2017年に活動を開始した、男女混成5人組・Transit My Youth。インディーロックやオルタナ、エレクトロなど洋楽からの影響を感じさせるサウンドでありながら、キャッチーなメロディと、男女のツインヴォーカルが耳に残り、親しみやすさにあふれている。このたびリリースされた初の全国流通盤『怠惰と日々』は、そんなバンドの持つポップセンスが発揮された一枚だ。だが、そこには、日々の中で感じるやるせなさやモヤモヤとした感情が独り言のように並んでいる。それはなぜなのか。今回は詞曲を手掛けるモリノササイ(ヴォーカル&ギター)に初インタビューを敢行。引っ込み思案でネガティヴな性格でも、音楽を通じて世界は広がる。それに気づいたからこそ、普段胸にしまっている思いを吐き出しつつも、最後には必ず希望を見出せるのだろう。彼らの音楽はきっと、この先今よりも広い場所で鳴り響くに違いない。
モリノさんが音楽を始めようと思ったきっかけは何だったんでしょうか。
「中学3年生ぐらいの時に読んでいた、週刊少年ジャンプに『SKET DANCE』っていう漫画が載ってたんですよ。そこにピロウズの曲の歌詞が出てきて。で、歌詞がいいなと思ってCDをTSUTAYAに借りに行ったんです。それを聴いて好きになったあと、YouTubeでライヴ映像を観て〈これ、自分にもできる。バンドやりたい〉と思ったのが最初ですね」
それからバンドを始めたんですか?
「いや、学校に軽音部がなかったし、その時僕は野球部だったんです。バンドやりたいなって思い始めてから2年後ぐらいにやっとエレキギターとピロウズのバンドスコアを買って。そこで譜の読み方を覚えてコピーするようになったんですけど、初めてギターを買った年の夏休みに、1コーラスだけの曲を50曲ぐらい作ったりもして」
50曲!
「1日1コーラス作ろうみたいな。その時はもう楽しくて仕方なかったからノリノリでやってましたね」
そこまでギターだったり曲作りにのめり込んだのは何でだと思います?
「それ以外にやりたいことがなかったんでしょうね(笑)。あとは自分が作った曲を友達に聴かせたら『いいやん』って言われたんですよ。そこで〈あ、俺これでいいんや〉って思えて。野球も下手なほうでしたし、それまで何事も人に『いいやん』って言われることがなかったんですね」
初めて自分が認められたというか、そういう感覚を味わったと。
「そう。だからちょっといい気になって、音楽をガンガンやるようになったんだと思います。それに曲を書くことで人が集まってくるんじゃないか、友達できるんじゃないかと思えたんですね。もともとめちゃくちゃ人見知りで、例えば野球部の中でも隅っこで静かにしてる感じだったから」
Transit My Youthが結成されたいきさつはどういうものだったんでしょうか。
「僕が大学4回生ぐらいの時に、当時やってたバンドでベースを募集していて。そこで今はキーボードのナカヤマポンタが、僕の作った曲が好きだからベース弾きたいです!って言ってくれて。で、一緒にやろうと思った途端、そのバンドで内輪揉めが起きて空中分解してしまったんですよ。ナカヤマさんに申し訳ないし、新しいバンドをやろうと始まったのがTransit My Youthなんです。最初はナンバーガールみたいなバンドをやりたいと僕は思ってたんですけど、曲が難しくてメンバーが全然弾けなかったんですね。で、僕が当時インディーロックを聴き始めた時やったんで〈あ、これやったらできるんじゃないか〉と思って今の音楽性になっていきました」
最初にやりたいと思った音楽ができなくなったことへのジレンマはなかったですか。
「うーん。インディーロックをやろうと思ってから書いた曲がよかったんで〈こっちのほうが合ってるのかも〉と思えたんですよ。あとは自分がどうっていうより、メンバーができるかどうかを重要視していたんで」
みんなでやれることを大事にしていたんですね。
「そうです。そっちのほうが楽しくやれるし」
そこまでバンドにこだわっていたのはなぜだと思いますか。
