オトナになると自分のために生きるのがシンドくなる。ハタチすぎの若かりし頃は、アイツよりモテたい、肉ばっか食いたい、稼ぎたい、評価されたい、出し抜きたい、チヤホヤされたい……と我利我利の亡者として自己中心主義で突っ走れるが、人は齢を重ねるにつれ、それなりに満たされ自分の限界も見えてくる。すると世のお父さんは「家族のため」「子供のため」「地球のため」などと自分以外の場所にモチベーションを見出そうとする。若き日にはあれほど鬱陶しかった“エゴ=生きる活力”の減退に今度は焦りはじめるのが中年という年代である。
ミュージシャンがキャリアを重ねることもこの例に漏れない。当初はとにかく売れたい、武道館やりたい……と己の欲望まるだしで突き進むものの、ある程度評価されて満腹感が出てくると途端に行き先がわからなくなる。そして自分なりの答えを見つけようともがく。「応援してくれるファンのため」「同じシーンで頑張ってる仲間のため」「全国のライヴハウスを守るため」……人生は自分のためだけに生きるには、あまりにも長すぎる。そんな“生きる理由”に出会えることを人は幸せと呼ぶ。
さて、デビュー19年目、スキマスイッチの音楽人生もまさにその通りである。だが私が近年の彼らに心動かされるのは、ポップの方向性として「自分たちはファンのためにある」という精神がトコトンまで徹底されていた点にある。特にコロナ禍で世の中が窮地に陥って以降、彼らの行動力は際立っていた。彼らは無料でYouTubeにライヴを流し、ファンと一緒に楽しい企画を考え、惜しげもなく「全力少年」を唄い、そしていつもの快晴の笑顔で「大丈夫!」と呼び掛けていた。ちゃんと“守るべきもの”があって、そこに滅私で臨むバイタリティ。私はそこにオトナの見本を見るような気がして、「自分もこれくらい人に優しくあれたなら」と胸が震えたものである。
そんな私だからして、彼らの新作が“今、求められているもの”をテーマにした『Hot Milk』と、“今、メンバーが作りたいもの”をまとめた『Bitter Coffee』の2枚同時リリースだと聞いてひどく納得した。誰かのために生きるオトナなスキマと、そこから零れ落ちるオノレ自身としてのスキマ。ただこの2枚が面白いのは、ずっと聴いているとどっちがどっちだかわからなくなることである。『Hot Milk』であっても哀愁の風は吹き、『Bitter Coffee』でも麗しきポップの火は灯る。もともと彼らの音楽は“あのミシュラン名店の味が大衆食堂で!?”的なバリバリの職人気質とサービス精神が混在したものだが、“誰かのため”と“自分のため”もまたメビウスの輪のように交錯してしまっているのだ。
私はこの2枚を聴きながら「リアルだなぁ」と沁みてならない。誰かのためと思いながら、自分のことも諦めきれない。それでも誰かに喜んでもらうことが自分の歓びでもあることに間違いはない。さらに興味深いのは、本作の中で大橋卓弥と常田真太郎の個性も溶け合い、何がどっちだかわからなくなっている点である。主役タイプの大橋と裏方気質の常田は言うまでもなくまったく異なる感性を持つが、この“ポップの戦い”の胸突き八丁を超えるため2人は共闘戦線を張り、互いに支え合っているように見える。
キャリアを重ねる、40代のオトナを生きるというのはそれくらい厳しいことなのだ。顔で笑って、心で泣いて、仕事はいつでも平然と高品質。そんな2人と今度赤提灯で一杯傾けたいと妄想する私、来月で早50である。
文=清水浩司
CONCEPT ORIGINAL ALBUM『Hot Milk』『Bitter Coffee』
2021.11.24 RELEASE
『Hot Milk』
■初回限定盤(CD+Blu-ray付)
■通常盤(CD)
〈CD〉※初回限定盤、通常盤共通
01 OverDriver
02 吠えろ!
03 青春
04 Ordinary
05 東京
06 スイッチ!
07 されど愛しき人生
〈 Blu-ray 〉※初回限定盤のみ
「Documentary of “Recording”」 レコーディングドキュメント+メンバーインタビュー映像 → Hot Milk & Bitter Coffee両方のレコーディングドキュメントを収録
『Bitter Coffee』
■初回限定盤(CD+Blu-ray付)
■通常盤(CD)
〈CD〉※初回限定盤、通常盤共通
01 I-T-A-Z-U-R-A
02 G.A.M.E.
03 風がめくるページ
04 いろは
05 SINK
06 フォークで恋して
07 あけたら
〈 Blu-ray 〉※初回限定盤のみ
「Documentary of “Studio Live” 」 *収録曲のスタジオライヴを撮り下ろしで収録 → Hot Milk & Bitter Coffeeよりスタジオライヴ数曲+当日のドキュメントを収録