【LIVE REPORT】
フジファブリック〈フジファブリック LIVE TOUR 2021“I Love You”〉
2021.06.30 at Zepp Tokyo
今日に至るまで、彼が直面してきた悲しみや苦悩をすべて把握しているわけじゃない。それでも、この日の公演で何もかも報われた気がした。
フジファブリックが1年3ヵ月ぶりに開催したワンマンツアー〈フジファブリック LIVE TOUR 2021“I Love You”〉。最新アルバム『I Love You』を引っ提げて6月頭から全国を廻っていたが、その最終公演が6月30日にZepp Tokyoで行われた。『I Love You』はバンドとして初めて〈愛〉をテーマに掲げた作品であり、2019年のデビュー15周年イヤー、そしてそれ以前から、ファンや周りの人たちから貰った愛情に対して〈恩返しがしたい〉という思いのもと制作された。しかし、そこで唄われている内容は単にファンへの愛を高らかに唄ったものではなく、パーソナルな感情が詰め込まれた歌もある。表現的にもサウンド的にも新たな試みが凝縮された作品が、ファンにどう届いたのか――今回のツアーはそれを確かめる時間でもあった。
まずSEが流れると、メンバーがクラップをしながら順に登場した。山内総一郎(ヴォーカル&ギター)が観客に向けて「会いに来てくれてありがとうー!」と叫び、そのままアルバムの1曲目を飾るインスト曲「LOVE YOU」のセッションへと突入。小気味良いサウンドは開放感満点で、楽しそうに音を鳴らすメンバーの姿に目を向ければ、ついコロナ禍であることを忘れてしまいそうになる。続いて披露したのは「SHINY DAYS」。ここまではアルバムの曲順になぞらえてセットリストが構成されていた。
〈誰一人 何一つ 明日はわからないけど/テーブルの染みのように これからもよろしくです〉
ファンに対してこれからも共に歩んでいこうと、約束を交わすような歌詞。この曲では加藤慎一(ベース)と金澤ダイスケ(キーボード)もヴォーカルをとることで、山内だけでなくバンドとしてのメッセージであることが感じられるし、上っ面ではない彼らの観客に対する深い愛情が伝わってくるようだった。
フジファブリックのライヴといえばMCも魅力的である。基本的にはゆるいが締める時は締めるし、何と言っても自然体で仲のいいバンドの様子を垣間見られるのが嬉しい。しかし、今回のライヴでは序盤の4曲が終わるまで一切MCを挟まないことが衝撃的だった。それでも物足りなさを感じることはなく、むしろ楽曲の世界観への没入感が心地よくて、徹底的に演奏だけで魅せるのも有りだなと思っていた。が、そんな時間も束の間、やはりMCもしっかり用意されていた。配信で観ている人たちを考慮して金澤が仕込んだ〈金澤カメラ〉(註:メンバーを至近距離で撮影するハンディカメラ)のプレゼン、怪談ではないが何とも言えない後味が残る加藤の不思議話、コロナ禍であろうとこうして音楽で繋がれる喜びを真っ直ぐに語る山内など、三者三様の表現からフジファブリックなりのおもてなし精神が感じられた。
ライヴの中盤までは、そんなふうにこのバンドの魅力やアルバム収録曲の新鮮さを堪能する時間が続いていた。その流れを変えたのは、「あなたの知らない僕がいる」だった。この曲は山内の過去が反映された私的な曲で、一見過去の恋愛について唄われているようにも思える。しかし、この曲をラヴソングとして一括りにすることはとてもできない。それは、アルバム取材時に彼が語っていたこの曲への思いを覚えていたからだ。
「今までの自分の人生で経験してきたいろんなことがあって、そういう過去に引きずられつつ、それでも未来に進んでいかなきゃならないっていうジレンマみたいなものが自分にはあるんです。人生って振り返った時にどれが正解だったかなんて誰もわかんないじゃないですか。でも生きていかなきゃなんないんだよっていうことを、個人的な思いをただ吐き出すだけじゃなくて、こういう曲を唄うことで、少しでも支えになったらいいなと思って」
