ふたりでひとつの翼
KinKi Kids Concert Tour 2019-2020 ThanKs 2 YOU
2019年12月15日 at 東京ドーム
そのライヴはこれまでとは違う、特別なものだった。12月15日の東京ドーム。2年ぶりにKinKi Kidsとして立ったステージ。そこにはこれまで1度もなかったほど、堂本光一と堂本剛の個性がにじみ出ていた。7月に亡くなった大切な人に捧げた思いが、彼らの背中に、ふたりで1つの翼があることを思い出させてくれたのだ、きっと。
(これは『音楽と人』2020年2月号に掲載された記事です)
尊い絆があった。
ふたりが見えない手に導かれ、KinKi Kidsとは何か、を改めて考えた結果がこの日のステージだった。そしてそこには、ふたりが愛するKinKi Kidsがいた。とても幸せな時間だった。
先月号(『音楽と人』2020年1月号)のインタビューで、光一はドーム公演について「お互いが今やれることに向き合って、すり合わせながらやっていく。非常にいい感じにできている」と話していた。この〈すり合わせながら〉というのは、その状態と向き合って、いい付き合い方を模索しているとはいえ、耳の調子が良くない剛に配慮して、という意味だと思っていた。もちろんそれもあるだろう。しかしこのステージを観たあとだと、すり合わせていたのはそれだけではなく、お互いのKinKi Kids像だったんじゃないか、と思った。
これまでのKinKi Kidsは、ふたりがアイドルとして与えられた、その姿を見せる場所だった。ファンの思いを裏切ることなく、アイドルとしてその存在であることをまっとうしようとしていた。歳を重ね、ステージにそれぞれのコーナーが盛り込まれるようにはなったが、それでもそこには、みんなの求めるKinKi Kidsであろうとする姿があった。それはアイドルとして正しい姿だったし、歌をちゃんと聴かせるコンサートをやることは、芸能に軸足を置いたグループとして、当然なことだった。
しかし今回のドームではそれが大きく変わった。誰もが観て感じたと思うが、もっとも大きな違いは、今、お互いが向き合っている表現を、そのままKinKi Kidsのステージで提示し、それを融合させようとしたことだ。光一は自身のライフワークである舞台で見せているような立ち回り、ダンス、歌を、多くのダンサーと共に披露し、剛はENDRECHERIのステージそのままのファンクを、バックメンバーに自身のライヴでおなじみのメンバーを加え、おまけにツインベースで鳴らしていた。もちろん曲によってその顔は変えるものの、基本、KinKi Kidsのサウンドを支えているのが、歌謡曲ベースではなくファンクサウンド。こんな日が来るとは、誰が考えたことだろう。
衣装からしてそうだった。光一はもはや〈王子〉としか形容のしようがないゴールドの刺繍の入ったベロアなジャケットなのに比べ、剛は光一から「眩しいからやめろや。ハレーション起こすな」と言われるほどいっぱいミラーがついたジャケットに、紫のパンツというどこかP-FUNK風。その姿だけで、今回のライヴのテーマがKinKi Kidsらしくではなく、光一と剛、それぞれの個を打ち出していくものであることが感じられた。
そしてオープニングもそうだった。ステージ前の幕に映し出された〈ThanKs 2 YOU〉というタイトル。Tが青でKが赤。それぞれのイメージカラーだ。その文字から、同じ色をした生命体のようなものが動き出し、生きてるように飛んだあと、ひとつになって幕が開く。1曲目は「愛のかたまり」。そう、剛が作詞、光一が作曲した珠玉のラヴソングだが、今の季節にぴったりな冬の歌なのに加えて、〈1秒で笑顔つくれる 武器がある あたしたちには〉というフレーズが、2年ぶりに同じステージに立つKinKi Kidsを象徴しているように聞こえてグッとくる。昨日、幕が開いた時、スタッフが涙してたことをMCで話していたが、そう思うのも当然だ。
そして前述の光一と剛、それぞれの持っている表現の違いが、続く「The Red Light」ではっきり見える。シングルリリースされていたこの曲だが、テレビでも披露したことがなく、今回のライヴで初披露となったそのイントロに、会場が沸く。ファンクをベースにしたサウンドは圧倒的な説得力で、久保田利伸の手によるハードでファンキーなソウルが生き生きと鳴る。ステージ上段に立つ光一はキレのあるダンスを披露し、下段の剛はギターを弾きまくる。それぞれの個性が際立っているが、それがサビで声がユニゾンになると、KinKi Kidsでしかない世界になる。続く「lOve in the φ」でも光一は圧巻のダンスを見せ、その熱をクールダウンさせるように始まったのが「雪白の月」。〈君がいなくなったあのとき/あらためて気がついたんだ〉というフレーズから始まるこのバラードは、この日のライヴを誰よりも観たかったはずの人の不在を感じさせ、〈さようならと言われるよりも/言う方がきっとツライ〉という言葉にも、強いリアルが宿っていた。
