人々の興味関心が一つに偏る時に、そうじゃないことをやる。 損な役回りだけれども、でなければ均衡がとれない
新境地ですよね。初めて聴いた時カバー曲かと思ったくらいです。高橋徹也が〈いつまでもここにいるから〉という歌詞を書いたことにジンと来ました。以前は近況が追いづらくなるたび、すわ活動休止か、と不安に思ったりしていたので……。
「たしかに……リリースの間隔が空くとか、ライヴをやってもMCが無いとか、自己紹介すらしないとか、昔の楽曲をやらないとか、そういう時期を耐え忍んでくれた人たちへ向けた曲ですかね。リスナーをはじめ、三行半を突きつけなかったバンドのメンバーや、周りの友達たちへの素直な気持ちです。やっぱり自分も年齢を重ねて……たとえば、三年前に親が死んだんですよ。まぁ誰でも順番だとは思うんですが、同世代で似た経験をした友達も増えてきて。でも、それでもぶちかましていこうぜ、っていうメッセージですね」
「俺はここを出て行くぜ、どこかでまた会おう」ではなく、「人や時代がどれだけ移り変わっても、俺はここで待ってるぜ」という再会の約束。「always in the same place」に踏みとどまって、じっくり物申す、という心境でしょうか。
「今の時代、開かれているようで、すごく閉塞感がありますよね。SNSがなければ人々の心の中にしまわれていたはずの感情が表に出てきて、誰かが叩かれたり、逆に選挙の時に一人の政治家がものすごく推されたり、でも、何十万件のいいねがついても、実際の投票結果は変わらなかったり。そこに関わる膨大な自意識が怖えーな、とも思う。自分は20代中盤までそういうものが無い社会を生きていたので、この膨大なエネルギーは何だろうと、ずっと考えながら、つきあっています。だからといって、ネットは苦手だ、という方向にも逃げたくないですけどね。オヤジの説教じみたことは言いたくない。ただ、もうちょい一人一人の〈顔〉が見たいなとは思います。それも今回のアルバムの、後から出てきたテーマでしょうね。うだうだ言ってないで本性見せてみろよ、と。直球ですけど」
一方で穏やかなナンバーも。「夜はやさしく」は大変に甘いヴォーカルで、〈飽きもせずよく観た映画〉という、恋の歌に頻出するモチーフが登場します。「トワイライト」も、黄昏時、波、愛の言葉と、旧作からイメージが継承されていますね。ずっと気になっていたんですが、ラブソングはどうやって書いてらっしゃるんですか? 大変失礼ながら、毎回「こんなロマンチックなこと言う人なんだ!」と驚かされます……。
「はははは。恋愛の曲は、意外と実体験かもしれないですね。〈同じ映画二回続けて観ている僕ら〉(My Favourite Girl)も実体験です(笑)。今回は一人称も多いですし、あんまり物事を俯瞰して見ていない。〈夜はやさしく〉の〈めぐりめぐってこんがらがってゆく〉という一節は、今まで使ったことのない言葉です。いつも結構、そういうものを追うようにして書きますよ。〈トワイライト〉は、一曲くらいエロい曲を書きたいな、と思ってエレキギターの弾き語りで。〈夜のしじま〉も普段使わない言葉ですね。じつはもう一つ、同じ弾き語りで〈無口なピアノ〉という候補曲もあったんですが、自分の中で新しさがあったほうを選びました」
より新鮮なほうを、という選択はサウンドの随所にも感じられます。「醒めない夢」の凝りに凝った編曲は、10代の若者が聴いても同時代性を感じそうな、旬の勢いがありますね。
「今回のレコーディングで一番成長した曲です。もともとはボツ曲だったんですよ。長年お世話になっているベースの鹿島達也さんがリズムアレンジのアイディアを出してくれて、スタジオで一気にモノになりました。〈自分が何者か気づいたよ〉という歌詞も、久しぶりに直接的な自分語りで気恥ずかしいですね。ソロでこれだけ長くやってきて自分語りを恥ずかしがるのもどうかと思うんですけど。〈怪物〉というコンセプトと一緒に、ザ・ピロウズのライヴを観た帰りに着想した記憶があります。前作『Style』は音楽スタイルの集大成的に、やりきった感じがあったので、『怪物』ではまた違うことを……ま、いろいろ言ってますけど、同じ人間がやってるんで、心配するほど大差はないです。この点については、ザ・ピロウズの山中さわおさんと、〈『Style』よかったよ〉〈そうですか、自分としては明るくなりすぎちゃったと思うんですよね〉〈いや、高橋くん、大丈夫。心配するほど、明るくない〉と会話したことがありまして(笑)」
『怪物』も「心配するほど、物申してない」と(笑)。
「ただ、以前からアルバムタイトルが日本語の時は、よりドロッとした質感になりますね。『ある種の熱』とか、自分でもいい作品だと思う。『大統領夫人と棺』に至っては(リスナーの反響も)好きか嫌いか、どっちかしかない。英語タイトルの時はだいぶ違って、匿名性みたいなものを求めている。自分をいかに整ったものとして見せるか、という気持ちが働いている気がします」
たしかに! 『REFLECTIONS』は架空のバンド名を冠したそうですし、英語タイトルの旧譜、個々の曲が粒立って整然とした印象があります。……あれ、『ベッドタウン』は?
「あれは、日本語扱いです(笑)。で、次も日本語タイトルになりそうな気がしてるんですよね。今回もともと、弾き語りか、またはストリングスを入れて作るつもりでいたんです。でもベースの鹿島さんと話していたら『そんなしっとりやってる場合じゃないだろ』『えー』って。それがきっかけとは言いたくないですけど(笑)、だから『怪物』はバンド形態になって。近い将来、弦楽のアルバム、アカデミックなやつも作りたいですね。〈対岸〉とか、今回収録されなかった曲もあるし。それと、来年2021年は、25周年で50歳記念。そこは何かやりたいです」
そちらも楽しみです! かつて〈少し落ち込んだときにはきまってかけるレコードがある〉(Blue Song)と唄われていましたが、私にとっては高橋徹也こそがまさにそんな音楽です。ブレがちな体軸を支えて、芯を強くしてくれる言葉と音。今後もご活躍に期待しています。
「ありがとうございます。最近、音楽に求められるものが、〈癒し〉とか……当然、自分もそういうものを求めて音楽を聴いたりもしますけど、でも、全部が全部、一方向へ偏ることに違和感もあるんですよ。一人くらい怒ってる奴、物申してる奴がいたりしてもいいだろうと。社会の中で人々の興味関心が一つに偏る時に、自分はそうじゃないことをやる。損な役回りだとも思うんだけれども、こっちへ傾く人がいたら、逆側へ持っていく人もいないと、均衡がとれない。今までやってきた活動はそうで、それが自分のやるべきことで、音楽という表現が持つ、一つの大きな役割でもあるのかなと思っています」
文=岡田育
NEW ALBUM『怪物』
NOW ON SALE
01 怪物
02 ハロウィン・ベイビー
03 トワイライト
04 グッドバイ グッドバイ グッドバイ
05 醒めない夢
06 always in the same place
07 川を渡れば
08 夜はやさしく
09 feeling sad
10 友よ、また会おう
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高橋徹也 オフィシャルTwitter https://twitter.com/takatetsu_info