この発言から、山内はヴォーカリストとして次のステージに進もうとしていることが伝わってきたのだ。それに、この曲のMVで描かれているものは恋愛どうこうではない。MVでは一人の男性が目の前にある無数の扉を開けながら進んでいくが、その傍らにはサッカーボールやギターが置いてある。サッカーに明け暮れていた少年時代、サッカーを挫折したのちに出会ったギター……といったように、それらはどうしたって山内の人生そのものと重ね合わせてしまう。そして、ただひたすらに進む男性は、今日まで止まることなく歩んできた彼自身を投影してしまうのだ。この日の冒頭、特にライヴの定番曲でもない「会いに」が披露されたことも相まって、フジファブリックのヴォーカルを受け継いで以降の山内の歩みに思いを馳せずにはいられなかった。「会いに」は、志村正彦の逝去後初めてリリースされたアルバム『MUSIC』に収録されており、山内が初めてヴォーカルをとった楽曲。つまり、3人体制としてのはじまりの曲でもある。
〈あなたがくれた愛は 今もまだ点いたライター 弱さを知らずに揺れていた〉
ヴォーカルを担ったことで、こちらには計り知れないようなプレッシャーがあったはずだ。自分が唄うと決意したあの日の選択を、正しかったのか?と悩んだこともあったのかもしれない。最近だって、コロナ禍でバンドを続けていく上で、いくつもの壁が彼の前に立ちはだかっていたんじゃないだろうか。それでも、この曲で言うライターのように、過去に大切な人からもらった愛は消えることがない。そして、それらに支えられて自分はここに立っている――そう叫んでいるかのように、マイク一本だけで、時折天を仰ぎながら唄う山内の姿は今でも鮮烈に覚えている。この曲の演奏直後、特に長く拍手が鳴り響いていたようにも思う。それは、彼のパーソナルな世界が大衆と繋がった瞬間でもあった。
山内がこの曲を通じて伝えたかったことは、実はとても普遍的なものなのだろう。恋人、家族、友達など関係性は様々であっても、本気で思い合った時間は決して色褪せない。どんなに遠く離れていても、その時々に貰った愛が未来の自分を肯定してくれるし、強くもしてくれる――歌だけでそんなふうに聴き手に訴えかけることのできる山内は、以前にも増して豊潤な表現力を備えている気がした。それに、この日のゲスト・JUJUと「赤い果実」のコラボを披露した際は、決してどちらかの色が強く出てしまうのではなく、山内とJUJUの互いに確立された個性が絶妙に絡まり、とても華やかな空気が会場を包んでいた。それは、ヴォーカリストとして確固たる地位を築いた山内が今なお進化し続けている証だとも思った。
〈バンドやってて良かった。〉
公演直後、山内がツイッターで呟いていた言葉だ。いつもの彼なら、その朗らかで真摯な人柄が伝わるようなメッセージだったり、絵文字付きで茶目っ気を感じられるものが多く見受けられるだけに、シンプルでストレートなこの言葉は心に突き刺さった。そして、冒頭で綴ったような思いが頭の中を駆け巡ったのだ。
バンドとして新たな試みを凝縮したアルバムが受け入れられたことで、フジファブリックには恐れるものなんて何もないんじゃないか?とさえ思ってしまう。きっと、彼らはこれからも新しい表現に挑戦していくのだろう。もしかしたら、時には立ち止まって考え込んでしまう瞬間もあるかもしれない。それでも、バンドが歩みを止めることはないのだろう。今日の公演が、そしてこの先の日々の中で待ち受けている出会い、そこから受ける愛情が、また彼らの支えになるはずだから。そんなふうに、バンドの前向きな未来を確信させてくれた素晴らしい時間だった。
文=宇佐美裕世
写真=森 好弘
【SET LIST】
01 LOVE YOU
02 SHINY DAYS
03 efil
04 会いに
05 たりないすくない
06 東京
07 楽園
08 Dear
09 手
10 Walk On The Way
11 陽炎
12 あなたの知らない僕がいる
13 赤い果実 feat. JUJU
14 光あれ
15 ポラリス
16 バタアシParty Night
17 徒然モノクローム
18 LIFE
ENCORE
01 手紙