2021年の元旦に配信でリリースされた「Bloom in the Rain」は、新しい年の幕開けにふさわしいバンドのタフネスの塊のようなロックアンセムだったが、今回リリースされる「Wonderer」は、抱えた痛みや悲しみを思わせるメランコリックなメロディが印象的な、どこか時勢を投影するような曲。どちらにも共通するのは、結成から現在までナッシングスが辿ってきた平坦ではない道のりと、そのワインディングロードを潜り抜けることで得た自信とプライドだ。この2曲の歌詞を手がけた村松拓(ヴォーカル&ギター)は社交的に見えるその佇まいとは裏腹に、自分の中で淀んでいる気持ちをストレートに表明することができないストレスを抱え続けてきた男だった。だが、バンドの歩みに足止めを食らってしまったこの1年で、そんなところで悶々としてる場合じゃなくなったのだろう。これまで曖昧で観念的だった彼の歌詞は、よりダイレクトでストレートに感情の明と暗が描かれている。2月27日に1年の延期を経てようやく開催されたライヴでも、彼の思いはその切実な歌声とともに届けられていたのだった。
新曲の話をする前に、こないだのライヴ(新木場STUDIO COASTで開催された〈SPECIAL ONE-MAN LIVE “BEGINNING 2021” feat.「PARALLEL LIVES」〉)についてですが。
「やっと肩の荷が下りたって感じでしたね。本来なら1年前にやるはずのライヴだったんで」
ファーストアルバム『PARALLEL LIVES』の再現、をコンセプトにしたライヴで。
「なかなか業が深いライヴでしたよ(笑)。セットリストも1年前に予定してたのをそのままやったんですけど、そもそも今この状況で――お客さんは声が出せなかったりいろんな規制がある中で同じことをやる必要があるのか?っていうのはあって」
でもそのままやってましたね。
「そう。そこはもう俺たちの意地っていうか。とにかく俺たちがフラットな状態でライヴをやること、お客さんがどういう状況であろうとも、そこは変えちゃいけないと思って。つまりやりたいことをやればいいっていうのはありました」
で、再現ライヴはやってみてどうでしたか。
「いやぁ……いろんなことを思いましたよ(笑)」
観てて思ったのは、意外と『PARALLEL LIVES』って、ライヴで馴染みのない曲があるんだなって。
「あのアルバムの曲をたくさんやったのって、結局バンド組んで1年目だけなんですよ。当時は13曲しかないのにツアー廻ってたから、気持ち的には早く新しい曲をどんどん作っていなきゃっていう思いがあって。だから意外と当時やってからずっと唄ってない曲があって」
そうなんだ。
「だから〈Hand In Hand〉とか〈Thermograffiti〉とか、もう二度と唄わないと思ってた(笑)」
でも「Hand In Hand」は〈あれ、こんなメロディアスな曲だったっけ?〉っていう。全体的に音源とはまた違った印象がありました。
「そうなんですよ。実はサビがけっこうメロディアスで、アメリカのオルタナバンドみたいなカッコよさがあるんだけど、なんでやらなくなったんだろう?って考えたら、やっぱり当時はどんどん新曲を作って披露していきたいっていう気持ちが強かったんですよ」
1年にアルバム1枚ペースのバンドですからね。
「そうそう。とにかく早く早く!みたいな。あと、あのアルバムってライヴでお客さんが盛り上がることを想定しないで作ったというか。ただひたすら自分たちがカッコいいと思う音楽を4人でぶつけあったアルバムで。だから4人のテンションはすごく高いんだけど、それをライヴでぶつけてもイメージしてたような盛り上がりにはならなかったり」
そうでしょうね(笑)。
「それを今回やってみて、やっとフラットなテンションであのアルバムと向き合えた感じでしたね。いい曲だなとかメロディアスだなとか、改めて発見するようなライヴでした」
『PARALLEL LIVES』って丸ごと一枚ライヴで聴くと、意外と歌を聴かせる曲が多いんだなって思いました。
「そうなんですよ、意外と」
あと、とにかくバンドがパフォーマンスに徹してるのを見て、そういえばもともとナッシングスってこういうライヴをやるバンドだったよなって思い出したり。
「そうですよね。まぁ実際にファーストアルバムの再現中はMCもなかったし、お客さんの反応とか気にしてる場合じゃないっていうか、それぐらい演奏の精度みたいなものを上げたところで再現したかったんで。そういう意味でいつも以上にシビアなライヴだったし、お客さんの反応とかはあんまり見てなかったような気がします」
いつもとは違うライヴだったけど、そもそもいつもと同じライヴなんて今はできないんだし。
「そうですね。でもすごく刺激的だったし、いい体験だったと思いますよ」