誰かとご飯を食べたりすることができなくても、音楽が自分の孤独を埋めるものにはなる。だから僕は、音楽を使って孤独を楽しんでるんですよ
あと思ったのは、小さいライヴバーで少人数の人たちとひっそりライヴを観てるような楽しさがあって。椅子が並んでて、そこにお客さんがポツポツいる感じとか。
「あぁ、わかりますよ。僕がよく呑みに行ってセッションとかやるバーみたいな感じ」
なんとなくだけど、世の中の端っこのほうにいる感じがしたんですよ。あの場所が。
「そうですね。ていうか今、ライヴバーとかって一番大変ですよね。世間の隅っこに追いやられてる」
大変だし、不要不急だと思われてるし、それでも無理やり営業したらバッシングもされるだろうし。で、クアトロはそういう場所じゃないんだけど、なんかそういう世界の片隅っぽい感じがあって、音楽ってそもそもこういう世の中の真ん中じゃなくて、もっと端っこのほうにあるものなんだなって思ったんですよ。
「それ、僕も前からすごく思ってますけどね。特に僕なんて世の中の一番端にいる人間なんじゃないかと。例えば去年の野音とかは2000人ぐらい来てくれた時も〈よくこんなに来てくれたな〉って思う自分がいて。でもそれと同時に〈東京に1000万人いるのに2000人しか来ないのか〉とも思ってて」
どっちの思いもあっての10年っていう時間だったと思うんですね。で、その一番大きな舞台が去年の野音で、その対極にあるのがクアトロのライヴだったというか。
「どっちでもいいんですけどね、自分からしてみれば。もちろんライヴは聴きに来てくれる人がいないと成り立たないものだけど、人数とか場所とか規模っていうのは、そこでやる音楽そのものとは関係なくて。もちろん来てくれた人には感謝してるし、その人たちには精一杯やるっていうのが前提なんだけど」
もっと言うと自分のために音楽をやってるってことで。
「そうですね。お客さんのためではないですね」
そういうさかいくんの本質みたいなのが露わになってるなって、ライヴを観ながら思ったんです。この人って周りがどうあろうと自分のために音楽をやってるんだって。
「どうなんですかね。音楽は何のためにやってるのかってことを考えないくらい、自然なこととして音楽をやってますから。そこに対する熱い思いもないし、ほっといてくれっていう気持ちすらある(笑)。でもそれじゃあ食っていけないし、僕の音楽をお金に換えてくれる組織があるんだったら、そこを通してお金に換えてるだけで(笑)」
極端に言えばそういうことだけど(笑)。
「だから僕の場合、音楽がお金に換わらなくても一生やってると思います。自分にとっての癒しですから、音楽を作ったり表現したりっていうのは。僕の中の何かを埋めてくれるものだから」
つまり音楽というのは〈自分だけのもの〉っていう感覚がさかいくんの中にあって。
「それはそうですね」
もちろん人と共有することの楽しさも知ってるから、たくさんの人に聴いてもらいたいって気持ちもあるんだろうけど。
「そうなんですけど、僕、いつでもこういうのってなくなってもいいと思ってて」
なくてもいいとは?
「取材とかテレビとかも出なくていいし、そういうことのために音楽やってるわけじゃないから。まぁ事務所が出なきゃダメだって言ってくるうちは出ますけど(笑)、そこは僕のために事務所が手を尽くしてくれてるってことなんで。でも、だからって僕はそこに対して頭を下げるような気持ちがあっても、それを言葉にはしないんですよ」
どうして?
「音楽をお金に換えるのが目的の人生じゃないから。もちろんそうなったら嬉しいし、感謝もするけど、そのために音楽をやってるわけじゃないので、そこはへりくだる必要がないと思ってて。あと、僕自身が個人主義というか組織と個人、どっちが僕にとって大事かって言ったら間違いなく個人なんですよ」
それは自分が音楽をやるうえでの話?
