【LIVE REPORT】
フジファブリック 山内総一郎生誕祭~October Ensemble~
2021.10.25 at Zepp Haneda(TOKYO)
フジファブリックが10月25日にZepp Hanedaで開催したライヴ〈山内総一郎生誕祭~October Ensemble~〉。山内総一郎(ヴォーカル&ギター)の生誕祭は今回が初だが、バンドにとって実は二度目の生誕ライヴ。初めて開催されたのは、1年半前に行われた金澤ダイスケ(キーボード)の生誕祭だったが、その公演では彼がやりたかったこと(=料理やフライングなど)がとことん詰め込まれていたため、〈生誕祭=主役のやりたいことを凝縮した自由度の高い内容〉という何となくの共通認識がファンの間にあったのではないだろうか。そのせいか、開演前の場内には観客の強い期待を感じられる熱気がすでに漂っているようだった。
開演時間を迎え、誕生日仕様に正装をした山内が登場。大きな拍手で彼を迎え入れる観客に対し、開口一番「ありがとう〜! 40になったぜー!」と応えてみせる本日の主役。それに続けて、「アンサンブルには〈合奏〉や〈一緒に〉という意味があって。僕は今までの人生で出会った人たちのおかげで生きてこれたので、それを可能な限り音楽で表現したい」と公演名に込めた想いが語られた。まずは山内一人で「Walk On The Way」と「手紙」が弾き語りで披露されたが、その成熟した伸びやかな歌声は、今日までの間に彼が感じてきた痛みや優しさなど、あらゆる感情が積み重なった先にあるものなのだと思うと、いっそう胸に迫るものがあった。
その2曲を唄い終えたタイミングで他のメンバーが登場するのかと思いきや、山内一人のままライヴは進んでいく。そして、彼が切りだしたのは、バンドの創始者である志村正彦への想いだった。「40年を振り返ってみて、やっぱりフジファブリックに加入したことが一番大きくて。2003年にみんなと出会えたから自分は今ここに立てています。僕にとって、志村くんとの出会いがすべてなんです」――友達として、ミュージシャンとして、あらゆる角度から抱く志村へのリスペクトや思い出を語る山内。「僕が作った鼻歌に、彼の歌や言葉が乗った時にとても感動して……そういった曲があることは、自分の人生においての宝物です」と語ったのちに披露されたのは、初めて山内が作曲を手がけ、その曲を元に志村が作詞した「水飴と綿飴」だった。きっと、ここから先は志村に続き一人ずつメンバーを紹介し、セッションしていくスタイルなのだろうと予想がつく。つまり、今ステージ上にいるのは山内一人であっても、これはあくまでも志村とのセッションなのである。いの一番に志村を紹介したこと、そして山内の語りかけるような優しい歌声に、彼にとっていかに志村の存在が大きなものであるのかを痛感した。
続いて、山内は音楽に出会った十代の頃や、中学生の頃に組んでいたコピーバンドのことを回想した。「僕は14歳でギターに出会って。当時は大阪の茨木西中学校に通っていて、Mr.Childrenならぬ西中チルドレン、略して西チルを組んでいたんです。今日はその西チルのメンバーを紹介します!」と、まさかの同級生召喚へ。ステージ上に現れたのは、チェロ奏者である内田麒麟。〈総一郎〉〈うっちー〉という当時の呼び方はそのままに、思い出話に花を咲かせる二人の姿はプチ同窓会状態。そんな和やかな空気の中披露されたのは、「Water Lily Flower」。これまでにも内田がフジファブリックのレコーディングに参加したことはあったものの、二人が同じステージに立つのは実に20年ぶりだという。しかも、この日は山内の記念すべき40歳の誕生日。彼らの胸に溢れた感慨深さが純度の高いままこちらにも伝わってくるような、とても感動的なセッションだった。
「次は家族を紹介します」と紹介されたのは、加藤慎一(ベース)。登場するやいなや、「お誕生日おめでとう」と祝福する加藤だったが、どうやらステージ上でお祝いの言葉を伝えるために、あえてこのタイミングまで「おめでとう」と伝えるのを控えていたという。そして、話題は二人が初めて会った時のことへ。「加藤さんは初めて会った時から優しくて、『お水飲みます?』って聞いてくれたよね」と、昔から変わらぬ加藤の魅力に触れる山内。「当時の自分の振る舞いに感謝ですね」と照れる加藤と披露した曲は、加藤が作詞作曲を手がけた「たりないすくない」。二人による新鮮なセッションを堪能していると、間奏に突入したタイミングで突如演奏がストップ。なんと、加藤による小噺タイムへと突入した。最近は単独でトークイベントを開催するなど、噺家としての才能もいかんなく発揮している加藤だが、そんな彼がこの日披露したのは、あの有名な「寿限無」だった。スラスラと加藤が話を展開していく横で、笑みを浮かべながら聞き入る山内。どうやら「寿限無」を選んだ理由は、「(山内の)幸せに限りがないように」という思いがあってのことらしい。
