX
07 MAKAFUKA
08 うたかた歌
09 DADA
10 おしゃかしゃま
11 セツナレンサ
12 匿名希望
13 NEVER EVER ENDER
14 トアルハルノヒ
15 Tokyo feat.iri
16 SHIWAKUCHA feat.Awich
17 いいんですか?
18 鋼の羽根
19 SUMMER DAZE 2021
ENCORE
01 棒人間
02 スパークル
03 君と羊と青