自分が持ってる価値基準っていうのは、本当に一部。あっち側から発見されるのが面白いことなんだって、作ってる側は意外とわかってない
今どれくらいSNSやってるんだっけ?
「YouTubeとTwitterとインスタでしょ? noteに、TikTokもだし、LINEブログもバンドの公式は俺が書いてて。あとMixChannelとPinterest、はてなブログ、すがちゃんねるNEWS、Radikotalkもだね」
すごすぎる(笑)。
「なんでそういう状態になってるのか簡単に言うと、ミュージシャンって、最終的に完成させた音楽だけじゃなくて、もっとシェアできるところがいっぱいあるんじゃねぇかって思ってるんですよ。例えば曲ができるまでの過程って、わりとちゃんとしたインタビューがついて、DVDのスペシャル映像になるとか、そうやって制御された形で表に出てたじゃないですか。その作業工程とか、思いついた瞬間とかを、SNSでみんながシェアして楽しむ時代になるんじゃないかと」
@sugaaachannel
曲として形になるまでの流れを。
「うん。もっと言ったら未完成なものとか、その場限りのものとか、このラーメン食ったら曲ができやすかったから週2で通ってたラーメン屋とか(笑)。そのすべてがみんなにとってのネタになるんじゃないかって。だとしたら、それをちゃんとアウトプットする進行をしないと、グチャグチャになるじゃないですか。バンドに所属してる限り、自分ひとりが勝手にブランディングするわけにはいかないから。そういうのに抵触しないためにも、ある種システマティックに、これとこれはこういうふうに結びつけて、いつ頃記事をアップするって、ちゃんとしないとダメなんですよ。絶対に続かなくなるから。その仕組みができたのがつい最近なんです(笑)」
なるほど(笑)。
「俺はミュージシャンなので、ブロガーにもTouTuberにもなる必要はないじゃないですか。音楽やってれば幸せだし、違う職業になる必要はない。ちゃんと過程をシェアしていくことができれば俺は十分であって、自分の音楽を作る時間を削ってまで投稿したらつまんなくなっちゃう。自分の許容量を超えたら大変。だからちゃんとシステム作ってやらないとって」
↓新曲「瑠璃色のキャンバス」がリリースされた日の投稿
それはつまり、音楽活動に支障がないように、動画の投稿スケジュールを管理するシステムってこと?
「そう。今ようやく、音楽活動と切り離して、生活の中で投稿する土台ができたところ。いろいろ試して、ようやくマニュアルみたいなものにしたんだけど、これがもうカオスみたいに紐づいてて。ひとつでもできなかったら壊滅する(笑)。本当はみんなにシェアできるようなやり方を見つけて、音楽と人から〈誰でもできるSNS活用術〉みたいな実用書出してもらおうと思ってたんだけど(笑)」
どこへ行くんだ(笑)。
「もはや誰にも真似できない仕様になっちゃった(笑)。過去の俺から現在の俺に、今日やることの指令が飛んでくんのよ」
どういう意味?
「ほぼ自動的にリストに上がってくんの。レコーディングやライヴのスケジュール、あとその時期の世間の行事とかまでチェックして、この頃は新生活が始まるからこういう記事があったほうがいいかなとか、ここは曲書く時期だからその前に記事貯めとかないとな、とか、俺の脳内ひとり会議室で話し合いが行われてんの。で、タスクを組むの。今の俺は何も考えてないっていうか、忘れてるんだけど、何ヵ月か前の自分から、こういうネタを書け、って指令がくる」
例えば、5月24日は松田晋二(ドラム)の誕生日だから、松田の思い出について書いたらいいなと思ったら〈松田 思い出 24日〉みたいなアラートが来て、それについて記事を書いて、タスクを達成する、ってこと?
