〈2019年プレイバック&MY BEST MUSIC〉と題したこの企画では、音楽と人にゆかりのあるミュージシャンの方々に登場いただき、今年1年間を振り返るインタビューをお届け。さらには2019年、心に響いた作品、または楽曲をセレクトしてもらい大公開していきます! 今日は、go!go!vanillasのヴォーカル牧達弥が登場! メンバーの事故&療養、そして復活という激動の1年を振り返ります。
〜牧達弥(go!go!vanillas)の2019年〜
今年を一言で言うなら〈試練の年〉、それに尽きるかな。プリティ(長谷川プリティ敬祐/ベース)が事故に遭って、それまで当たり前にあったものがなくなった時に、すごい喪失感と不安が押し寄せてきて、自分の心のピースにあいつがハマってたんだなって再確認した。バンドって、GPSも地図もない中で航海に出た昔の人たちみたいで。食料尽きたり、波に逆らえずにいろんな方向に行っちゃうこともあるかもしれないけど、そういう時に誰も知らない島にたどり着ける。そういう夢がバンドにはあるなってあらためて感じたね。
ライヴのMCとかも変わったね。俺は演技とかできないから、MCも本当に思ったことじゃないと喋れないし、何より言葉で何か伝えなきゃっていうのが他のバンドに比べてなかったんだけど、それは今考えると幸せだったんだなって。音楽で飯食えてて、好きな曲作って、それをお客さんと共有できてればもう最高じゃん。それで満足してたし、わざわざライヴで問題提起とかしたくなかったっていうのもあった。ま、それを見てた神様が、〈お前もうちょっとちゃんとしたほうがいいんじゃないか〉って試練をバーンと与えたんだろうね(笑)。今は、俺らは苦しいことを乗り越えられたからみんなも自信持ってほしい、っていう姿勢を見せられるようになった。その時の素直な感覚を大事にして、ウソじゃない言葉が自然と出てくる。それは大きな試練を越えられたからこそだね。
『音楽と人』ではずっと同世代と対談する連載をしてきたけど、平成の終わりとともに企画が一新されて、今度は年上の人たちとの対談企画になって。最初はジュエリー職人の方、2回目はサウナーのととのえ親方に登場してもらって――完全に今の俺の趣味だね(笑)。なんか、今年はプライベートが穏やかになったんだよね。石もサウナも、自分を見つめ直す時間がすごく多くて。特にサウナはスマホとか何も持ち込めないから、自分の世界に没頭できる。そこで今日1日のこととか、ライヴのことを考えてると、ネットで得たものとは違う答えに絶対行き着けるんだよ。例えば、ツイッターとか見てると今人気のバンドの名前とかバァって流れてくるじゃん。King Gnuとか、ヒゲダンとかさ。前はそこで、〈今流行ってるのは俺から出てくる感性と違うから、俺らは受け入れられないんじゃないか〉とか感じたりもしてたんだけど、そう思ってる時点で、弱気な音楽しか出てこないじゃん。それが最近は、サウナで自分の世界に没頭する中で出てきた〈これめっちゃ面白そう〉〈これめっちゃいい〉っていうアイディアをもとに新しいものを作れるようになった。ほんと迎合しなくなったなって思う、曲作りもライヴのスタイルも。
今まではバンドとして行け行け!ってケツ叩いてる感じがあったし、そうするのがいいって思ってたんだけど、今はいい意味で落ち着いてるというか、いろんなものを受け入れてる感じがあって。俺の人生で何か起きる時って、俺の準備が整った時にやってくるんだよね。2020年はバンドとしてすごく大事な年になるだろうけど、浮足立つことなく、その瞬間を迎えられる気がしてるんだ。ライヴにしても曲作りにしても、何かを過度にしちゃうと結局後悔することが多くて、自然に出てくるものをちゃんと人に伝えることができたら、それが一番響くと思うんだ。5月5日に地元の大分で初ホールライヴがあるけど、もっとパーソナルなものを感じてもらえるようにしたいね。
〜MY BEST MUSIC〜
ビリー・アイリッシュ『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』
『THE WORLD』っていうアルバムを作る時に、〈個〉と〈集合〉っていうのをすごい考えてて、個人とバンドで音楽を見た時に、正直すげえカッコいいなってバンドがあまりいなくなっちゃって。その中で、ビリー・アイリッシュは、等身大の若い子なんだけど、アイコンとしての彼女のルックスはじめ、ファッションや言動も自分の中でのルールがしっかりあって、若い子に〈私も、俺もそうなろう〉って感覚を持たせるカリスマ性みたいなものがあるんだよね。ロックスター出てきたなって思った。アルバムの中では、「when the party's over」が一番好きだな。
ボン・イヴェール『i,i』
集合のほうでいうと、ボン・イヴェール。アメリカ出身のシンガー・ソングライター、ジャスティン・ヴァーノンのソロ・プロジェクトで、ルーツにフォークがあるから昔から好きで、彼らが見せたい最先端は何なんだろうって最新作をすごい聴いてたね。フォークソングとかワールド・ミュージックには、得も知れぬ安心感とか温かさみたいなものを感じてて。そこにあるのは、木のせせらぎとか、川の音みたいなものに、人間が自然に求めるものに近い気がするんだけど。で、そこにデジタルが入ってくる必然性はなんだろうっていう答えを感じた。アナログシンセを使ったりしてて、人間の不完全さ、それゆえの気持ち良さがすごい入ってる。中でも「Hey,Ma」はぜひ聴いてほしいな。
go!go!vanillas『THE WORLD』
自分たちの固定概念を全部ぶっ壊していきたいっていうのがすごくあった作品。俺が好きだった2000年代のアーティストは、不完全なんだけど、そこがいいって感じることが多くて。ブラックミュージックのリズムの取り方とか、拍どおりじゃないからこそ生まれるグルーヴっていうのがあって。どうしてそれができるんだろうって考えると、その人のライフスタイルなんだよね。生きてる中で染み付いてきたもの。だからこそ外的なものから影響されずに自分のすべてを出していくっていうのがこのアルバムの課題で。ギターは、よっぽどミスったってもの以外は録り直したりせずに、それを使ってて。昔は超生真面目で、完璧じゃなきゃダメって思ってたけど、ちょっとよれたりしても味になればオッケーみたいな。そういうことが許せるようになったし、バンドの4人から出てくるものを大事できるようになったアルバムだね。
Information
2020年5月5日(=go!go!の日)に、牧&プリティの地元大分iichikoグランシアタにて〈go!go!vanillas presents READY STEADY go!go! vol.07 〜しゃあしい音でしんけん騒ぐで凱旋ワンマン!!〜〉開催決定。
go!go!vanillas オフィシャルHP https://gogovanillas.com/