しかしそんなしんみりした気持ちも、そのあとのMCで台無し(笑)。それでこそKinKi Kids。ジャニーさんを意識してセットリストを組んだ、と話すまでは良かったが、ジャニーさん天国では新人説とか、降りてこようとしてドームの屋根にぽよーんとはじかれるとか、「カナシミ ブルー」の歌詞についてバックで弾いている堂島孝平に絡むなどの通常営業。
そんな空気も歌に入ると一瞬で変わる。「Bonnie Butterfly」は間奏をマッシュアップっぽくアレンジして「LOVESICK」に繋がっていく。MCでの無邪気な一体感から一変。ちょっと大人な匂いを醸し出す楽曲たち。中でも「Want you」から「Give me your love」における光一の存在感は圧巻。官能と情熱を、14人のダンサーとの踊りで表現している。それと同時に唄うのだから、切り替えと集中力が半端ない。時折ステップを踏みつつ、ギターを黙々と弾いている剛との対比が、このグループのあり方を象徴しているようだ。
さらに長く、まとまりのないMC(笑)。しかしこれがKinKi Kidsである。その次のブロックは、ジャニー氏への追悼の気持ちと思い出を、さらに強く前に出す。「たよりにしてまっせ」はかなりのファンクアレンジ。「買い物ブギ」は〈SLASHみたいなギターお願い〉というステージ上での光一からのリクエストから剛がギターを鳴らし、買い物かごを持った多くのダンサーと、一糸乱れぬ完璧なダンスパフォーマンスを披露する。どちらも笠置シヅ子の楽曲のカヴァーで、デビュー直後、ジャニー氏から「Youたち、これ唄いなよ」と渡されたであろう曲たち。そしてまだ若かった当時は、こんな古い曲唄うのか、と正直思ったであろう楽曲。しかし今はその楽曲の良さも、彼が自分たちに唄ってほしかった気持ちもわかる。そしてその曲をそのままやるのではなく、それぞれがイメージしてリアレンジ。それは自分の成長と、ここまでやれるようになった自分たちを見て安心してほしい、という気持ちが強く込められていた。
続く「KANZAI BOYA」は剛の手による新曲だが、KinKi Kidsとしてデビューする前、ふたりにつけられていたユニット名。それをタイトルにしたファンクベースな楽曲だが、歌詞はジャニー氏との思い出を、剛らしいユーモアで描いている。基本は剛が唄っているが、最後に光一がオチをつけるような感じで入ってくるのもいい。この日はソロパートはない。必ずふたりでステージにいることが、KinKi Kidsとしてやることが、とても大切なのだ。
その象徴のような1曲が、続く「ボーダーライン」だった。これは2枚目のアルバムに収録されたもので、数少ない、光一と剛が共作した歌詞である。この曲はどうしてもやりたい、と剛が死守したというが、これと1曲目の「愛のかたまり」は、このツアーでどうしても必要だったのだろう。ふたりが出会うことで何かが生まれることを見抜いていた、彼に捧げたかったのだ。まだ若かったふたりが書いた関西弁の、ラップとも言い難いその語りは、決してカッコ良くはない。そのセリフをサンプラーに落とし、曲間のタイミングでボタンを押す。そのたびに〈とんこつ味―〉というセリフが何度も繰り返される。無邪気に何度もボタンを押す剛と「やめろや!」と優しいツッコミを入れる光一。この空気感がKinKi Kidsの魅力のひとつだ。
そしてこのあとのMCも〈ブラの気配〉だアンバサダーだでグダグダなまま続いたのだが、ここでチェンジしたふたりの衣装のTシャツには、どちらも翼が染め抜かれていた。それも光一が右、剛が左である。ふたりがひとつになって、初めて飛べる、そんなメッセージがあった。そしてそれはアンコールで披露された「ボクの背中には羽根がある」に繋がっていく。光一もそのMCで話していたように、この翼を授けてくれたのはあの人なのだ。そしてその翼はひとりひとりに授けたのではなく、ふたりでひとつの翼なんだ、ってことをこの日、改めて感じさせたのだが、ステージのふたりは〈ブラの気配〉でキャッキャキャッキャやっている。そのギャップがなんとも彼ららしい。
