【LIVE REPORT】
GRAPEVINE LIVE AT HIBIYA PARK
2021.04.25 at 日比谷野外大音楽堂
BAINのYAON、ちょくちょくやってる気もするが、今回は2015年以来6年ぶりだという。BAINとYAON、一見不釣り合いのように思えるが、公園の萌える緑とロックサウンド、暮れる夕空とセンチなメロディの相性は抜群だ。しかも2021年初ライブ。生配信も入っているので、全国から目と耳だけは野音に駆け付けた人も多いことだろう。
まだ日の明るい17時、メンバー登場。客席は早くもスタンディングオベーションで迎える。台形状のドスンとした舞台に、マジックカーペットを敷いただけのステージはいつものままだ。
「こんちはー、ひーびーやーやーおんー」
平仮名書きが似合いそうな田中和将の挨拶から乾杯は「FLY」。田中、西川弘剛、高野 勲の3連ギターがうなりをあげる。まあ、いろいろありますが、ひとまず本日は雑事をオリャ~!と遠くまでブン投げてしまいましょうという時間のはじまりだ。胸のすくような開放感が心の中を充たしていく。ああ、この自由なかんじ。この手足がグッと伸びる感覚にずっと飢えてたんだよなぁ……。
と思ったのも束の間、そこからの展開がエグかった。バインのライヴは「この曲、久しぶりだな」という不意打ち曲を多投することで知られるが、今回のチョイスはハードコア。アルバムツアー以外やってないんじゃないかと思うような地味曲、意外曲を平気でバンバン打ってくる。晴れ舞台にもかかわらず。
「スレドニ・ヴァシュター」「Golden Dawn」「無心の歌」「アルファビル」「弁天」とか、どのアルバムに入ってたか憶えてます?(正解は順に『From a smalltown』[’07]、『BABEL, BABEL』[’16]、『愚かな者の語ること』[’13]、『Burning tree』[’15]、『ALL THE LIGHT』[’19])。しかしそんなドSな気質の一方で、野音で聞いたら気持ちいいだろうなと思っていた「放浪フリーク」「風待ち」あたりを混ぜてくるのが彼らのイケズなとこでもあって。さらに付け加えるなら、そんなカオスなセットリストの合間に5月26日発売『新しい果実』収録の新曲「リヴァイアサン」「阿」「さみだれ」をシラ~っと入れてくるのもタチが悪い。当然曲前の告知もなければ後説明など一切ナシ。「新曲をいち早く聴ける!」という昂揚感を与えることなく、「ん、この曲なんだっけ……知らんけど、もしかして新曲? どうなん?……」というモヤモヤ感だけ植え付けてサッサと次の曲に行く感じ、いやぁバイン節全開ですねぇ!
バンドのグルーヴはもはや円熟の域である。亀井 亨と金戸 覚のリズム隊は攻守両面に走り回り、西川の青龍刀は言わずもがな。今回高野の指からサンプラーを駆使した新アレンジが多々放たれていたが、新譜では高野大活躍という報告がなされているように、どうやら今のキープレイヤーは彼であるようだ。そして田中は始終ご機嫌である。
ライヴ冒頭「いい演奏をしてたらマスクの下は最大限の笑顔で応えてやってください」と語り、中盤には雷雨予報だった天候に触れ「降らへんやん! 降らへん降らへん――言うてたらドシャーって降ってきてな」とフザけてみせ、お約束の「あと6万曲やるから、6万曲!」も飛び出した。「すべてのありふれた光」を演った時、彼が最後のサビでどうするか注意深く見ていたが、彼は〈きみの味方なら/ここで待ってるよ〉のところでいつもの通り両手を広げ、ここがきみの味方であることを表した。おそらく田中はこの曲を唄う時、何があってもそれをやるといつか自分に課したのだろう。どんなに恥ずかしかろうが、鼻白もうが、それを身体で表明する。あの田中和将が。
終盤の「MISOGI」からはロックパーティに雪崩れ込む。日が暮れ、ライトに艶めいた色が灯り「Alright」でミラーボールが回る。田中がクラップをはじめると、それが会場中に伝染していく。
しかしそれで大団円を迎えるようなバンドではない。明るく騒いでしゃんしゃんなんていうラストシーンは望んでいない。ひしゃげたビートに甘暗いメロが乗る「Gifted」。最新の悲嘆から、最古参となる「光について」へ。これがバインの真骨頂。この間、22年間の年月が流れたはずだが、そんなものどこにもなかったかのようである。
アンコールのクラップが鳴り響く中、この場にかけつけた人たちを見ながら思うのは、結局グレイプバインでしか癒されない何かがあるということだ。グレイプバインしか描いてくれない風景があり、グレイプバインしか解ってくれない感情がある。もしかしていつか新しい友達がそれを継いでくれるかと思ったが、結局それは実現しなかった。グレイプバインとしか話せない話が、ここにいる人たちには切実にあるのだろう。
バインファンで「Arma」が嫌いな人なんているのだろうか。この曲は、一緒に生きようと唄っている。これまでも。そしてこれからも。そこから「スロウ」へのブレーンバスター。ああ、「Gifted」→「光について」、「Arma」→「スロウ」、何度もやられんなよってなぁ。――ということで、かつてない「ねずみ浄土」が話題沸騰の中、かつてないキュートな表紙が度肝を抜くこと必至の『音楽と人』6月号はグレイプバイン大特集。私たちもバインと共に二十ウン年。『新しい果実』のお供に何卒よろしくお願いいたします!
文=清水浩司
写真=藤井拓
【SET LIST】
01 FLY
02 スレドニ・ヴァシュター
03 放浪フリーク
04 Darling' from hell
05 風待ち
06 リヴァイアサン(新曲)
07 Golden Dawn
08 無心の歌
09 アルファビル
10 阿(新曲)
11 弁天
12 すべてのありふれた光
13 MISOGI
14 JIVE
15 Alright
16 さみだれ(新曲)
17 Gifted
18 光について
Encore
01 Arma
02 スロウ
03 smalltown,superhero
NEW ALBUM『新しい果実』
2021.05.26 RELEASE
■スペシャルパッケージ(CD+LIVE CD+Tシャツ)
■初回限定盤(CD+LIVE CD)
■通常盤(CD)
〈CD〉 ※全形態共通
01 ねずみ浄土
02 目覚ましはいつも鳴りやまない
03 Gifted
04 居眠り
05 ぬばたま
06 阿
07 さみだれ
08 josh
09 リヴァイアサン
10 最期にして至上の時
〈LIVE CD〉 ※スペシャルパッケージ、初回限定盤のみ
「FALL TOUR 2020」 at Nakano Sunplaza
01 HOPE(軽め)
02 Arma
03 豚の皿
04 また始まるために
05 報道
06 すべてのありふれた光
07 The milk(of human kindness)
08 そら
09 指先
10 here
11 Alright
12 片側一車線の夢
13 光について
14 CORE
15 超える
16 1977
17 NOS
18 ミスフライハイ
19 アナザーワールド
GRAPEVINEが表紙を飾る、音楽と人6月号は5月6日発売!
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