『音楽と人』の編集部員がリレー形式で、自由に発信していくコーナー。エッセイ、コラム、オモシロ企画など、編集部スタッフが日々感じたもの、見たものなどを、それぞれの視点でお届けしていきます。今回は若手編集者が、昨年観た印象的な映画から得た、ある気づきについて綴ります。
人の話を聞くことが仕事になった今、ミュージシャンにインタビューをさせてもらう中で〈そんなこと考えていたんだ〉〈そんなふうに思ったりするんだ〉と、はっとしたり、気づかされる瞬間というのがあったりする。仕事でなくても似たことはあって、例えば学生時代のある後輩とは、当時から面識はあったにも関わらずなぜかろくに会話もしないで卒業してしまったものの、共通の友人を介してSNSでの繋がりを持つことができ、それがきっかけで親しくなったことがある。この時〈何で学生時代の時にしゃべらなかったのだろう〉と少しだけ悔やんだけれど、いざ学生だった頃の自分を振り返ると、そんなふうにうまく人と関わりを持つのは難しかったような気もするのだ。当時はなんとなく周りの人たちと感覚が合わないな、と思っていたし、そこでわかりあおうとすることもめんどくさくて諦めていたからだ。そんなかつての私そのものなのでは?という錯覚に陥るほど、自分自身と重なり、胸に強く刺さる作品に昨年出会った。
それは『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』という映画だ。高校卒業を目前に控えた、親友同士であるエイミーとモリーが主人公。2人は高校生活のすべてを勉強に費やし、自分の納得のいく進路が決まりすがすがしい気持ちでいたのだが、ひょんなことをきっかけに、遊んでばかりに見えた周りのクラスメートもハイレベルな進路が決定していたと知ってショックを受けてしまう。さらには卒業式の前日に、クラスの人気者が主催する卒業パーティーがあると聞いてある決意が湧き上がるのだ。ここで高校生活最後の思い出を勝ち取らなきゃ! 私たちだってキラキラした瞬間を味わいたい! そんな心の叫びが聞こえてきそうな勢いで、2人は誘われてもいないパーティーに向かって、てんやわんやの大騒ぎとも言える冒険がスタート!
カラフルな水風船、クラッカーなどきらびやかな装飾に、大きなプール、そして派手な音楽――封じ込めたものが一気に弾けたような解放感を漂わせ、パーティーを思いきり楽しむクラスメート。それとは反対に、エイミーとモリーはなんとしてでもパーティーに参加するんだ!と必死に進んで行くのだが、その道中でもいろいろとハプニングもあれば下ネタもたびたび投下されるといった具合で、観ていて笑いが止まらない。最終的には無事になんとか会場へと到着し、彼女たちとクラスメートがパーティーをともに楽しみながら、ようやく互いを理解し認め合っていく様子が描かれる。パーティーを主催したクラスメートが、モリーに向かって、もっと早いうちから仲良くなっておけばよかった。こんなに面白い人だとは思わなかったというようなセリフをぽろりとつぶやくのだけれど、私自身も、冒頭に書いたように誰かに対してそういう気持ちになったことはある。
この映画が気づかせてくれるのは、普段いかに周りはもちろん、さらには自分に対しても〈こうだ〉と決めつけてしまっているのかということだった。自分の目で見える範囲は限られているし、そもそも感情が動いている時点で、すべてを客観的に判断することは難しい。それはわかっていても、「お前はこうだ」「若くて何も知らないだろ。じゃあこうしろ」と言われてしまったり、それに対して違うと思うと抗議しても、聞く耳をもってもらえなかったりすると心が踏みにじられたようでとてもつらくなる。そして同時に、相手に対してリスペクトの気持ちを次第に持てなくなり、湧いてくるのは憎しみや怒りといった負の感情。それが続くとだんだん悲しくなってしまうし、同時に、自分も他人を下に見ているような言動をとっていないか?とも気づくきっかけになった。
何事に対してもフラットな視点で向き合うことはできないけれど、それでも性別や年齢などはもちろん、価値観や考え方も含めてお互いの違いを認め合うこと。そのうえで歩み寄っていくこと。きっとそれが大切な気がするし、まずは自分が勝手に心の中で作っていた壁に気づいたうえで、相手を知ろう、そして自分のことも知ってもらおうとすることが大切なのではないか。そうしてまったく違う人同士が一緒に手を取り合えたら素敵じゃないかと思うのだ。
コロナは落ち着く気配を見せず、誰かと会うことも面と向かって何か言う機会もまた難しい状況になってきた。こういう世の中になってから、もう少しで早1年。目に見えないウイルスと共存し模索しながらの生活はまだまだ続きそうだし、だんだん気持ちがふさがって、出口のない場所にいるようで苦しくなることもあった。だから今、友達と電話することや家族とのLINEだけでも心が温かくなるように、ほんの些細な繋がりが大切なんだなとあらためて気づいたし、そのうえで自分の振る舞いや言葉で誰かを傷つけたりしていないか。それに注意を払い、相手への思いやりと敬意を忘れずに接していきたい。
この映画に登場する華やかなパーティーのようにたくさんの人が集まって楽しんだりすることはまだまだ難しいけれど、それでも深まるのは分断ではなく平和であってほしいなと切に願ってやまない。いつでも優しさを忘れずにいたいなと思う。
文=青木里紗