『音楽と人』の編集部員がリレー形式で、自由に発信していくコーナー。エッセイ、コラム、オモシロ企画など、編集部スタッフが日々感じたもの、見たものなどを、それぞれの視点でお届けしていきます。今回は、あるお笑い動画から気づいた思いについて、ヤバイTシャツ屋さんのインタビューをしている編集者が綴ります。
この「編集部通信」というテーマがわかるようなわからない題名の、実際は編集者が交替で、テーマは自由でいいから何かエッセイ的なものを書けというタスクが要求されているコーナーの、その存在が実に疎ましい。普段から原稿を書くことが業務のひとつではあるけど、フリーフォームで自分をネタに書くことほど厄介なものはない。とりあえずはそこまで深く考えず今ハマってる音楽とか映画とか本とか好きに書けばいいような気もするけど、それを嬉々として書く無邪気さみたいなものはずいぶん前に失くしてしまった。あと〈音楽と人〉という誌面の中だからこそ言えることとか書けることがあるというか、その枠をはみ出したところで自分の嗜好やオススメを声高に叫びたいとは思わない。というかそれを書いたところで面白い読み物になる気がしない。一番イヤなのはつまらない原稿を書いてしまうことなのだ。
言い訳がましい前置きが長くなったが、とにかくこのコーナーで何を書くのか考えるのが辛くてたまらないってこと。今回も数日前からずっとネタを探してるけど思いつかず、もう締め切りだし、いい加減マジメに考えるのも嫌になった。ただ、やっぱり誌面には載せられない/書けないようなものにはしたい。繰り返すが、つまらないものは書きたくない。で、今回は「スーパーマウスホーン」について書くことにした。
スーパーマウスホーンをご存知だろうか。残念ながらバンド名でもなければ曲名でもない。つまり音楽とは無関係の話をこれからしようとしている。さらに言うと、スゲーくだらないことについてわざわざ字数を割いて述べようとしている。これが誌面だったら「紙の無駄」と叱られそうだが、ネットの場合はどうなんだろ。スマホの電池のムダとか?
お笑いコンビのチョコレートプラネットの「そろりそろり」で有名なほう、長田庄平が発明したのがスーパーマウスホーンだ。チョコプラはお笑いコンビとして個人的にはそこまで好きでもないんだが、あれは8月ぐらいだったか。お笑いバラエティに出ていた彼らのネタで登場したアイテムがスーパーマウスホーンだった。調べてみると、ボールギャグという猿ぐつわの一種と、甲高い悲鳴のような音を発するニワトリのオモチャから声帯の部分を取り出して合体させたものらしい。「画期的な発明」とネタの中で長田は言っていたが、それがどれだけ画期的であるか(?)は以下の動画を見ていただければわかるはずだ。
くだらない。このネタをひと言で言えばそれに尽きるだろう。リアクション芸でもなんでもない、このアイテムさえあれば誰でも人を笑わせることができるネタ。そういう意味では長田の言う通り確かにこれは「画期的」かもしれないし、そのぶん「お笑い芸」として評価するに値しないバカバカしいものでもある。しかし、足ツボマットに乗った瞬間の悲鳴だけでここまで笑ってしまう自分がいる。洗濯バサミで乳首を引っ張るというのちのリアクションすら想像できるネタに涙を流しながらテレビ画面に拍手喝采を贈る自分がいる。そしてふと気づいた。俺はこういう原稿を書きたいのだ。くだらなくて、バカバカしくて、価値のないもの。誰にでも書けそうで、誰にでもできそうな、それでいても腹の底から笑えるようなもの。そんなものを毎回ここで書けたらどんなに幸せだろう。そこに難しいロジックはない。思索も思惟もない、駄文と言いきれるようなしょーもないもの。それでも読んだ人が「面白かった」「読んでよかった」「退屈しのぎにはなった」と思ってくれたら、それはもう最高でしかない。よし、次の「編集部通信」はスーパーマウスホーンみたいなくだらないことを書くぞ!と決めてから24時間が経った。
結局、スーパーマウスホーンに匹敵するネタを見つけることができなかった。ゆえにこのような言い訳がましい原稿をつらつらと書いている。チョコプラはやはり超一流のお笑い芸人であることを思い知らされながら。
最後に、本当にこれはマジで伝えたいことだからマジメに書いておこう。スーパーマウスホーンのくだらなさやバカバカしさがいかに尊いものなのかを思い知った今、ヤバTというバンドがどれだけ孤高な存在であるのか、を改めて実感している。例えば「珪藻土マットが僕に教えてくれたこと」は、本当にくだらない歌だ。ギター&ヴォーカルのこやまの自宅で、酔って吐き気を催した友達がトイレに向かうも、その途中の珪藻土マットの上にドロップしてしまい、その吐瀉物を吸い込んだ珪藻土マットのことを唄った歌。自分の日常を、しかもちょっとグロい出来事をネタにしたその歌は、とてもくだらないし、バカバカしい。けど、そこには曲名にもある通り、その歌には奥行きとドラマがある。「教えてくれたこと」がその先にはあるのだ。くだらない、は素晴らしい。今後はスーパーマウスホーンや「珪藻土マット〜」を目標に、今まで以上に編集者として精進したいと思っている。
文=樋口靖幸