「音楽以外でもそうかもしれない。あえてお金の話をすると、組織ってろくなお金の使い方をしないじゃないですか。自分のお金を自分のために使うのが一番有意義な使い方で、自分のお金を他人のために使うお金も有意義だけど、それが他人のお金を他人が使うことになると怪しくなると思ってて」
でも組織ってそういうものでしょ?
「そう。だから僕、個人主義なんですよ。組織とか団体よりも個人と向き合っていたい。だから音楽もそういうものだと思ってるし」
組織に所属していようが、たくさんの人に認知される存在になろうが、音楽は一人一人のものであると。
「そっちのほうが生命力もある気がするんですよ、音楽って。ただ枚数が売れただけの音楽よりもね。どんなにたくさんの仲間に囲まれても、どんなにたくさんお金を稼いでも、人はいつか死ぬし、人間が孤独であることに変わりはないから」
そうですね。
「でも、音楽さえ残ってくれれば、自分が死んだあとも意識だけはそこに残すことができるんじゃないか?っていう淡い希望を抱いてて。誰かと話をしたりご飯を食べたりすることができなくても、音楽が自分の孤独を埋めるものにはなるというか。だから僕は、音楽を使って孤独を楽しんでるんですよ」
孤独を楽しんでる……うん、まさにそういうライヴだったと思います。
「だから世間の端っこっていう感じだったのかな」
で、その感覚がすごく心地よかったという。
「でもやけっぱちでツアーやったところも半分ありましたけどね。だって世の中と足並みを揃えてないんだから」
でもすごく楽しそうにやってたし、こっちもそれを観てて楽しくなりました。
「じゃあやってよかったんだな」
もちろん。で、さかいくんは事務所とか離れて1人になったとしても、こういうライヴをずっとどこかでやってるんだろうなって。
「バイトしながらでもやってますよ。どっかの倉庫とかで(笑)」
自分でレーベルを立ち上げるっていうのは?
「僕1人じゃ何もできないですよ。ギャラ交渉の時点で頓挫する(笑)」
はははは!
「自分でやるとしたらお店を出して、そこで演奏するとかじゃないですかね。で、たまにオーガスタの人たちにも出てもらって。安いギャラで(笑)」
文=樋口靖幸
〈さかいゆう DUO TOUR "Touch The World & More" 〉
2020.08.04 at 渋谷クラブクアトロ
【SET LIST】
01 Getting To Love You
02 She's Gettin' Married
03 孤独の天才(So What)〜 Blue in Green(cover)
04 リベルダーデのかたすみで
05 裸足の妖精
06 Laughter In The Rain(cover)
07 ジャスミン
08 鬼灯(ほおずき)
09 君と僕の挽歌
10 グッナイ・グッバイ
11 Close To You(cover)
12 21番目のGrace
ENCORE
01 Hey Gaia 〜 Superstition(cover)
02 Soul Rain
ALBUM『Touch The World』
2020.03.04 RELEASE
■初回限定盤(SHM-CD+DVD)
■通常盤(CD)
〈CD〉
1 Hey Gaia
2 Getting To Love You
3 She's Gettin' Married
4 21番目のGrace
5 孤独の天才 (So What) feat. Terrace Martin
6 裸足の妖精
7 鬼灯 feat. Nicholas Payton
8 想い出オブリガード
9 リベルダーデのかたすみで
10 Dreaming of You
11 Soul Rain
12 グッナイ・グッバイ
〈DVD〉 ※初回限定盤
・“SAKAIのJYU”@日比谷野外大音楽堂(2019年10月13日) LIVE映像 ※約66分収録
・海外レコーディング ドキュメント映像 ※約27分収録
・MUSIC VIDEO 「21番目のGrace」「Getting To Love You」「Dreaming of You」「Journey」
さかいゆう オフィシャルサイト https://www.office-augusta.com/sakaiyu/index.html