〈加藤が登場したのなら次はあの人だろう〉。会場にいる全員がきっとそう思っていた中、現れたのはやはり金澤だった。しかし、そこに居たのはいつもの金澤ではなく、なぜかパイロットのような出立ちである――実はこの衣装、金澤の生誕祭〈金澤ダイスケ生誕祭 -Flyaway-〉で彼が身に纏っていたものなのだ。久しぶりのキャプテン金澤の登場に「今日イチの盛り上がりですね」と山内が呟くほどに湧く会場。そして、スーツケースを引きながらステージ上を闊歩し、ご満悦な様子の金澤。その後も「山内くんは40年間、人生というマイルを貯めてきたわけだ。そのマイルを今日使わずしてどうする!」と激励したりと、キャプテンの暴走は止まらない。そんなふうにバンドのムードメーカーとしての役割を全うする金澤とのセッションに選んだ曲は、金澤が作曲、金澤と加藤の二人が作詞を手がけた「スワン」だった。山内いわく「年長者としての勢いと繊細さをあわせ持った曲」と語るように、不確かな未来へ進む不安も、強い決意も唄われている曲。この曲を生み出した金澤に対する敬意そのものが滲んでいるような、とても愛のある選曲だと思った。
金澤が嵐のように去っていったあと、ゆったりとステージ上に現れたのはサポートドラムの伊藤大地。バンドの屋台骨を支える存在として、ここ最近のフジファブリックのライヴで欠かすことのできない存在だが、実は相当前から山内と伊藤は面識があったという。「僕が20代前半の頃、下北沢の440というライヴハウスで、夜な夜なミュージシャンがセッションをしに集まっていて。そこに大地くんも来ていたんですけど、ミュージシャンの人数が多かったので〈僕が参加しなくてもうまく回ってるな〉と思う瞬間もあったんです。それでセッションには参加せず、その光景を端のほうで眺めていたら大地くんがやって来て、『なんか楽しいね』って声をかけてくれたんです。僕、その感じがすごく好きで……それ以来、大地くんのことをチェックするようになったんです」と、当時の思い出を語る山内。そんな波長の合う者同士のセッションに選ばれた曲は「東京」。これがとにかく見応えがあり、それぞれの才能と狂気がぶつかり合う様は圧巻だった。時間の許す限りお互いの引き出しを開け合う姿から、伊藤と山内――特にこの曲の間奏部分ではギタリストとしての山内の、両者の奇才っぷりを改めて思い知らされたのは言うまでもない。
濃密かつ貴重なセッションがすべて終了し、改めてステージ上に現れた加藤と金澤。すると、山内が「改めましてフジファブリックです」とバンドを紹介した。「この生誕祭が決まった時、何をしようか悩んで……でも何より、フジファブリックの素晴らしさを伝えたいだけだと気づいて。僕は、フジファブリックの一人一人がすごいことを知ってほしかったんです」と、一人一人とのセッション形式にした理由を明かした上でバンドとしての演奏に突入。改めて4人で鳴らされた楽曲はどれも優しさを伴いながら、力強く鳴り響いていた。フジファブリックの鳴らす音が力強いのは、何も今回に限ったことではない。それにしても、こうもいつもと聴こえ方が違うのはなぜなのか。セッションを通じて一人一人のすごさを改めて痛感したからか? いや、それだけじゃない気がする。そんなふうに頭の片隅で考えを巡らせながら聴いていたが、ラストの山内の言葉が、まるでそれに対する答え合わせみたいだと思った。
「僕にとって、フジファブリックが人生の希望なんです。だから、僕にとっての希望がみんなの力になれるように、寄り添えるように、これからもたくさん会える機会を作っていきたい」
誰よりもバンドを愛し、音楽の力を信じている。そして、音楽を通じて、誰かの力になりたいと本気で考えている。そんな思いを抱える山内が唄うから、こんなにもこのバンドの曲は響くのだろう。
自分の生誕祭ではあるものの、彼の口から語られていたのは、周りの人たちへの感謝と愛情ばかり。そんな彼を見ていて思い出したのは、9月に開催されたツーマンライヴ〈フジフレンドパーク 2021〉のことだった。今年のゲストアーティストは、フジファブリックにとって後輩であるsumikaとMy Hair is Badの2組。2日間ともそれぞれ素晴らしいステージではあったが、個人的に何よりも感動したのは、後輩に対しても素直に敬意を伝える山内のMC。それぞれのバンドのどんなところが好きか、どこを尊敬しているか、今日一緒にステージに立てたことがどれだけ嬉しいか、それらを毎回丁寧に伝えていた山内だったが、それは今日の生誕祭ライヴでも全く同じだった。
優劣も勝ち負けも意識せず、相手の魅力に気づくことができる。そして、それを真っ直ぐに相手に伝えられる。山内総一郎とは、そういう人だ。誰に対しても分け隔てなく向き合う彼が真ん中に立っているからこそ、フジファブリックというバンドはいついかなる時も優しく、温かく感じられる。この生誕祭ライヴは、フロントマンである山内、そしてフジファブリックというバンドの唯一無二の魅力に改めて触れることのできた、特別な公演だった。公演から約1ヵ月経ったいまもなお、この公演で感じた温かさは光となり、今も心の中を灯し続けている。
文=宇佐美裕世
写真=森 好弘
【SETLIST】
01 Walk On The Way
02 手紙
03 水飴と綿飴
04 Water Lily Flower
05 たりないすくない
06 スワン
07 東京
08 徒然モノクローム
09 SUPER!!
10 音の庭
11 Green Bird
12 ECHO
ENCORE
01 STAR