「そういう仕組みに近い。だからさっきの20分何もしない〈世界一簡単な心の落ち着かせ方〉っていうライフハック的な動画も、コロナで不安だから上げようとしたんじゃなくて、世の中的には新生活が始まって、ちょっと疲れる時期だろうって読みがあったから、今のタイミングで出せっていう指令が俺にきたんですよ」
2年くらい前、栄純がチャットワークを勧めてきたじゃん? あれはタスク管理が可視化できて、一番上にずっとやらなきゃいけない仕事が残るから、それを消したくて終わらせようとするからやったほうがいい、って。それで導入してみたんだけど、そのタスク管理をぶっちぎっちゃう俺がいるんだよね。
「それもある。自分が自分に対して約束してるだけで、強制力がどう発生するのか、ってなるもんね。俺の場合は、システムがカオスみたいになってるって言ったじゃないですか。だから今の俺がそのルール破っちゃうと、めちゃくちゃになっちゃうんすよ(笑)。で、修復するのがすげえ面倒だから、修復するくらいだったらやったほうが早い、みたいな考え方になってる」
例えば今月号だったら、氷川きよしのインタビューは重要事項なわけ。内容の面白さや、ゲラチェックの締め切り含めて。だから全体のバランスとしては、この日までにやんなきゃ、っていうタスク管理意識はあるんだけど、もうちょっとよくなるんじゃないか……って考える時間が長くなって、どうしても引っ張る。そして後ろにしわ寄せがきて、福島大逆襲の原稿は1時間で終わらせる、という状況に陥るんだけど……。
「ははははは、わかるわかる! それはね、金光さんの原稿に対する意識が、昔の俺の楽曲へのスタンスと同じだからよ。だから動画を作ってみたほうがいいと思うよ(笑)」
どういうこと?
「自分が持ってる価値基準っていうのは、本当に一部だから。動画作ってて気づいたんだよね。自分のこの部分を切り出して見せたらウケるだろうなって思っても、実際は違うから。こないだね、動画を100本くらい大量に上げたの。それは今までツイッターで上げてて、YouTubeに上げてなかったやつを全部引っ越しさせたの。アップロードするだけで2、3日かかった(笑)。でもそれを上げてみると、この動画はウケるだろうなと思ってたのとは全然違う動画がバズってんの」
何の動画がバズってた?
「それは、将司とマツがリハスタでお遊びのセッションやってる動画で。将司がベース持って、マツがドラム叩いてるのを俺が撮った11秒くらいの、俺らからしたら日常すぎて出す価値もないと思う動画なんだけど、これがすげえ人気で(笑)」
なるほど。1時間のインタビューを10000字にまとめても、人によっては半分以上の発言がカットされてるわけで。もしかしたらその部分のほうが、読者は面白いってなるかもしれない。
「そうそう。それがわかんないじゃないですか。だからウェブの中にいくつも発表できるところを作っておいて、捨てる予定で切り分けといた原稿を置けばいいのよ。牛が1頭いたら、どこも全部食えるぞって(笑)」
はははははは。
「それをあっち側から発見される。それが面白いことなんだってことを、作ってる側は意外とわかってないんだよ」
だから最初の話に戻ると、今はコロナ禍でこうなっていて、ライヴハウスでライヴできない、これからどうしようってみんな模索してるけど、とにかくいろんな可能性を試せばいい。ライヴハウスに1人だけ呼んでやる、10人でやる、100人でやる、河原でやる、路上でやる、ホール借りて100人でやる……いろんな手法を試してみれば、これ面白い!ってなるかもしれないのに、こっち側で可能性狭めてどうする、ってことよね。
「そう。そのやり方でしか生き残る方法は見つからないと思う。とはいえバックホーンにはちゃんとファンベースがある。ファンとバックホーンで、今まで作ってきたライヴの良さみたいなものがあるから、それを否定するような動きはしたくない。60億人に向けて、バンドの生き残り方を誰が先に発見するか、みたいなことにもトライするけど、バックホーンはバックホーンの店の味があって。その店の味を捨てないほうがいい。スタンダードな、ライヴハウスでお互い汗だくになるライヴはずっとやったほうがいいと思うし」
それがしばらくできなくなるか、もしかしたらやり方を変えることになるかもしれないけど、そのよさを感じられる何かがあるはずだ、と。
「そう、何かがあればいい。汗や熱を感じる何かが。たとえばバンドが牛なら……」
また牛か(笑)。
