【LIVE REPORT】
MUCC「惡 -The brightness world」
2020.12.27 at 日本武道館
謡え。笑え。そう叫ぶ4人の歌声が、涙で滲んでいた。
年の瀬の武道館。MUCCにとって馴染み深いいつもの場所だが、この時期にワンマンとして立つのは初めてのことだ。コロナの影響で開催中止となったぴあアリーナMMのリベンジとしてファンが心待ちにしていたライヴ。しかし、そこへドラマーSATOちが来春を以ってバンドを脱退するという事実が発表される。その経緯や理由は弊誌1月号のインタビューで明らかにされたとおり。バンドとファンの再会を祝うはずだった舞台が、あろうことか残り少ない彼の勇姿を見届ける惜別の場となってしまったのだ。その事実に多くのファンが複雑な心境でこの日のライヴを迎えたことだろう。なお今回の公演はガイドラインに従った人数制限と感染予防対策を行い、さらに配信での視聴を実施するハイブリッド方式で開催された。
開演前の武道館は会場の外も中も悲痛な緊張感が溢れていた。夏以降、徐々に再開されてきたどの有観客ライヴとも異なる不穏な空気。ただでさえいつもと勝手が違うのに、脱退の件がさらに追い討ちをかけるのだ。そんな中、種類に制限はあるものの、来場者の楽器持ち込み自由というアナウンスは今回のライヴにおけるひとつの光明となっていた。グッズとして販売された光るタンバリンを多くのファンが手にしている会場内の光景に安堵する。そしてほぼ定刻通りに会場が暗転すると、そのタンバリンの光が出囃子に合わせて激しく揺れ動いていた。
開演と同時にステージから「惡 -JUSTICE-」、「CRACK」そして「神風 Over Drive」とアルバム『惡』収録曲が矢継ぎ早に投下される。バンドの演奏には迷いや不安を断ち切った覚悟がみなぎっていて、ブランクをまるで感じさせない。いつもは緊張で喉が硬くなってしまう逹瑯は自由闊達な歌声を響かせ、ミヤはこの1年で溜めた鬱憤を晴らすように暴れまわる。その一方で気遣うようにオーディエンスに意識を向けて演奏するYUKKEと、ひたすら自分のプレイに専念するSATOち。さらに彼を見守るような位置でサポートの吉田トオルが華麗に鍵盤を操っている。久しぶりに浴びる爆音と遠くから見るその光景は、画面越しやイヤホンをとおして視聴するライヴに慣れきった身体には刺激が強すぎるほどだ。過剰に低音を効かせた「アイリス」や「SANDMAN」、会場に冬の夜空を演出して披露された「COBALT」や「アルファ」。逹瑯の亡き父親に捧げられた「スーパーヒーロー」に客演のlynch.葉月(ヴォーカル)とともに披露した「目眩」。さらに火柱が激しく燃え上がる「TONIGHT」。こうしてライヴは目まぐるしい勢いで繰り広げられ、あっという間に総勢14名のストリングスを従え壮大さを増した本編ラストの「スピカ」を迎えて幕を閉じた。
アンコール。恒例のグダグダなトークが始まる。YUKKE、逹瑯、ミヤに続いてSATOちもマイクを握る。しかし彼は核心には触れずいつもの天然ボケっぷりを披露する。そして、そのあと演奏された「名も無き夢」の曲の合間にミヤがこう口火を切った。「笑顔でSATOちを成仏させてやろうぜーー!」。彼がバンドを辞める、という動かしようのない決定事項を、皮肉と友情が入り混じったミヤらしい言い回しで、本人の代わりに申し伝えたのだ。さらに、次の瞬間――。
それまでステージにいた4人の様子が一変した。さっきまでの4人とは違う、20年前の4人が姿を現したかのように、バンドの音が変わったのだ。生意気で、ヤンチャで、白塗りメイクで、訛ってて、でも4人でバンドのすべてを共有していたあの頃の彼ら。そんな4人が今、ここでバカ騒ぎをしている。おいオマエ、最高だな! オメエもだよ!と肩を組みあいながら、4人が音を鳴らすことを心から楽しんでいるように見えた。
