【LIVE REPORT】
THE NOVEMBERS〈Tour -At The Beginning-〉
2021.07.17 at USEN STUDIO COAST
格が違った。イベントなどで誰かと誰かを見比べて言うアレではない。以前のワンマンを思い出し、はっきりとバンドが格上げされたと思う。相対的な比較ではなく、絶対的な自覚によってだ。
たとえば本編後半の「こわれる」や「Xeno」。毎度ハイライトに用意される爆音ナンバーで、2本のギターが火花を散らし、リズム隊が雷鳴のように轟き、さらに断末魔の悲鳴が被さることでステージは紅蓮の炎に包まれていく。その狂おしい光景はノーベンバーズの大きな魅力だったが、2021年7月現在となれば、少しだけ青い、とも感じられた。感情で突っ走っていく若さがある。2018年頃までは、きっと、それでもよかった。
2019年3月の『Angels』から曲作りがだんだんシーケンスに移行し、ギターが主役ではない曲も増えた。ごく自然に小林祐介はハンドマイクを選択し、演奏中の半分は両手を解放するようになる。また、同年11月11日のワンマン公演では、『Angels』収録の「TOKYO」と映画『AKIRA』のテーマ曲をマッシュアップした圧巻のダンスナンバーも披露され、我を忘れるリフレインの中、初めての自由を手にしたと興奮気味に語る小林の姿もあった。美意識の高い80’s英国ロックがどうと昔ながらの型をなぞる必要もない。ただ新しい命を授かるようにシーケンスとバンドが重なり合い、その後、ノーベンバーズは不思議な最新作を産み落としたのだった。
どこかSFチックというのか、何か良くないことが迫っている予感はあるが、生々しい感情が爆発するでもない、全体が薄氷の中に閉じ込められたようなサウンド。そんな新作『At The Beginning』は、しかしコロナ禍により再現の機会を失った。配信ライヴは一度あったけれど、それがライヴハウスで実際どのように響くのか、当日までわからなかった。
これは一般論として書くが、ふつう、打ち込みが主軸になってしまえば生演奏は制限される。無理にクリックに合わせて演奏がギクシャクするくらいなら、いっそ同期なし、せーので音を鳴らすほうがストレスもないだろう。隙のないシーケンスをさらにライヴ用に調整しながら、それを乗りこなす肉体的技術や精神力を高めていく。同期の必然と生のバンド感を同時に表現しなくてはいけない。容易ではない作業だ。コロナ禍でぽっかり空いた時間は、だから、4人にとって決して悪いものではなかったはずだ。
一曲目「Rainbow」から結果はパーフェクト。まろやかなシンセと緻密なリズムで構成されたシーケンスを、吉木の生ドラムが打ち破っていくスリル。音源よりもずっと生々しい高松の存在感は、薄氷の中からようやくモンスターが姿を現したようでもある。数々のエフェクターからギターとは思えぬ音を繰り出すケンゴマツモトの動きからも目が離せない。やはりライヴとなれば光るのは個々のメンバーだ。かと思えば、2曲目「薔薇と子供」では凄まじい低音のエコーがいきなり心臓を鷲掴みにする。ロックバンドではまず作れない音像だ。どちらが主役と簡単に割り切れない。バンドとシーケンス、ふたつが分かち難く結びつき、互いに補完しながら、今のノーベンバーズは成立している。
さらにもうひとつ、久々ゆえによくわかった空白期間のメリットは、小林と中野雅之によるTHE SPELLBOUNDの始動。新しいパートナーから得る刺激が多いのか、小林の歌は目に見えて強くなっている。ねっとりロマンティックだったり、一転して悪魔的に叫んだり、感情のままに唄えるヴォーカリストではあったけれど、そこにどんな効果を加えれば肉声はさらに魅力的になるのか、そういう計算ができている。たとえば3曲目「美しい火」は、サビのメロディをまずイントロでゆっくり伝えるところから始まったが、こういう演出も今までになかったものだ。フロントマンとしての掌握力に圧倒される。
メインとなる新曲群は、レコードの印象よりもずいぶん激しいものだった。現代版インダストリアルみたいな「理解者」、太古のリズムが未来に向かって行進する「楽園」、こちらもサビのコーラスを先にぶつけることでド頭から火をつけていく「New York」など、作品にあった薄く冷たいベールは容赦なく剥ぎ取られている。轟音の中で頭を振る4人は究極にアグレッシヴなバンドにも見える。しかし、最初に書いたとおり、感情で突っ走ってOKとなるシーンがない。ことに小林祐介の一挙手一投足。完璧な角度が求められるパントマイムのように、決まるところでぴたりと決まるそれが本当に美しかった。感情に任せて、頭が真っ白になってしまって、という言い訳の生まれる様子がない。先ほど計算ができていると書いたけれど、ここに補足するのなら、理想のロックスターたらんとする自覚があり、それに相応しい振る舞いができている、ということだ。
そのうえで過去の名曲にやられる。前述の「こわれる」から「Down To Heaven」へ、さらに「Bad Dream」と進む後半の畳み掛け方がすごい。完成度だけでは語れない貫禄。小林はいつの間にこんなに揺るぎないカリスマになっていたのか。4人はいつの間にここまで鉄壁のバンドになっていたのか。文字通り悪い夢みたいな轟音に、もう、魂が抜ける。
俯きがちなインディ系ギターロックに始まり、突如啓示のようなシーケンスが入ってきて、分類不可能な地点に至った『Angels』以降。現在のノーベンバーズはさらに進化している。過去例のないロックスターになりつつある、というのは手垢のついた言葉だと我ながら思うので、預言者、あるいは先導者みたいな形容詞のほうが合っているかもしれない。とにかく、このバンドに付いていけば未来は必ずいいものになると思えるムード。サウンドは終始ダークなのに、結果的にはそういう充足感が迎えにくる90分でもあった。アンコールで聞けた小林の言葉も印象的だった。 「16年目、素直に今一番バンドが楽しい。また、いい未来で会いましょう」。
文=石井恵梨子
写真=河本悠貴、Susie
【SET LIST】
01 Rainbow
02 薔薇と子供
03 美しい火
04 消失点
05 理解者
06 DEAD HEAVEN
07 楽園
08 みんな急いでいる
09 Close To Me
10 New York
11 Hamletmachine
12 こわれる
13 DOWN TO HEAVEN
14 BAD DREAM
15 Xeno
ENCORE
01 いこうよ
02 今日も生きたね
Blu-ray + DVD『Live - At The Beginning - at 大谷資料館』
OUT NOW
LIVE INFORMATION
セカンド・アルバム『Misstopia』リリース11周年ワンマン開催決定!
〈Misstopia 11th Anniversary “Ceremony”〉
DAY1 2021年11月10日(水)東京 LIQUIDROOM
DAY2 2021年11月11日 (木)東京 LIQUIDROOM
チケット発売 8月14日(土)10:00〜
※7月25日23:59までオフィシャルHP先行受付中
受付アドレス https://w.pia.jp/t/novembers-of/