以前よりちゃんと自分のことを文字に書けるようになった気がします。これまでは自分の感情を文字にするのが怖かったんです
ほのかちゃんにも、そういう表と裏の表情みたいなものは、やっぱりありますか。
「絶対にあります。そういう使い分けを意識的にし始めたのって、小学校くらいからだと思うんです。人とのバランスを取るというか、クラスでよくやっていくために、みたいな。今はもう無意識に使い分けるようになったので、境界線がよくわからなくなってきてますけど(笑)」
でもそういうのってみんなあるものですよね。
「そうですよね。でも、そうやって使い分けてるのはなんかダサいって思っちゃいますね(笑)。最近、実家で犬を飼い始めて。動物って、ほんとにそういうのがないんです。ダサさが1ミリもない。そういうふうにひとつの面だけでいられるのが一番美しいけど、それもなかなかできなくて。やっぱりいじめられるのは怖いし、好かれていたいし」
そうですね。今までは登場人物がひとりだったり、内側に潜っていくような歌詞が多かったと思うんですよ。でも「セイントアンガー」は、いろんな人の人生や表情が多面的に描かれていて、それがすごく新鮮だったんです。
「私、ムーミンの作家のトーベ・ヤンソンさんがすごく好きで。ムーミンっていろんなキャラクターが出てくるんですね。トーベ・ヤンソンさんは、そのキャラクター一人ひとりに全部自分を反映してるって言ってて。それがすごくカッコいいと思って、私も曲でできたらと思ったんです」
実は私もトーベ・ヤンソンが好きで。
「え、そうなんですね!」
はい。彼女が描くキャラクターって自分を反映してるけど、同じような性格の子がいなくて。
「そう。ものすごくバラバラですよね。だからあれだけいっぱい感情があるんだなってことも、すごいなと思って」
そうそう。でもそれでいいんだっていう感じがしません?
「あ、そうなんです。さっきの裏と表じゃないんですけど、こういう自分もいるし、こういう自分もいるっていうのを、彼女が受け入れて作品にしていて。そうすると自分のことを少し好きになれたり、自信を持てたりするんですよね。私も今回それをやってみたことで、自分のことをかわいいなって思えたというか(笑)。いろんな面があるのはダサいって思うこともあるけど、どれも自分なんだって。だから以前よりちゃんと自分のことを文字に書けるようになった気がします。これまでは自分の感情を文字にするのが怖かったんです」
どうしてですか?
「文字にするとまるで違う自分がその紙の上にいるような気がしちゃって。たぶん自分に自信がなかったんです。最近は怖がらずに自信を持って、これが自分なんだってちゃんと文字に出せるようになりました」
そうやって自分のことを好きになれると、周りの人や景色の見え方も変わったんじゃないですか。アルバムでも、自分と繋がっている景色や時間や場所が歌になっていたりして。
「自分をかわいいって思えるのは、自分を許すことから始まると思うんですけど、それをしただけで、周りはかなり変わりました。でも自信があったから書けたっていうよりも、少しずつ、自分を許してあげて、時間を許してあげて、時代を許せるようになって。いろんなことを見ようとしてる努力の過程みたいな、曲を作りながら好きになっていくっていう感じでした」
いろんな景色や人に対して、愛おしさや慈愛ような視点があるなと思ったんですが、ほのかちゃんが自分を許して、外と繋がろうとしたから、そう感じたのかな。
「やっぱり人に届けることは第一優先に考えていて。それはとくに歌詞で考えるんですけど。朝見てもお昼に見ても夜に見ても、イヤじゃない言葉っていうのを書きたくて。道を歩いていて看板とか広告とか目にするんですけど、疲れちゃったりするじゃないですか。いろんな世界観の言葉がブワーってあるから」
情報がいっぱい入ってくるというか。
「普通に生活してるだけで疲れちゃうから、曲を聴いて疲れさせたくないなと思って。逆に疲れてる時に聴いて、大丈夫だなって思ってほしくて、たくさん時間を使って書きました。そういうのはあるかもしれないです」
そういう情報を上手に遮断できる人もいると思うんですよ。疲れないように受け流したり。でもそれができない人ももちろん世の中にはいて。すごく敏感にいろんなことを感じ取ってしまう人だったり。
「ああ、興味を持ってる人って疲れちゃいますよね、きっと」
そういう人たちに優しく響くアルバムじゃないかなと思います。いろんな人や場所にちゃんと繋がっていこうとしているからこそ、自分から声をあげられない人にもきっと届くだろうし。
「うれしいです。でも、ひとりでこれをやるにはちょっと勇気が足りないんですよね。だけど、海ちゃんとゆきやま(ドラム)がいるからできるというか。今は楽器がなくても、メンバーがいなくても音は出せる世の中だけど、やっぱりこの言葉を伝えるのに、2人が必要で。支えてくれている安心があるというか。だからバンドじゃないと言えない言葉なんだなって思います。自分だけだったら、日記みたいに自分の中で終わっちゃう気がして。それを外と繋がるものにしてくれているのは、メンバーがまず自分の言葉のように一緒に演奏してくれるからで」
まずはメンバー2人とちゃんと繋がれないと、外にも向かっていけないし。
「はい。昔の私は直接お客さんに対して動けなくて、お客さんに向かっていく入り口にいてくれたのが2人だったんです。ドラムもベースも、私の歌詞が届くようにって2人が丁寧につけてくれて。自分のコンプレックスでもあった言葉に、そうやって寄り添ってくれる人に出会えてよかったなって、あらためてメンバーの大切さに気づきました」
ほのかちゃんに一番自信を与えてくれる存在が、海さんとゆきやまさんなんですね。そういう関係で作った音楽は、同じように誰かに自信を与えたり、優しく抱きしめられるものになると思います。
「だから2人と一緒に音楽できて、ほんとによかったです……ちょっと泣きそう。ふふふ。優しさって表現するのがすっごい大変なものだと思うんです。でもその方法がわかったのは、2人とこの作品を作ることができたからなんだと思います」
文=竹内陽香
撮影=YUKI KAWASHIMA
ヘアメイク=URI
NEW ALBUM『Cとし生けるもの』
2022.02.19 RELEASE
■初回生産限定盤(CD+Blu-ray)
■通常盤(CD)
〈CD〉 ※初回盤、通常盤ともに共通
01 たたかわないらいおん
02 セイントアンガー
03 惑星トラッシュ
04 教室のドアの向こう
05 中央線
06 東京
07 きれいなおと
08 風にとどけ
09 ほしのなみだ
10 9mmの花
11 アルケミラ
12 Candy
〈Blu-ray〉 ※初回盤のみ
真夜中のプラネタリウム‐Midnight Planetarium Live‐
×リーガルリリー「bedtime story」
01 ベッドタウン
02 GOLD TRAIN
03 1997
04 林檎の花束
05 キツネの嫁入り
06 そらめカナ
07 ハナヒカリ
08 猫のギター
09 まわるよ
10 子守唄のセットリスト
11 ハンシー
12 bedtime story
13 リッケンバッカー
14 スターノイズ
15 蛍狩り
LIVE INFORMATION
〈リーガルリリー 東名阪ワンマンツアー 『Cとし生けるもの』〉
1月30日(日) 大阪BIGCAT (開場16:00 / 開演17:00)
1月31日(月) 名古屋CLUB QUATTRO (開場17:30 / 開演18:30)
2月8日(火) 中野サンプラザホール (開場17:30 / 開演18:30)
一般発売受付中!
Ticket代:前売り \4,300-