ずっと綱渡りの道のりだった。いつ終わっても不思議ではない関係だった。でも、それがMUCCなのだ。ギリギリの関係でなければ生まれない音楽。だからあの頃みたいな自分たちには戻れないし、戻りたくもない。前へ進むだけ。退路はない。耐え難いリアルを抱いたまま続けてきたバンド。そんな自分たちの歩いてきた道を讃え合うように、彼らはバンドを楽しんでいたのだった。
ダブルアンコールのラスト、完成したばかりの新曲「明星」が披露される。ヴィジョンに映し出された歌詞を見るまでもなく、それは4人にとって〈別れの歌〉なのは明らかだった。振り向けば涙になる。愛しき日々を笑え。謡え。笑え――。この歌を唄うことで4人はお互いに向けてエールを贈っていた。これからのオマエに幸あれ。そう、さよならだけが答えじゃないんだ。涙をにじませて叫んだ4人の歌声が、そう言っていた。
この日、彼らはバンドを始めた頃の笑顔を取り戻すために武道館に立っていた、ということなのだろう。別々の道を歩くことにした彼らにとって、それは絶対に必要な行為だったのだ。そしてこの日、彼らは確かにあの頃の笑顔を取り戻すことができた。このまま彼らは笑顔のまま、最後の行き先まで突っ走るのだろう。4人で最後となるホールツアー、その終着駅まで。
文=樋口靖幸
写真=田中聖太郎、渡邊玲奈(田中聖太郎写真事務所)、Susie
【SETLIST】
01 惡 -JUSTICE-
02 CRACK
03 神風 Over Drive
04 ENDER ENDER
05 G.G.
06 海月
07 アイリス
08 サイコ
09 Friday the 13th
10 SANDMAN
11 積想
12 COBALT
13 アルファ
14 スーパーヒーロー
15 DEAD or ALIVE
16 目眩 feat.葉月
17 ニルヴァーナ
18 カウントダウン
19 TONIGHT
20 スピカ
ENCORE 01
01 My WORLD
02 名も無き夢
03 蘭鋳 feat.葉月
ENCORE 02
01 家路
02 優しい歌
03 ハイデ
04 明星
2020年12月27日 日本武道館
「惡-The brightness world」 アーカイヴ配信中
【配信サイト】
〈ニコニコ生放送〉
https://live2.nicovideo.jp/watch/lv329393483
〈イープラス Streaming+〉
https://eplus.jp/mucc20201227/st/
〈LiveFrom EVENTS〉
https://livefrom.events/mucc
※海外向けチケット購入サイトとなります
【受付期間】
2021年1月3日(日)20:00まで
【チケット料金】
視聴チケット ¥4,500(税込)
LIVE
〈MUCC TOUR 202X 惡-The brightness world〉
【日程】
2021年2月28日(日) 福岡サンパレス
2021年3月7日(日) 仙台サンプラザホール
2021年3月25日(木) 愛知県芸術劇場大ホール
2021年3月27日(土) 大阪オリックス劇場
2021年4月3日(土) 新潟テルサ
2021年4月15日(木) LINE CUBE SHIBUYA
2021年4月29日(木・祝) 中野サンプラザホール
2021年5月1日(土) よこすか芸術劇場
2021年5月5日(水・祝) ザ・ヒロサワ・シティ会館 大ホール(茨城県立県民文化センター)
2021年5月6日(木) ザ・ヒロサワ・シティ会館 大ホール(茨城県立県民文化センター)
【チケット料金】
全席指定 ¥9,600(税込)
※未就学児入場不可
※営利目的の転売禁止
【朱ゥノ吐VIP会員先行チケット受付】
2021年1月7日(木)12:00~1月12日(火)16:00
【一般発売日】
2021年2月14日(日)
RELEASE
ベストアルバム『明星』
リリース日等詳細は後日発表
MUCC オフィシャルサイト https://55-69.com/