「単純にバンドをやることって、人と一緒におる口実になるからっていうのがありますね(笑)。僕、基本的に寂しがり屋なんで、スタジオに行ったり、同じ場所に集まって誰かとやるのが好きなんですよ」
曲を作るのはモリノさんですけど、それをみんなで鳴らして「いいね」みたいなのを共有したいというか。
「そうですね」
今回のアルバム聴かせてもらいましたが、歌詞にはモリノさんが抱えている気持ちがそのまま吐露されていて、独り言みたいな感じじゃないですか。
「そうですね(笑)。ぼやきみたいな」
憂鬱な気分だったりモヤモヤとしたものが出ていて。
「うん。例えば楽しいことがあっても、〈ああ、もうすぐこれも終わっちゃうんだな〉とか、そうやってネガティヴに考えてしまう自分がいて。自分に自信もないし」
だから自然とそういう気持ちが歌詞に出てしまうと。「bad idea」では〈どうせ何も変わらない何も起こらないよ〉とありますし「ソングバード」では〈未来をただ見下す見限るフリをしてさ〉と唄っていますけど。
「めちゃくちゃ暗いですよね(笑)。音楽やってると、お金の面だったり、ライヴだったらお客さん呼ばなあかんみたいな、そういう現実的なことと向き合わなきゃいけない部分もあるじゃないですか。よくバンドマン同士で、今年結果出なかったらバンド辞めるみたいな話だったり、はよ売れなあかんみたいなことを話すこともあって。自分もそういう気持ちになることがあるんですね。高校の同級生が就職したり親戚が結婚して、〈ああ、俺はどんどん周りから置き去りにされてる〉みたいな感覚になったりもするし。このままだとヤバいって思う自分もいるけど、今は好きなことをやれているから幸せだよなって思う自分もいる。だからなんだかんだ言って音楽やるんでしょ?って自分に言い聞かせているというか」
〈なんだかんだ明日も歌うようです〉と唄っているのはそういう理由だからなんでしょうね。
「そうですね」
「怠惰と日々」に〈僕は誰かの夢や希望になれるかな?〉とありますが、そうやって悩むことがあっても、自分たちの音楽が誰かに届いた感触もあったのかなって。
「例えば自分たちよりも若いバンドに『めっちゃ聴いてました!』って言われることも出てきて。バンドを始めた頃にはそんなことが起こるなんて想像もしてなかったからめちゃくちゃ嬉しいし、ライヴハウスで僕らの演奏を観ながらめっちゃ楽しそうにお酒呑んでるお客さんの姿を見られるだけでも、バンドやってる価値があるなって思えるんですよ」
そういう喜びが必ずあると。だから〈大事なことはいつでも笑えることかもな〉って唄ってるんですかね。
「そうですね。だから〈怠惰と日々〉はすごい前向きな歌なんですよ。バンドが楽しいから〈笑えることかもな〉ってストレートに言えるんやろうし」
音楽を通せば、そうやって誰かと繋がることができると知ったから、バンドが楽しいし、続けたいって思うんじゃないかなって。
「うん。今のドラムもベースも、俺の曲がいいって言ってくれたことがきっかけで一緒にバンドをやることになったし、音楽が新しい出会いとかを導いてくれて。こんなに人との出会いが多い職業は他にないんじゃないかと思うんです。それが音楽をやってて一番いいことやなと思ってます」
今、コロナの影響でライヴがなかなかできない状況だったりしますけど、最後に今後の抱負を聞かせてください。
「リリースしたばかりなのに言うのもなんですけど、今、新しい曲を作ってて。そっちのほうが今作よりも好きですし、ちゃんと更新できてると思うんです。だから次のアルバムもめっちゃいいものになるんじゃないかなって思ってます。なので次作も楽しみにしていてほしいです(笑)」
文=青木里紗
NEW ALBUM『怠惰と日々』
2020.10.14 RELEASE
01 ソングバード
02 Good luck
03 怠惰と日々
04 like a lovesong
05 She is over(in my classroom)
06 bad idea
07 P.P.G
Transit My Youth オフィシャルサイト https://transitmyyouth.com/