そんな中で披露された新曲「光の気配」。40歳となったふたりが共感できる内容のこの曲は、光一と剛、それぞれのリアルがにじみ出たこのライヴで、その心に触れたように思わされた。ここまでのふたりの人生に思いをはせていく。大切な人を失い、このような曲を手に入れ、唄うことで改めて思ったのはきっと、ふたりで歩んできた歩みの尊さであり、きっとこれからも共に歩んでいく、その覚悟であり、お互いへの感謝であったはずだ。突然飛び立ち、もう見えなくなっていった鳥の広げた翼を見て、ふたりは自分たちの背中にも翼があったことに改めて気づいたのだ。そしてそれは、ふたりでひとつの翼だ、ということも。「銀色 暗号」「恋涙」「Topaz Love」と、ここから続いた楽曲が、どれもふたりの共作曲だったことからも、そのことが伝わってきた。
そして本編ラストの「Harmony of December」。季節にあったウィンター・ソングだが、これはジャニー氏がタイトルをつけた曲であり、歌詞に羽が出てくる。その羽が向かう先は、今ここにいない人への思いと約束だ。
〈君の願い事が叶うように僕は そっと守っていくんだ〉
このフレーズが、KinKi Kidsをふたりでずっと続けていく誓いのように聴こえた。大切な人への思いは同じ。それを共有することで、光一と剛は改めて離れようがない絆を感じたのだろう。その思いを選曲に強く滲ませながら、エンターテインメントに昇華した、素晴らしいステージだった。
アンコールはその思いを直接ステージからファンに伝える。前述の「ボクの背中には羽根がある」のことを話す時も、非常に感慨深い表情をしていた。そしてラストの「YOU…〜ThanKs 2 YOU〜」。この曲は、ジャニー氏の葬儀の際、剛が滝沢秀明から、舞台でA.B.C-Zが唄う曲を書いてほしいと依頼され、形にした楽曲だ。しかしこの日披露されたのはその曲ではなく、剛が歌詞を変えて作ったKinKi Kidsヴァージョンだった。
〈君が涙を初めて見せてくれた〉
そんな描写から始まるこの歌は、光一が見せたジャニー氏への悲しみの姿を見た剛が歌詞にしたものだった。いつも完璧でいたいとする光一の、そのような感情を歌にできるのは、傍にいる剛しかいない。悲しみに暮れる姿を目の当たりにしながら、そして背中に掌の優しい気配を感じながら、ふたりはきっと、初めて出会った頃の気持ちに戻ったのだ。あれから25年以上が経ち、大人になった。しかし大切な人を失って気づいたのは、もう完璧でもない自分を、またはアイドルという虚像ではない普段の自分を、心の底から理解してくれるのは、そしてそんな姿を見せることができるのは、もう傍らにいる彼しかいない、という事実だ。そしてそのことが、お互いを素直に向き合わせたのではないだろうか。曲が終わり、手を降って去っていくふたり。オープニングで開いた幕がゆっくり閉まると、最後、そこに映し出されたのは、ジャニー氏の病室で撮られた、無防備な笑顔を見せるふたりの姿だった。
そう、KinKi Kidsは堂本光一と堂本剛なのだ。特別なものになんてならなくていい。そのままのふたりが愛しいのだから。
光の気配がしていた。その向こうに見えたのは、大切な人の存在を感じながら、ふたりで歩く未来だった。
文=金光裕史
DVD/Blu-ray『KinKi Kids Concert Tour 2019-2020 ThanKs 2 YOU』
2020.11.11 RELEASE
■初回盤(DVD/Blu-ray)
■通常盤(DVD/Blu-ray)
【DISC1】
OVERTURE
愛のかたまり
The Red Light
lOve in the φ
雪白の月
MC
Bonnie Butterfly
LOVESICK
SNOW! SNOW! SNOW!
Want You
Give me your love
MC
Happy Happy Greeting
【DISC2】
INTER
たよりにしてまっせ
買い物ブギ
KANZAI BOYA
ボーダーライン
MC
光の気配
銀色 暗号
恋涙
Topaz Love
INTER
Kissからはじまるミステリー
硝子の少年
薔薇と太陽
薄荷キャンディー
Harmony of December
〈ENCORE〉
ボクの背中には羽根がある
YOU... ~ThanKs 2 YOU~
〈SPECIAL REEL〉
FOUNTAIN SHOW
【初回DISC3】
Documentaly of ThanKs 2 YOU
【通常DISC 3】
ThanKs 2 YOU MC DIGEST
KinKi Kids オフィシャルサイト https://www.johnnys-net.jp/page?artist=8&id=artistTop