「ライヴがいちばん美味い部位だとしても、そのライヴっていう一番美味い部位の中には、歌詞とかメンバーの人間性とか、ルックスとかギターの音、いろんなものが入ってるわけじゃん? MCとかトークとか、いろんな要素が絡み合ってライヴになってるでしょ。だからライヴはバンドにとって最高の部位だけど、それを一部分切り取るだけでも、ひと時、楽しめる要素になると思うんですよ。そう考えると、ライヴができなくなって、発信が全部止まっちゃうのは良くないよね。だったら人間性ってところからファンとの絆を確かめ続けることはできるじゃないですか。ライヴじゃなくても」
SNSで1人1人に応えることとかね。
「そう。あとなんか、絆っていうと構えちゃうかもしれないけど、その日あった何でもないことを1分くらいの動画にして、ファンの前に出すだけで、みんな安心するかもしれない。そういうことなんですよね。思ってるだけなら、何かやってみたほうがいいっていうのは」
それが何かを切り開くことになるんでしょうね。
「俺は人生を通して、音楽というひとつの道を追求するって決めてるけど、ひとつのことを追求してるからって、ひとつのことだけやる必要はないじゃん。同時にいろんなとこに、食べられるものは出していく(笑)。俺の内臓だったらホルモン屋に出して、違うところは違う店に出して、つねに出し続けて『なんかこないだ、栄純のホルモン美味いって話題になってたよ』ってなれば、それはそれでラッキーじゃないですか(笑)」
もうライヴハウスで、密着してモッシュなんてできないかもしれない。レコーディングもやり方を変える必要がある。そんな状態になってくると、イメージと違うとか、気分が乗らないとか、そんなこと言ってられないよね。
「だから音楽に関わる人全体が危機意識を共有してる今なら、音楽がやれることをこっちから発信して見せたり作ったりすることができる気がして。俺は正直、サブスクとかYouTubeに対して、音楽業界がずっと後追いだったことに、負けたなって気持ちがずっとあるんですよ。アップルがiTunesで音源のデータ販売を始めたのって、結果的にだけど、サブスクへの架け橋だったわけじゃないですか。データというスタイルに慣れてもらって、クラウド上に音楽を置けば物がなくなって便利ですよ、って啓蒙したわけじゃん。それに直面して、当時の音楽業界は『え、CD売れなくなったら大変じゃん』って方向に目を向けて、勝手にデータを流通させてるサイトを潰すとか、そういう目の前のことに躍起になって、iTunesの先にサブスクがあるってことを誰も考えてなかった。iTunesからサブスクに移行していく時も、こっち側のリテラシーが足りなくて、本当はもっと条件のいい細かい交渉ができたかもしれないのに、言われるがままそっちに移行されて。そんな状態になってから、サブスクは実入りが少ないってブーたれてても、何言ってんの?って話でさ」
そうですね。
「データ化の次はこうなるから、業界主導で音楽を流通させるメディア作ってこうぜ、お互い協力しようぜってなってたら、今さらだけど、サブスク業界ともかなり関係が変わってるはずなのに、もう絶対的な主従関係できちゃってる。それ、逆じゃん!っていつも思うんですよ。だから今がコロナですべて変わるかもしれないターニングポイントだと考えれば、ライヴをどうするか、俺たちがちゃんと考えて、次の提案をしてったほうがいいんじゃないかな」
こういう危機的な状況だからこそ、ですね。
「打開するにはどうすればいいか、いろんな動きをしているのは確かだけど、俺が重視するのはとにかくアイディア。そういうのをいっぱい出して、いっぱい失敗して、2つか3つ、うまくいきそうなアイディアがあったらそれを実践していく。それがいいと思う。今までと違うからとか、ロックバンドなのにイメージが気になるとか、そんなこと言ってたら進めるもんも進めないわけでさ。そもそもバンドやるって決めた時点で、自分にはなにもなかったし、そんなのわかってたはずじゃん」
守るものなんてなにもない、と。
「だからバンドやってるし、どうなったって俺は河原でギター弾いてるし。だったら失うもんなんてなにもねえんだから、やれること全部やっちゃいなよ、って話でさ。それだけのことですよ。ただこのコロナ禍以降、自分から発信していくスタンスは、どんな人にも強く求められていきそうな気がするけどね」
文=金光裕史
アートワーク=菅波栄純
DIGITAL SINGLE「瑠璃色のキャンバス」
2020.06.24 RELEASE
Download / Streaming https://jvcmusic.lnk.to/ruriironocanvas
特設サイト https://www.thebackhorn.com/feat/ruriiro
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